피미행자 (被尾行者) 고사카이 후보쿠 (小酒井 不木) (1929) 일본어 원문 市内電車の隅の方に、熱心に夕刊を読んでいる鳥打帽の男の横顔に目をそそいだ瞬間、梅本清三の心臓は妙な搏(う)ち方をした。 「たしかに俺をつけているんだ」清三は蒼ざめながら考えた。「あれはきょう店へ来た男だ。主人に雇われた探偵にちがいない。主人はあの男に俺の尾行を依頼したんだ」 清三は貴金属宝石を商う金星堂の店員だった。そうして、今何気ない風を装ってうす暗い灯の下で夕刊を読んでいる男が、今日店を訪ねて、主人と奥の間で密談していたことを清三はよく知っていた。 密談! それはたしかに密談だった。あの時主人に用事があってドアの外に立った時、中でたしかに自分の名が語られているように聞えた。もとより小声でよくはわからなかったけれど、ドアをあけた時、主客が意味ありげに動かした眼と眼を見て、その推定は強められた。そう..