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  1. 2018.05.01 아그니의 신 - 일본어
  2. 2018.05.01 아그니의 신 - 한국어

아그니의 신(神)

아쿠타가와 류노스케(芥川龍之介)(1921)

일본어 원문


      一


 支那(シナ)の上海(シャンハイ)の或(ある)町です。昼でも薄暗い或家の二階に、人相の悪い印度(インド)人の婆さんが一人、商人らしい一人の亜米利加(アメリカ)人と何か頻(しきり)に話し合っていました。

「実は今度もお婆さんに、占いを頼みに来たのだがね、――」

 亜米利加人はそう言いながら、新しい巻煙草(まきたばこ)へ火をつけました。

「占いですか? 占いは当分見ないことにしましたよ」

 婆さんは嘲(あざけ)るように、じろりと相手の顔を見ました。

「この頃は折角見て上げても、御礼さえ碌(ろく)にしない人が、多くなって来ましたからね」

「そりゃ勿論(もちろん)御礼をするよ」

 亜米利加人は惜しげもなく、三百弗(ドル)の小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。

「差当りこれだけ取って置くさ。もしお婆さんの占いが当れば、その時は別に御礼をするから、――」

 婆さんは三百弗の小切手を見ると、急に愛想(あいそ)がよくなりました。

「こんなに沢山頂いては、反(かえ)って御気の毒ですね。――そうして一体又あなたは、何を占ってくれろとおっしゃるんです?」

「私(わたし)が見て貰(もら)いたいのは、――」

 亜米利加人は煙草を啣(くわ)えたなり、狡猾(こうかつ)そうな微笑を浮べました。

「一体日米戦争はいつあるかということなんだ。それさえちゃんとわかっていれば、我々商人は忽(たちま)ちの内に、大金儲(おおがねもう)けが出来るからね」

「じゃ明日(あした)いらっしゃい。それまでに占って置いて上げますから」

「そうか。じゃ間違いのないように、――」

 印度人の婆さんは、得意そうに胸を反(そ)らせました。

「私の占いは五十年来、一度も外(はず)れたことはないのですよ。何しろ私のはアグニの神が、御自身御告げをなさるのですからね」

 亜米利加人が帰ってしまうと、婆さんは次の間(ま)の戸口へ行って、

「恵蓮(えれん)。恵蓮」と呼び立てました。

 その声に応じて出て来たのは、美しい支那人の女の子です。が、何か苦労でもあるのか、この女の子の下(しも)ぶくれの頬(ほお)は、まるで蝋(ろう)のような色をしていました。

「何を愚図々々(ぐずぐず)しているんだえ? ほんとうにお前位、ずうずうしい女はありゃしないよ。きっと又台所で居睡(いねむ)りか何かしていたんだろう?」

 恵蓮はいくら叱(しか)られても、じっと俯向(うつむ)いたまま黙っていました。

「よくお聞きよ。今夜は久しぶりにアグニの神へ、御伺いを立てるんだからね、そのつもりでいるんだよ」

 女の子はまっ黒な婆さんの顔へ、悲しそうな眼を挙(あ)げました。

「今夜ですか?」

「今夜の十二時。好(い)いかえ? 忘れちゃいけないよ」

 印度人の婆さんは、脅(おど)すように指を挙げました。

「又お前がこの間のように、私に世話ばかり焼かせると、今度こそお前の命はないよ。お前なんぞは殺そうと思えば、雛(ひよ)っ仔(こ)の頸(くび)を絞めるより――」

 こう言いかけた婆さんは、急に顔をしかめました。ふと相手に気がついて見ると、恵蓮はいつか窓際(まどぎわ)に行って、丁度明いていた硝子(ガラス)窓から、寂しい往来を眺(なが)めているのです。

「何を見ているんだえ?」

 恵蓮は愈(いよいよ)色を失って、もう一度婆さんの顔を見上げました。

「よし、よし、そう私を莫迦(ばか)にするんなら、まだお前は痛い目に会い足りないんだろう」

 婆さんは眼を怒(いか)らせながら、そこにあった箒(ほうき)をふり上げました。

 丁度その途端です。誰か外へ来たと見えて、戸を叩(たた)く音が、突然荒々しく聞え始めました。


     二


 その日のかれこれ同じ時刻に、この家の外を通りかかった、年の若い一人の日本人があります。それがどう思ったのか、二階の窓から顔を出した支那人の女の子を一目見ると、しばらくは呆気(あっけ)にとられたように、ぼんやり立ちすくんでしまいました。

 そこへ又通りかかったのは、年をとった支那人の人力車夫です。

「おい。おい。あの二階に誰が住んでいるか、お前は知っていないかね?」

 日本人はその人力車夫へ、いきなりこう問いかけました。支那人は楫棒(かじぼう)を握ったまま、高い二階を見上げましたが、「あすこですか? あすこには、何とかいう印度人の婆さんが住んでいます」と、気味悪そうに返事をすると、匆々(そうそう)行きそうにするのです。

「まあ、待ってくれ。そうしてその婆さんは、何を商売にしているんだ?」

「占い者(しゃ)です。が、この近所の噂(うわさ)じゃ、何でも魔法さえ使うそうです。まあ、命が大事だったら、あの婆さんの所なぞへは行かない方が好(よ)いようですよ」

 支那人の車夫が行ってしまってから、日本人は腕を組んで、何か考えているようでしたが、やがて決心でもついたのか、さっさとその家の中へはいって行きました。すると突然聞えて来たのは、婆さんの罵(ののし)る声に交った、支那人の女の子の泣き声です。日本人はその声を聞くが早いか、一股(ひとまた)に二三段ずつ、薄暗い梯子(はしご)を駈(か)け上りました。そうして婆さんの部屋の戸を力一ぱい叩き出しました。

 戸は直ぐに開きました。が、日本人が中へはいって見ると、そこには印度人の婆さんがたった一人立っているばかり、もう支那人の女の子は、次の間へでも隠れたのか、影も形も見当りません。

