겨울의 불꽃놀이(冬の花火:ふゆのはなび)

다자이 오사무(太宰 治) (1946)

일본어 원문


 人物。


数枝(かずえ)   二十九歳

睦子(むつこ)   数枝の娘、六歳。

伝兵衛(でんべえ)  数枝の父、五十四歳。

あさ   伝兵衛の後妻、数枝の継母、四十五歳。

金谷清蔵(かなやせいぞう) 村の人、三十四歳。

その他  栄一(伝兵衛とあさの子、未帰還)

     島田哲郎(睦子の実父、未帰還)

     いずれも登場せず。


 所。

津軽地方の或る部落。


 時。

昭和二十一年一月末頃より二月にかけて。



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     第一幕


舞台は、伝兵衛宅の茶の間。多少内福らしき地主の家の調度。奥に二階へ通ずる階段が見える。上手(かみて)は台所、下手(しもて)は玄関の気持。

幕あくと、伝兵衛と数枝、部屋の片隅(かたすみ)のストーヴにあたっている。


二人、黙っている。柱時計が三時を打つ。気まずい雰囲気。

突然、数枝が低い異様な笑声を発する。

伝兵衛、顔を挙げて数枝を見る。

数枝、何も言わず、笑いをやめて、てれかくしみたいに、ストーヴの傍の木箱から薪(まき)を取り出し、二、三本ストーヴにくべる。


(数枝)(両手の爪を見ながら、ひとりごとのように)負けた、負けたと言うけれども、あたしは、そうじゃないと思うわ。ほろんだのよ。滅亡しちゃったのよ。日本の国の隅(すみ)から隅まで占領されて、あたしたちは、ひとり残らず捕虜(ほりょ)なのに、それをまあ、恥かしいとも思わずに、田舎(いなか)の人たちったら、馬鹿だわねえ、いままでどおりの生活がいつまでも続くとでも思っているのかしら、相変らず、よそのひとの悪口(わるくち)ばかり言いながら、寝て起きて食べて、ひとを見たら泥棒と思って、(また低く異様に笑う)まあいったい何のために生きているのでしょう。まったく、不思議だわ。

(伝兵衛)(煙草を吸い)それはまあ、どうでもいいが、お前にいま、亭主、というのか色男というのか、そんなのがあるというのは、事実だな?

(数枝)(不機嫌になり)いいじゃあないの、そんな事は。(舌打ちをする)なんにも言わなけあよかった。

(伝兵衛) お前が言わなくたって、どこからともなくおれの耳にはいって来る。

(数枝) もったいぶらなくたって、わかっているわよ。お母さんでしょう?

(伝兵衛)(軽く狼狽(ろうばい)の気味)いや。

(数枝)(小声で早口に)そうよ、それにきまっているわ。お母さんはまた、どうして勘附いたのかしら。ばかなお母さん。


間。


(伝兵衛) あさから聞いた。しかし、あさは、決して、何も、……。

(数枝)(それを相手にせず、急に態度をかえて)お母さんは、どこへ行ったの?

(伝兵衛) 鱈(たら)を買いに行かなくちゃならんとか言っていたが。

(数枝) 睦子をおぶって?

(伝兵衛) そうだろう。

(数枝) 重いでしょうにねえ。あの子は、へんに重いのよ。いやにおばあちゃんになついてしまって、いい気になってへばりついてる。

(伝兵衛) お前の小さい時によく似ている。(改まった顔つきになり、強い語調で)あさは、あの子をほしいと言っているのだが。

(数枝)(顔をそむけ)ばかな。

(伝兵衛) いや、まじめに言ってる。まあ、聞け。あさが、ゆうべ、(かすかに苦笑を浮べて)おれにまじめに相談した事だ。栄一の事はもうあきらめている。戦地からのたよりが無くなってから、もう三年経(た)つ。あれの部隊が南方の何とやらいう小さい島を守りに行ったという事だけは、わかっているが、栄一はいま無事かどうか、さっぱりわからぬ。あきらめた、とあさは言っている。ちょうどいい具合いにお前が睦子を連れて東京から帰って来た。しかし、お前にはもう内緒の男があるらしい。またすぐ東京へ行ってしまうつもりだろう。まあ、黙って聞けよ。それはお前の勝手だ。好きなようにしたらいいだろう。しかし、睦子は置いて行ってもらえまいか。