「何か御用ですか?」

 婆さんはさも疑わしそうに、じろじろ相手の顔を見ました。

「お前さんは占い者だろう?」

 日本人は腕を組んだまま、婆さんの顔を睨(にら)み返しました。

「そうです」

「じゃ私の用なぞは、聞かなくてもわかっているじゃないか? 私も一つお前さんの占いを見て貰いにやって来たんだ」

「何を見て上げるんですえ?」

 婆さんは益(ますます)疑わしそうに、日本人の容子(ようす)を窺(うかが)っていました。

「私の主人の御嬢さんが、去年の春行方(ゆくえ)知れずになった。それを一つ見て貰いたいんだが、――」

 日本人は一句一句、力を入れて言うのです。

「私の主人は香港(ホンコン)の日本領事だ。御嬢さんの名は妙子(たえこ)さんとおっしゃる。私は遠藤という書生だが――どうだね? その御嬢さんはどこにいらっしゃる」

 遠藤はこう言いながら、上衣(うわぎ)の隠しに手を入れると、一挺(ちょう)のピストルを引き出しました。

「この近所にいらっしゃりはしないか? 香港の警察署の調べた所じゃ、御嬢さんを攫(さら)ったのは、印度人らしいということだったが、――隠し立てをすると為(ため)にならんぞ」

 しかし印度人の婆さんは、少しも怖(こわ)がる気色(けしき)が見えません。見えないどころか唇(くちびる)には、反って人を莫迦にしたような微笑さえ浮べているのです。

「お前さんは何を言うんだえ? 私はそんな御嬢さんなんぞは、顔を見たこともありゃしないよ」

「嘘(うそ)をつけ。今その窓から外を見ていたのは、確(たしか)に御嬢さんの妙子さんだ」

 遠藤は片手にピストルを握ったまま、片手に次の間の戸口を指さしました。

「それでもまだ剛情を張るんなら、あすこにいる支那人をつれて来い」

「あれは私の貰い子だよ」

 婆さんはやはり嘲るように、にやにや独(ひと)り笑っているのです。

「貰い子か貰い子でないか、一目見りゃわかることだ。貴様がつれて来なければ、おれがあすこへ行って見る」

 遠藤が次の間へ踏みこもうとすると、咄嗟(とっさ)に印度人の婆さんは、その戸口に立ち塞(ふさ)がりました。

「ここは私の家(うち)だよ。見ず知らずのお前さんなんぞに、奥へはいられてたまるものか」

「退(ど)け。退かないと射殺(うちころ)すぞ」

 遠藤はピストルを挙げました。いや、挙げようとしたのです。が、その拍子に婆さんが、鴉(からす)の啼(な)くような声を立てたかと思うと、まるで電気に打たれたように、ピストルは手から落ちてしまいました。これには勇み立った遠藤も、さすがに胆(きも)をひしがれたのでしょう、ちょいとの間は不思議そうに、あたりを見廻していましたが、忽ち又勇気をとり直すと、

「魔法使め」と罵(ののし)りながら、虎(とら)のように婆さんへ飛びかかりました。

 が、婆さんもさるものです。ひらりと身を躱(かわ)すが早いか、そこにあった箒(ほうき)をとって、又掴(つか)みかかろうとする遠藤の顔へ、床(ゆか)の上の五味(ごみ)を掃きかけました。すると、その五味が皆火花になって、眼といわず、口といわず、ばらばらと遠藤の顔へ焼きつくのです。

 遠藤はとうとうたまり兼ねて、火花の旋風(つむじかぜ)に追われながら、転(ころ)げるように外へ逃げ出しました。


     三


 その夜(よ)の十二時に近い時分、遠藤は独り婆さんの家の前にたたずみながら、二階の硝子窓に映る火影(ほかげ)を口惜(くや)しそうに見つめていました。

「折角御嬢さんの在(あ)りかをつきとめながら、とり戻すことが出来ないのは残念だな。一そ警察へ訴えようか? いや、いや、支那の警察が手ぬるいことは、香港でもう懲り懲りしている。万一今度も逃げられたら、又探すのが一苦労だ。といってあの魔法使には、ピストルさえ役に立たないし、――」

 遠藤がそんなことを考えていると、突然高い二階の窓から、ひらひら落ちて来た紙切れがあります。

「おや、紙切れが落ちて来たが、――もしや御嬢さんの手紙じゃないか?」

 こう呟(つぶや)いた遠藤は、その紙切れを、拾い上げながらそっと隠した懐中電燈を出して、まん円(まる)な光に照らして見ました。すると果して紙切れの上には、妙子が書いたのに違いない、消えそうな鉛筆の跡があります。


「遠藤サン。コノ家(うち)ノオ婆サンハ、恐シイ魔法使デス。時々真夜中ニ私(わたくし)ノ体ヘ、『アグニ』トイウ印度ノ神ヲ乗リ移ラセマス。私ハソノ神ガ乗リ移ッテイル間中、死ンダヨウニナッテイルノデス。デスカラドンナ事ガ起ルカ知リマセンガ、何デモオ婆サンノ話デハ、『アグニ』ノ神ガ私ノ口ヲ借リテ、イロイロ予言ヲスルノダソウデス。今夜モ十二時ニハオ婆サンガ又『アグニ』ノ神ヲ乗リ移ラセマス。イツモダト私ハ知ラズ知ラズ、気ガ遠クナッテシマウノデスガ、今夜ハソウナラナイ内ニ、ワザト魔法ニカカッタ真似(まね)ヲシマス。ソウシテ私ヲオ父様ノ所ヘ返サナイト『アグニ』ノ神ガオ婆サンノ命ヲトルト言ッテヤリマス。オ婆サンハ何ヨリモ『アグニ』ノ神ガ怖(こわ)イノデスカラ、ソレヲ聞ケバキット私ヲ返スダロウト思イマス。ドウカ明日(あした)ノ朝モウ一度、オ婆サンノ所ヘ来テ下サイ。コノ計略ノ外(ほか)ニハオ婆サンノ手カラ、逃ゲ出スミチハアリマセン。サヨウナラ」