(数枝)(また異様な笑声を発して)本気でおっしゃったの? そんな馬鹿な事を、まあ、お母さんもどうかしてるわ。もうろくしたんじゃない? ばかばかしい。

(伝兵衛) もうろくしたのかも知れない。おれだって、ばかばかしい話だと思った。しかし、あれはまじめにそんな事を考えているようだ。お前がこれから、いまのその、亭主だか色男だかのところへ引上げて行くにしても、睦子がついているんでは、この後、その男との間に面白くない事が起るかも知れない。お前もまだ若いのだから、これから子供はいくらでも出来るだろう。とにかく睦子は、この家に置いて行ってもらいたい、と言うのだが、あれとしては、いろいろ考えた末の名案のつもりなのだろう。お前のためにも、それが一ばんいいと考えているらしい。

(数枝) 余計なお世話だわ。

(伝兵衛) そうだ。余計なお世話にちがいない。しかし、お前のように、ただもう、あさを馬鹿にして、……。

(数枝)(皆まで聞かず)そんな事、そんな事ないわ。ねえ、お父さん。生みの親より育ての親、と言うでしょう? あたしの生みの母は、あたしが今の睦子よりももっと小さい時になくなって、それからずっといまのお母さんに育てられて来たのですもの、あとでひとから、あれはお前の継母(ままはは)で、弟の栄一とは腹ちがいだなんて聞かされてもあたしは平気だったわ。継母だって何だってあたしのお母さんに違いないのだし、腹ちがいでも栄一はやっぱりあたしと仲のよい弟だし、そんな事はちっともなんにも気にならなかった。だけど、あたしが女学校へ行くようになってから、何だか時々ふっと淋(さび)しく思うようになったの。だって、お母さんは、あんまりよすぎるんだもの。一つも欠点が無いんだもの。あたしがどんなわがままを言っても、また、いけない事をしても、お母さんは一度もお叱(しか)りにならず、いつも笑ってあたしを猫可愛がりに可愛がっていらっしゃる。あんな優しいお母さんてないわよ。優しすぎるわ、よすぎるわ。いつかあたしが、足の親指の爪をはがした時、お母さんは顔を真蒼(まっさお)にして、あたしの指に繃帯(ほうたい)して下さりながら、めそめそお泣きになって、あたし、いやらしいと思ったわ。また、いつだったか、あたしはお母さんに、お母さんはでも本当は、あたしよりも栄一のほうが可愛いのでしょう? ってお聞きしたら、まあ、上手に答えるじゃないの、お母さんはね、その時あたしにこう言ったの。時たまはなあ、だって。あんまり正直らしく、そうして、優しいみたいで、にくらしくなっちゃったわ。栄一にばかり、ひどく難儀な用事を言いつけて、あたしには拭(ふ)き掃除(そうじ)さえろくにさせてくれないのだもの。だからあたしも意地になって、うんと我儘(わがまま)をしようと考えたのよ。思いっきりお行儀を悪くして、いけない事ばかりしてやろうという気になっちゃったのよ。だけど、あたしはお母さんをきらいじゃないのよ。大好きなのよ。好きで好きで武者振りつきたいくらいだったわ。お母さんだって、あたしを芯(しん)から可愛かったらしいのね。あんまり可愛くて、あたしにいつも綺麗(きれい)な着物を着せて置いて、水仕事も何もさせたくなかったらしいのね。それはわかるわ。本当はね、(突然あははと異様に笑う)お母さんとあたしとは同性愛みたいだったのよ。だから、いやらしくって、にくらしくって、そうして、なんだか淋しくて、思いきり我儘して悪い事をして、そうしてお母さんと大喧嘩(おおげんか)をしたくて仕様が無かったの。

(伝兵衛)(顔をしかめて)三十ちかくにもなって、まだそんな馬鹿な事ばかり言っている。も少し、まともな話をしないか。

(数枝)(平然と)お父さんは鈍感だから何もわからないのよ。お父さんみたいなひとを、好人物、というんじゃないかしら。まるでもう無神経なのだから。(語調をかえて)でも、お母さんは昔は綺麗だったなあ。あたし、東京で十年ちかく暮して、いろんな女優やら御令嬢やらを見たけれども、うちのお母さんほど綺麗なひとを見た事が無い。あたしは昔、お母さんと二人でお風呂へはいる時、まあどんなに嬉しかったか、どんなに恥かしかったか、いま思っても胸がどきどきするくらい。

(伝兵衛) おれの前でそんなくだらない話は、するな。それで、どうなんだ? 睦子を置いて行く気か?