 遠藤は手紙を読み終ると、懐中時計を出して見ました。時計は十二時五分前です。

「もうそろそろ時刻になるな、相手はあんな魔法使だし、御嬢さんはまだ子供だから、余程運が好くないと、――」

 遠藤の言葉が終らない内に、もう魔法が始まるのでしょう。今まで明るかった二階の窓は、急にまっ暗になってしまいました。と同時に不思議な香(こう)の匂(におい)が、町の敷石にも滲(し)みる程、どこからか静(しずか)に漂って来ました。


     四


 その時あの印度人の婆さんは、ランプを消した二階の部屋の机に、魔法の書物を拡(ひろ)げながら、頻(しきり)に呪文(じゅもん)を唱えていました。書物は香炉の火の光に、暗い中でも文字だけは、ぼんやり浮き上らせているのです。

 婆さんの前には心配そうな恵蓮が、――いや、支那服を着せられた妙子が、じっと椅子に坐っていました。さっき窓から落した手紙は、無事に遠藤さんの手へはいったであろうか? あの時往来にいた人影は、確に遠藤さんだと思ったが、もしや人違いではなかったであろうか?――そう思うと妙子は、いても立ってもいられないような気がして来ます。しかし今うっかりそんな気(け)ぶりが、婆さんの眼にでも止まったが最後、この恐しい魔法使いの家から、逃げ出そうという計略は、すぐに見破られてしまうでしょう。ですから妙子は一生懸命に、震える両手を組み合せながら、かねてたくんで置いた通り、アグニの神が乗り移ったように、見せかける時の近づくのを今か今かと待っていました。

 婆さんは呪文を唱えてしまうと、今度は妙子をめぐりながら、いろいろな手ぶりをし始めました。或時は前へ立ったまま、両手を左右に挙げて見せたり、又或時は後へ来て、まるで眼かくしでもするように、そっと妙子の額の上へ手をかざしたりするのです。もしこの時部屋の外から、誰か婆さんの容子を見ていたとすれば、それはきっと大きな蝙蝠(こうもり)か何かが、蒼白(あおじろ)い香炉の火の光の中に、飛びまわってでもいるように見えたでしょう。

 その内に妙子はいつものように、だんだん睡気(ねむけ)がきざして来ました。が、ここで睡ってしまっては、折角の計略にかけることも、出来なくなってしまう道理です。そうしてこれが出来なければ、勿論二度とお父さんの所へも、帰れなくなるのに違いありません。

「日本の神々様、どうか私(わたし)が睡らないように、御守りなすって下さいまし。その代り私はもう一度、たとい一目でもお父さんの御顔を見ることが出来たなら、すぐに死んでもよろしゅうございます。日本の神々様、どうかお婆さんを欺(だま)せるように、御力を御貸し下さいまし」

 妙子は何度も心の中に、熱心に祈りを続けました。しかし睡気はおいおいと、強くなって来るばかりです。と同時に妙子の耳には、丁度銅鑼(どら)でも鳴らすような、得体の知れない音楽の声が、かすかに伝わり始めました。これはいつでもアグニの神が、空から降りて来る時に、きっと聞える声なのです。

 もうこうなってはいくら我慢しても、睡らずにいることは出来ません。現に目の前の香炉の火や、印度人の婆さんの姿でさえ、気味の悪い夢が薄れるように、見る見る消え失(う)せてしまうのです。

「アグニの神、アグニの神、どうか私(わたし)の申すことを御聞き入れ下さいまし」

 やがてあの魔法使いが、床の上にひれ伏したまま、嗄(しわが)れた声を挙げた時には、妙子は椅子に坐りながら、殆(ほとん)ど生死も知らないように、いつかもうぐっすり寝入っていました。


     五


 妙子は勿論婆さんも、この魔法を使う所は、誰の眼にも触れないと、思っていたのに違いありません。しかし実際は部屋の外に、もう一人戸の鍵穴(かぎあな)から、覗(のぞ)いている男があったのです。それは一体誰でしょうか?――言うまでもなく、書生の遠藤です。

 遠藤は妙子の手紙を見てから、一時は往来に立ったなり、夜明けを待とうかとも思いました。が、お嬢さんの身の上を思うと、どうしてもじっとしてはいられません。そこでとうとう盗人(ぬすびと)のように、そっと家の中へ忍びこむと、早速この二階の戸口へ来て、さっきから透き見をしていたのです。

 しかし透き見をすると言っても、何しろ鍵穴を覗くのですから、蒼白い香炉の火の光を浴びた、死人のような妙子の顔が、やっと正面に見えるだけです。その外(ほか)は机も、魔法の書物も、床にひれ伏した婆さんの姿も、まるで遠藤の眼にははいりません。しかし嗄(しわが)れた婆さんの声は、手にとるようにはっきり聞えました。

「アグニの神、アグニの神、どうか私の申すことを御聞き入れ下さいまし」

 婆さんがこう言ったと思うと、息もしないように坐っていた妙子は、やはり眼をつぶったまま、突然口を利(き)き始めました。しかもその声がどうしても、妙子のような少女とは思われない、荒々しい男の声なのです。

「いや、おれはお前の願いなぞは聞かない。お前はおれの言いつけに背(そむ)いて、いつも悪事ばかり働いて来た。おれはもう今夜限り、お前を見捨てようと思っている。いや、その上に悪事の罰を下してやろうと思っている」

 婆さんは呆気(あっけ)にとられたのでしょう。暫くは何とも答えずに、喘(あえ)ぐような声ばかり立てていました。が、妙子は婆さんに頓着(とんじゃく)せず、おごそかに話し続けるのです。

「お前は憐(あわ)れな父親の手から、この女の子を盗んで来た。もし命が惜しかったら、明日(あす)とも言わず今夜の内に、早速この女の子を返すが好(よ)い」

 遠藤は鍵穴に眼を当てたまま、婆さんの答を待っていました。すると婆さんは驚きでもするかと思いの外(ほか)、憎々しい笑い声を洩(も)らしながら、急に妙子の前へ突っ立ちました。

「人を莫迦(ばか)にするのも、好(い)い加減におし。お前は私を何だと思っているのだえ。私はまだお前に欺される程、耄碌(もうろく)はしていない心算(つもり)だよ。早速お前を父親へ返せ――警察の御役人じゃあるまいし、アグニの神がそんなことを御言いつけになってたまるものか」

 婆さんはどこからとり出したか、眼をつぶった妙子の顔の先へ、一挺のナイフを突きつけました。

「さあ、正直に白状おし。お前は勿体(もったい)なくもアグニの神の、声色(こわいろ)を使っているのだろう」

 さっきから容子を窺っていても、妙子が実際睡っていることは、勿論遠藤にはわかりません。ですから遠藤はこれを見ると、さては計略が露顕したかと思わず胸を躍(おど)らせました。が、妙子は相変らず目蓋(まぶた)一つ動かさず、嘲笑(あざわら)うように答えるのです。

「お前も死に時が近づいたな。おれの声がお前には人間の声に聞えるのか。おれの声は低くとも、天上に燃える炎の声だ。それがお前にはわからないのか。わからなければ、勝手にするが好(い)い。おれは唯(ただ)お前に尋ねるのだ。すぐにこの女の子を送り返すか、それともおれの言いつけに背くか――」

 婆さんはちょいとためらったようです。が、忽ち勇気をとり直すと、片手にナイフを握りながら、片手に妙子の襟髪(えりがみ)を掴(つか)んで、ずるずる手もとへ引き寄せました。

「この阿魔(あま)め。まだ剛情を張る気だな。よし、よし、それなら約束通り、一思いに命をとってやるぞ」

 婆さんはナイフを振り上げました。もう一分間遅れても、妙子の命はなくなります。遠藤は咄嗟(とっさ)に身を起すと、錠のかかった入口の戸を無理無体に明けようとしました。が、戸は容易に破れません。いくら押しても、叩いても、手の皮が摺(す)り剥(む)けるばかりです。


     六


 その内に部屋の中からは、誰かのわっと叫ぶ声が、突然暗やみに響きました。それから人が床の上へ、倒れる音も聞えたようです。遠藤は殆ど気違いのように、妙子の名前を呼びかけながら、全身の力を肩に集めて、何度も入口の戸へぶつかりました。

 板の裂ける音、錠のはね飛ぶ音、――戸はとうとう破れました。しかし肝腎(かんじん)の部屋の中は、まだ香炉に蒼白い火がめらめら燃えているばかり、人気(ひとけ)のないようにしんとしています。

 遠藤はその光を便りに、怯(お)ず怯ずあたりを見廻しました。

 するとすぐに眼にはいったのは、やはりじっと椅子にかけた、死人のような妙子です。それが何故(なぜ)か遠藤には、頭(かしら)に毫光(ごこう)でもかかっているように、厳(おごそ)かな感じを起させました。

「御嬢さん、御嬢さん」

 遠藤は椅子へ行くと、妙子の耳もとへ口をつけて、一生懸命に叫び立てました。が、妙子は眼をつぶったなり、何とも口を開きません。

「御嬢さん。しっかりおしなさい。遠藤です」

 妙子はやっと夢がさめたように、かすかな眼を開きました。

「遠藤さん?」

「そうです。遠藤です。もう大丈夫ですから、御安心なさい。さあ、早く逃げましょう」

 妙子はまだ夢現(ゆめうつつ)のように、弱々しい声を出しました。

「計略は駄目だったわ。つい私が眠ってしまったものだから、――堪忍(かんにん)して頂戴よ」

「計略が露顕したのは、あなたのせいじゃありませんよ。あなたは私と約束した通り、アグニの神の憑(かか)った真似(まね)をやり了(おお)せたじゃありませんか?――そんなことはどうでも好(い)いことです。さあ、早く御逃げなさい」

 遠藤はもどかしそうに、椅子から妙子を抱き起しました。

「あら、嘘(うそ)。私は眠ってしまったのですもの。どんなことを言ったか、知りはしないわ」

 妙子は遠藤の胸に凭(もた)れながら、呟(つぶや)くようにこう言いました。

「計略は駄目だったわ。とても私は逃げられなくってよ」

「そんなことがあるものですか。私と一しょにいらっしゃい。今度しくじったら大変です」

「だってお婆さんがいるでしょう?」

「お婆さん?」

 遠藤はもう一度、部屋の中を見廻しました。机の上にはさっきの通り、魔法の書物が開いてある、――その下へ仰向(あおむ)きに倒れているのは、あの印度人の婆さんです。婆さんは意外にも自分の胸へ、自分のナイフを突き立てたまま、血だまりの中に死んでいました。

「お婆さんはどうして?」

「死んでいます」

 妙子は遠藤を見上げながら、美しい眉をひそめました。

「私、ちっとも知らなかったわ。お婆さんは遠藤さんが――あなたが殺してしまったの?」

 遠藤は婆さんの屍骸(しがい)から、妙子の顔へ眼をやりました。今夜の計略が失敗したことが、――しかしその為に婆さんも死ねば、妙子も無事に取り返せたことが、――運命の力の不思議なことが、やっと遠藤にもわかったのは、この瞬間だったのです。

「私が殺したのじゃありません。あの婆さんを殺したのは今夜ここへ来たアグニの神です」

 遠藤は妙子を抱(かか)えたまま、おごそかにこう囁(ささや)きました。

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Posted by 문학관 관리인 위어조자(謂語助者)

아그니의 신(神)

아쿠타가와 류노스케(芥川龍之介)(1921)

번역 : 홍성필


1.


 중국 샹하이에 있는 어느 마을입니다. 낮인데도 어두컴컴한 어느 집 2층에 인상이 험악한 인도인 노파 하나가 상인 같은 한 미국인과 연신 이야기하고 있었습니다.

 “사실 이번에도 할머니에게 점을 보러왔는데…….”

 미국인은 그렇게 말하면서 새 잎담배에 불을 붙였습니다.

 “점이라고요? 점은 당분간 안 치기로 했습니다.”

 노파는 비웃듯이 슬쩍 상대방 얼굴을 쳐다봤습니다.

 “요즘은 기껏 쳐줘도 사례조차 제대로 하지 않는 사람들이 많아졌거든요.”

 “그야 물론 사례는 해드리죠.”

 미국인은 아낌없이 300달러 수표를 한 장, 할머니에게 건냈습니다.

 “일단 이것만 지불해두지. 만약 할머니 점이 맞으면 그 때는 따로 사례를 할 테니까…….”

 노파는 300달러 수표를 보자 갑자기 친절해졌습니다.

 “이렇게 많이 받으면 오히려 죄송하지요. 그런데 대체 당신은 무슨 점을 봐달라는 말씀이온지?”

 “내가 원하는 건…….”

 미국인은 담배를 물자 교활한 웃음을 지었습니다.

 “대체 미일전쟁은 언제 일어나는가 하는 거요. 그것만이라도 잘 알고 있으면, 우리 상인들은 순식간에 떼돈을 벌 수 있으니 말이오.”

 “그렇다면 내일 오시오. 그 때까지 점을 쳐볼 테니.”

 “그렇군. 그럼 꼭 부탁하네.”

 인도인 노파는 자랑스럽다는 듯 가슴을 폈습니다.

 “내 점은 지난 50년 동안 한 번도 틀린 적이 없습죠. 뭐니 뭐니 해도 내게는 아그니 신이 스스로 점괘를 주시거든요.”

 미국인이 돌아가자 노파는 사랑방 입구에 서더니,

 “혜련(惠蓮)아. 혜련아.” 하고 불렀습니다.

 그 소리를 듣고 나온 것은 아름다운 중국 여자 아이였습니다. 그러나 무슨 힘든 일이라도 있는지, 부어오른 통통한 볼은 마치 촛농과도 같은 빛을 띠고 있었습니다.

 “뭘 꾸물대는 게야. 정말 너처럼 뻔뻔한 년은 없어. 분명 또 부엌에서 졸고나 있었겠지?”

 혜련은 아무리 혼이 나도 묵묵히 고개를 숙인 채로 있었습니다.

 “잘 들어라. 오늘 밤은 모처럼 아그니 신께 여쭐 것이야. 그렇게 알고 있어라.”

 여자 아이는 시커먼 할머니 얼굴 쪽으로 슬픔에 잠긴 눈을 들었습니다.

 “오늘 밤이요?”

 “오늘 밤 12시야. 알았지? 잊지 말아라.”

 인도인 노파는 협박하듯 손가락을 치켜세웠습니다.

 “또 네가 예전처럼 나한테 귀찮게 굴면 이번에야말로 네 목숨은 없는 줄 알아라. 너 같은 걸 죽이는 건 병아리 모가지를 비틀기보다…….”

 여기까지 말한 노파는 갑자기 얼굴을 찡그렸습니다. 문득 앞을 보자 혜련은 어느새 창가에 가서 마침 열려 있던 유리문으로 쓸쓸한 거리를 바라보고 있는 것입니다.

 “뭘 보고 있는 게야?”

 혜련은 사색이 되어 다시 한 번 할머니 얼굴을 올려다보았습니다.

 “그래. 알았어. 그렇게 날 바보취급 하는 걸 보니, 아직 정신을 못 차렸구나.”

 노파는 눈을 부라리며 그곳에 있던 빗자루를 집어 들었습니다.

 바로 그 순간입니다. 밖에서 누군가가 온 듯. 문을 두르리는 소리가 갑자기 거칠게 들려오기 시작하였습니다.



 2.


 그날 비슷한 시간에 그 집 바깥을 지나던 젊은 한 일본인이 있었습니다. 자신도 모르게 문득 2층 창문에서 얼굴을 내민 중국 여자아이를 한 번 보더니 잠시 동안 넋을 잃은 듯 멍하니 그 자리에 멈춰서버리고 말았습니다.

 마침 그곳을 지나던 나이 든 중국인 인력거가 있었습니다.

 “이봐, 여보게. 저기 2층에는 누가 살고 있는지, 자네 알고 있나?”

 일본인은 그 인력거 장수에게 대뜸 물었습니다. 중국인은 손잡이를 쥔 채로 높은 2층을 올려다보았습니다만, “저기 말인가요? 저기에는 뭐라고 하는 인도인 노파가 살고 있습니다.”라며 얼굴을 찡그리며 대답하자 서둘러 떠나려 하는 것이었습니다.

 “잠깐 기다려주게. 그런데 그 노파는 어떤 장사를 하고 있지?”

 “점쟁이에요. 하지만 들리는 소문에 의하면 무슨 마법까지도 쓰나봅니다. 뭐, 목숨이 아깝거든 그런 노파한테는 가지 않는 편이 좋습죠.”

 중국인 인력거가 떠나가자 일본인은 팔짱을 끼고 무언가를 생각하고 있는 것 같았습니다, 이윽고 결심이라도 섰는지 서둘러 그 집안으로 들어갔습니다. 그러자 갑자기 들러온 것은 노파의 고함소리에 섞여 중국인 여자의 우는 소리였습니다. 일본인은 그 목소리를 듣자마자 단번에 두 세 단씩 어두컴컴한 사다리를 뛰어 올라갔습니다. 그리고 노파가 있는 방문을 힘껏 두드렸습니다

 문은 바로 열렸으나 일본인이 들어가자 그 곳에는 노파가 홀로 서 있을 뿐, 이미 중국인 여자 아이는 다른 방에라도 숨었는지 흔적조차 없습니다.

 “무슨 볼 일이라도?”

 노파는 매우 수상하다는 듯이 유심히 상대방 얼굴을 쳐다보았습니다.

 “당신은 점쟁이 아닌가?”

 일본인은 팔짱을 낀 채로 노파 얼굴을 노려보았습니다.

 “그렇습니다.”

 “그렇다면 내가 온 이유 같은 건 묻지 않아도 알고 있는 게 아닌가? 나도 어디 한 번 당신 점을 보러 온 거요.”

 “무엇이 궁금하시죠?”

 노파는 더욱 수상하다는 듯한 눈빛으로 일본인을 지켜보고 있었습니다.

 “내가 모시는 주인의 따님이 작년 봄에 행방불명이 되었소. 그걸 한 번 알아봐줬으면 하는데…….”

 일본인은 한 마디 한 마디를 힘을 주며 말하는 것이었습니다.

 “내 주인은 홍콩에 계신 일본 영사님이시오. 아가씨 이름은 타에코(妙子) 씨라고 하오. 나는 엔도(遠藤)라고 하는 서생인데……어떤가? 그 아가씨는 어디 계시지?”

 엔도는 이렇게 말하면서 윗도리 안주머니에 손을 넣자 한 자루 권총을 꺼냈습니다.

 “이 주변에 계시지 않나? 홍콩 경찰서에서 조사한 바에 의하면 아가씨를 납치한 자는 인도인 같다고 하던데……숨기면 신상에 안 좋을 게야.”

 그러나 인도인 노파는 조금도 두려워하는 기색이 없습니다. 두려워하기는커녕 입가에는 오히려 사람을 조롱하듯 미소까지 띄우고 있었습니다.

 “당신 무슨 말을 하시나? 난 그런 아가씨는 얼굴도 본 적이 없다우.”

 “거짓말 말아. 지금 그 창문에서 바깥을 보고 있던 건 분명 타에코 아가씨였어.”

 엔도는 한 손에 권총을 쥐고서 다른 한 손으로 옆방 문을 가리켰습니다.

 “그래도 계속 고집을 부리면 저기 있는 중국인들 데리고 와.”

 “저건 내 양녀요.”

 노파는 역시 조소하는 피식피식 혼자 웃고 있는 것입니다.

 “양녀인지 아닌지 한 번 보면 알 수 있겠지. 네놈이 데리고 오지 않는다면 내가 저기에 가보마.”

 엔도가 옆방으로 들어서려 하자 순식간에 인도인 노파는 그 입구를 막아셨습니다.

 “여긴 내 집이야. 누군지도 모르는 당신 같은 사람한테 들여보낼 수야 있나.”

 “비켜. 비키지 않으면 쏴 죽인다.”

 엔도는 권총을 들어 올렸습니다. 아니, 들어 올리려고 했습니다. 그러나 그 순간 노파가 까마귀 울음소리 같은 것을 내자 마치 전기에 감전이라도 된 듯이 권총을 놓치고 말았습니다. 이렇게 되자 그 때까지 강경했던 엔도도 과연 놀랐겠지요. 잠시 동안은 이상하다는 듯이 주변을 돌아보았으나 곧바로 정신을 가다듬고는,

 “요망한 할멈 같으니라구.” 라고 소리치며 호랑이와도 같이 노파를 향해 덤벼들었습니다.

 그러나 노파도 가만히 있지는 않습니다. 날렵하게 몸을 피하더니 거기에 있던 빗자루를 쥐고서는 또다시 덤벼드는 엔도 얼굴을 향해 고춧가루를 뿌렸습니다. 그러자 그 고춧가루가 모두 불꽃으로 변하더니 눈이고 입이고 태우기 시작하는 것이었습니다.

 엔도는 결국 견딜 수가 없어 불꽃 질풍에 쫓기며 굴러 떨어지듯 바깥으로 도망쳐 나왔습니다.



 3.


 그날 밤 12시 경, 엔도는 홀로 노파 집앞에 머물면서 2층 유리창에 비치는 불빛을 안타까운 심정으로 바라보았습니다.

 “간신히 아가씨가 계신 곳을 찾아냈건만 구해낼 수 없다니 애석하다. 아예 경찰에 신고할까? 아니, 아냐. 중국 경찰이 허술하다는 건 홍콩에서 뼈저리게 느꼈지. 만약 다시 도망치면 또다시 찾아내기는 힘들 거야. 그렇다고 저 요망한 할멈한테는 권총도 소용없으니…….”

 엔도가 그런 생각을 하고 있자 갑자기 높은 2층 창문에서 바람에 날리며 떨어진 종잇조각이 있습니다.

 “어? 종잇조각이 떨어져왔군……. 혹시 아가씨가 보낸 편지가 아닐까?”

 이렇게 중얼거린 엔도는 그 종잇조각을 주우면서, 숨겨 두었던 회중전등을 꺼내어 동그란 빛에 비춰봤습니다. 그러자 역시 종잇조각에는 분명히 타에코 아가씨가 쓴 희미한 연필흔적이 있습니다.

 “엔도 씨. 이 집 할머니는 무서운 마법사입니다. 가끔 한밤중에 제 몸에 ‘아그니’라는 인도 신을 들게 합니다. 저는 그 신이 들렸을 때는 죽은 것처럼 되어 있습니다. 그러므로 어떤 일이 벌어질지 모르지만, 할머니한테 들은 바로는 ‘아그니’ 신이 제 입을 빌려 여러 가지 예언을 한다고 합니다. 오늘 밤에도 12시에는 할머니가 또 ‘아그니’를 불러들입니다. 평소 같으면 저는 나도 모르게 정신이 멍해져가지만 오늘은 그렇게 되기 전에 일부러 마법에 걸린 시늉을 할 겁니다. 그리고 저를 아버님께로 돌려보내지 않으면 ‘아그니’의 신이 할머니 목숨을 빼앗을 거라고 말해주겠습니다. 할머니는 누구보다도 ‘아그니’ 신을 두려워하므로 그 말을 들으면 저를 되돌려줄 것입니다. 제발 내일 아침 다시 한 번 할머니가 있는 곳에 와 주세요. 이 계략 외에 할머니 손아귀에서 벗어날 방법은 없습니다. 그럼 이만.”

 엔도는 편지를 다 읽고 나서 시계를 꺼내보았습니다. 시계는 12시 5분전이었습니다.

 “이제 서서히 시작하겠군. 상대방은 저런 마법사이고 아가씨는 아직 어리시니 좀처럼 운이 좋지 않으면…….”

 엔도의 말이 끝나기도 전에 벌써 마법이 시작되는지, 지금까지 밝았던 2층 창문은 갑자기 어두워졌습니다. 동시에 기이한 향내가 동네 길바닥까지도 스며들 정도로 어딘가에서부터 천천히 퍼져 나왔습니다.



 4.


 그 때 그 인도인 노파는 호롱불을 끈 2층 방 책상에 마법서를 펼치면서 연신 주문을 외우고 있었습니다. 책에는 향로 불빛으로 어둠 속에서도 글씨만은 희미하게 보이도록 한 것입니다.

 노파 앞에는 걱정스러운 혜련이……. 아니, 중국옷이 입혀진 타에코가 가만히 의자에 앉아 있었습니다. 방금 전 떨어뜨린 편지는 무사히 엔도 씨한테 전해졌을까? 그 때 거리에 있던 사람은 분명 엔도 씨라고 생각했는데, 혹시 다른 사람이 아니었을까……? 그런 생각을 하자 안절부절 못했습니다. 그러나 지금 실수로 노파에게 그런 눈치라도 채는 날에는 끔찍한 마법사 집에서 도망치려는 계략이 탄로나고 말 것입니다. 그러므로 타에코는 열심히 떨리는 손을 꼭 잡고는 예정대로 아그니 신이 씐 것처럼 보이게 할 기회를 불안에 떨며 기다리고 있었습니다.

 노파는 주문을 외우자 이번에는 타에코 주변을 돌며 이런저런 손짓을 하기 시작했습니다. 어떤 때는 앞에 선 채로 두 손을 좌우로 펼치기도 하고, 또 어떤 때는 뒤에 와서 마치 눈을 가리듯 조용히 타에코 이마 위에 손을 대기도 하였습니다. 만약 지금 방 바깥에서 누군가가 노파 모습을 보았다면, 그건 분명 큰 박쥐같은 것이 창백한 향로 불빛 속에서 날아다니는 것처럼 보였을 것입니다.

 그러자 타에코는 평소처럼 점점 졸음이 오기 시작했습니다. 그러나 여기서 잠이 들어버리면 계략에 걸 수도 없습니다. 그리고 노파를 속일 수 없다면 물론 두 번 다시 아버님께로 돌아갈 수 없을 것입니다.

 “일본의 하나님. 제발 제가 잠이 들지 않도록 지켜주세요. 그 대신 저는 다시 한 번, 아무리 단 한번이라도 아버님 얼굴을 뵐 수 있다면 곧바로 죽어도 좋습니다. 일본의 하나님. 제발 할머니를 속일 수 있도록 힘을 주세요.”

 타에코는 몇 번이고 마음 속으로 열심히 기도했습니다. 그러나 졸음은 점점 더 밀려올 따름이었습니다. 그와 동시에 타에코 귀에는 마치 징이라도 울리는 것처럼 정체 모를 음악소리가 희미하게 들려왔습니다. 이것은 항상 아그니 신이 하늘에서 내려올 때에 들려온 소리였던 것입니다.

 이렇게 되자 아무리 참아도 잠이 들지 않을 도리가 없습니다. 눈앞에 놓인 향로 불빛이나 인도인 노파 모습조차도 악몽이 희미해지듯 사라져가고 있었습니다.

 “아그니 신이시여, 아그니 신이시여. 부디 제 부탁들 들어주소서.”

 이윽고 마법사가 바닥 위에 엎드린 채로 쉰 목소리를 낼 때, 타에코는 의자에 앉은 채로 거의 생사도 모를 정도로 어느새 깊이 잠이 들고 있었습니다.



 5.


 타에코는 물론이고 노파조차도 이 마법을 사용하는 곳은 아무도 안 보고 있다고 생각했을 것입니다. 그러나 실제로는 방문 앞에 있는 출입문 열쇠구멍으로 훔쳐보고 있는 사람이 있었습니다. 그것은 누구였을까요. 두말할 나위 없이 서생인 엔도였습니다.

 엔도는 타에코가 쓴 편지를 읽고서 거리에 선 채로 새벽을 기다릴까도 했습니다. 그러나 아가씨 신상을 생각하자 도저히 가만히 있을 수가 없었습니다. 그리하여 결국 도둑처럼 몰래 집안으로 침입하자 곧바로 여기 2층 문 앞까지 와서 방금 전부터 몰래 훔쳐보고 있었던 것입니다.

 그러나 훔쳐본다고 해도 열쇠구멍으로 보는 것이므로 창백한 항로불빛을 받아 죽은 자와 같은 타에코 얼굴이 간신히 정면으로 보일 뿐입니다. 그 외에는 책상이나 마법서, 그리고 바닥에 엎드려 절하는 노파 모습도 전혀 엔도 눈에는 들어오지 않습니다. 하지만 쉰 노파 목소리는 너무나도 선명하게 들렸습니다.

 “아그니 신이시여, 아그니 신이시여. 부디 제 부탁들 들어주소서.”

 노파가 이렇게 말하자 숨도 안 쉬는 것처럼 앉아 있던 타에코는 역시 눈을 감은 채로 갑자기 말을 하기 시작했습니다. 더구나 그 목소리는 아무리 들어도 타에코와 같은 소녀라고는 보이지 않는, 거친 남자 목소리였던 것입니다.

 “아니야. 나는 네 소원 같은 것은 듣지 않을 것이다. 너는 내 명을 거스르고 항상 악행만 저질러 왔다. 나는 이제 오늘 밤 이후로 너를 버리려 한다. 아니, 나아가 악행에 대한 벌을 내리려고 한다.”

 노파는 놀란 듯했습니다. 잠시 아무런 대답도 하지 않은 채 신음소리만 내고 있었습니다. 그러나 이와는 상관없이 타에코는 노파에게 계속 말을 이었습니다.

 “너는 가엾은 아버지 손에서부터 이 여자 아이를 훔쳐왔다. 만약 목숨이 아깝거든 내일도 아닌 오늘 밤이 가기 전, 이 여자 아이를 돌려보내도록 하라.”

 엔도는 열쇠구멍에 눈을 댄 채로 노파의 대답을 기다리고 있었습니다. 그러자 노파는 놀라지도 않고 뜻밖에 웃음소리를 내며 갑자기 타에코 앞에 다가섰습니다.

 “사람을 놀리는 건 집어치워라. 네가 나를 누구인줄 아냐. 난 아직 너한테 속을 정도로 노망 들지는 않았다고. 어서 너를 아버지한테 돌려주라고? 경찰 관리도 아닌 아그니 신이 그런 말을 할 것 같냐?”

 노파는 어디서 났는지 눈을 감은 타에코 얼굴 앞에 한 자루 칼을 들이댔습니다.

 “자아, 솔직하게 불어. 너는 감히 아그니 신의 목소리를 쓰고 있는 게지?”

 아까부터 지켜보고 있어도 타에코가 실제로 잠을 자고 있다는 것은 물론 엔도도 알 길이 없었습니다. 그러므로 엔도는 이를 보자 계략이 탄로 난 줄로 알고 몹시 긴장했습니다. 그러나 타에코는 여전히 눈꺼풀 하나 움직이지 않고 비웃듯이 대답하는 것이었습니다.

 “너도 죽을 때가 됐나보군. 내 목소리가 네게는 인간의 목소리로 들리는가. 내 목소리는 고요해도 천상에서 타오르는 불꽃처럼 나는 소리다. 그것을 너는 알지 못하는가. 알지 못한다면 마음대로 해라. 나는 그저 네게 물을 따름이다. 곧바로 이 여자 아이를 돌려보내든지, 아니면 내 명을 거역하든지…….”

 노파는 잠시 주저한 것 같았습니다. 그러나 다시 용기를 되찾더니 한 손에 칼을 쥐면서 다른 한 손으로는 타에코의 멱살을 잡고 질질 끌어당겼습니다.

 “이 나쁜 년 같으니라고. 아직도 고집을 부리는 게냐? 그래. 알았다. 그렇다면 약속대로 단번에 죽여주마.”

 노파는 칼을 들어 올렸습니다. 이제 1분만 늦어도 타에코는 목숨을 잃습니다. 엔토는 순식간에 몸을 펴자 열쇠가 잠긴 문을 억지로 열려고 하였습니다. 그러나 문은 쉽게 열리지 않습니다. 아무리 누르고 두드려도 손가죽이 벗겨질 뿐이었습니다.



 6.


 그러는 동안에 방 안에서는 누군가의 비명소리가 갑자기 어둠 속에 울려 퍼졌습니다. 그리고는 사람이 바닥 위에 쓰러지는 소리도 들린 것 같습니다. 엔도는 거의 미친 듯이 타에코 이름을 부르며 전신의 힘을 어깨에 모아 몇 번씩이나 입구 문을 향해 돌진했습니다.

 나무 판이 깨지는 소리, 자물쇠가 떨어져 나가는 소리……문은 드디어 부서졌습니다. 그러나 막상 방 안에는 아직 향로에 창백한 불이 활활 타오르고 있을 뿐, 인기척이 없이 정적에 싸여 있습니다.

 엔도는 그 빛을 의지하며 조심스럽게 주변을 살폈습니다.

 그러자 바로 눈에 들어온 것은 역시 가만히 의자에 앉아 있는, 마치 죽은 사람과도 같은 타에코입니다. 그런데 왠지 모르게 엔도에게는 머리에서 후광이라도 비치듯이 근엄한 느낌을 불어 일으켰습니다.

 “아가씨, 아가씨.”

 엔도는 의자가 있는 곳으로 가자 타에코 귓가에 입을 대고 열심히 소리쳤습니다. 그러나 타에코는 눈을 감은 채로 아무런 말도 없습니다.

 “아가씨. 정신 차리세요. 엔도입니다.”

 타에코는 그제야 꿈에서 깨어나듯 천천히 눈을 떴습니다.

 “엔도 씨?”

 “그래요. 엔도입니다. 이제 괜찮으니 안심하세요. 자, 어서 도망칩시다.”

 타에코는 아직도 비몽사몽인 듯, 작은 목소리를 냈습니다.

 “계략은 안 됐어요. 제가 잠이 들고 말았어요……. 죄송해요.”

 “계략이 탄로 난 건 아가씨 때문이 아니에요. 아가씨는 저와 약속한 대로 아그니 신이 씐 흉내를 잘 해내셨잖아요? 아무튼 그 일은 이제 됐습니다. 어서 빨리 도망칩시다.”

 엔도는 초초한 듯이 의자에서 타에코를 일으켜 세웠습니다.

 “어머, 거짓말. 전 잠이 들었어요. 무슨 말을 했는지 알 수 없는걸요.”

 타에코는 엔도 품에 기대며 중얼거리듯 그렇게 말했습니다.

 “계략은 실패했어요. 저는 도저히 도망갈 수 없어요.”

 “그럴 리가 있나요. 저와 함께 갑시다. 이번 기회를 놓치면 큰일 납니다.”

 “하지만 할머니가 있잖아요?”

 “할머니요?”

 엔도는 다시 한 번 방 안을 살폈습니다. 책상 위에는 방금 전 그대로 마법서가 펼쳐져 있고……그 밑에 쓰러져 있는 것은 그 인도인 노파였습니다. 노파는 뜻밖에도 자기 가슴에 자기 칼이 꽂힌 채로 흥건하게 피가 고인 곳에 누워서 죽어 있었습니다.

 “할머니는 어때요?”

 “죽어 있습니다.”

 타에코는 엔도를 올려보며 아름다운 눈썹을 찌푸렸습니다.

 “전 아무 것도 몰랐어요. 할머니는 엔도 씨가……당신이 죽이신 건가요?”

 엔도는 노파 시신에서 타에코 얼굴로 눈길을 옮겼습니다. 오늘 밤 계략이 실패한 것 …… 하지만 그럼으로써 노파도 죽고 타에코도 무사히 구해낼 수 있었다는 것 …… 불가사의한 운명의 힘을 엔도가 알 수 있었던 것은 바로 이 순간이었습니다.

 “제가 죽인 건 아닙니다. 저 노파를 죽인 것은 오늘 밤 여기에 온 아그니의 신입니다.”

 엔도는 타에코를 안은 채로 이렇게 조용히 속삭였습니다.

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Posted by 문학관 관리인 위어조자(謂語助者)