(数枝)(呆(あき)れた顔して)ま、お父さんまでそんな馬鹿げた、……。

(伝兵衛) しかし、男があるんだろう?

(数枝)(顔をしかめ、うつむいて)ほかに聞き方が無いの?

(伝兵衛) どんな聞き方をしたって同じじゃないか。(こみ上げて来る怒りを抑(おさ)えている態(てい)で)お前も、しかし、馬鹿な事をしたものだ。そう思わないか。

(数枝)(顔を挙げ、冷然と父の顔を見守り無言)

(伝兵衛) 小さい時から我儘で仕様がなかったけれども、しかし、こんな馬鹿な奴とは思わなかった。お前のためには、あさも、どれだけ苦労して来たかわからないのだ。お前が弘前(ひろさき)の女学校を卒業して、東京の専門学校に行くと言い出した時にも、おれは何としても反対で、気分が悪くなって寝込んでしまったが、あさはおれの寝ている枕元(まくらもと)に坐ったきりで、一生のたのみだから数枝を数枝の行きたいという学校に行かせてやってくれと頼んで泣き、おれも我(が)を折って承知した。お前は、当り前だというような顔で東京へ行き、それっきり帰って来ない。小説家だか先生だか何だか知らないが、あの島田とくっついて学校を勝手にやめて、その時からもうおれはお前を死んだものとして諦(あきら)めた。しかし、あさは一言(ひとこと)もお前の悪口を言わず、おれに隠して、こっそりあれのへそくりをお前に送り続けていたようだ。あさは、自分の着物を売ってまでもお前にお金を送っていたのだよ。睦子が生れてそれから間もなく、島田が出征して、それでもお前は、洋裁だか何だかやってひとりで暮せると言って、島田の親元のほうへも行かず、いや、行こうと思っても、島田もなかなかの親不孝者らしいから親元とうまく折合いがつかなくて、いまさら女房子供を自分の親元にあずかってもらうなんて事は出来なかったようで、それならば、おれたちのほうに泣き込んで来るのかと思っていたら、そうでもない。おれはもう、お前の顔を二度とふたたび見たくなかったので知らん振りをしていたが、あさは再三お前に、島田の留守中はこっちにいるようにと手紙を出した様子だった。それなのに、お前はひどく威張り返って、洋裁の仕事がいそがしくてとても田舎へなんか行かれぬなどという返事をよこして、どんな暮しをしていたものやら、そろそろ東京では食料が不自由になっているという噂(うわさ)を聞いてあさは、ほとんど毎日のように小包を作ってお前たちに食べ物を送ってやった。お前はそれを当り前みたいに平気で受取って、ろくに礼状も寄こさなかったようだが、しかし、あさはあれを送るのに、どんな苦労をしていたかお前には、わかるまい。一日でも早く着くようにと、必ず鉄道便で送って、そのためにあさは、いつも浪岡の駅まで歩いて行ったのだ。浪岡の駅まではここから一里ちかくもあるのだよ。冬の吹雪(ふぶき)の中も歩いて行った。六時の上(のぼ)り一番の汽車に間に合うようにと、暗いうちに起きて駅へ行く事もあった。あれはもう、朝起きてから夜眠るまで、お前たちの事ばかり考えて暮していたのだ。お前ほど仕合せな奴は無い。東京で罹災(りさい)したと言って、何の前触れも無く、にやにや笑ってこの家へやって来て、よくもまあ恥かしくもなく、のこのこ帰って来られたものだとおれは呆れてお前たちには口もききたくない気持だったが、しかし、お前もいまはおれの娘ではないんだし、島田という出征軍人の奥様なのだから、足蹴(あしげ)にして追い出すわけにもゆかず、まあ、赤の他人の罹災者をおあずかり申すつもりで、お前たちを黙ってこの家に置いてやる事にしたのだ。つけ上っては、いけない。おれには、お前たちの世話をしてやる義務もないし、お前だってこの家で我儘を言う権利などは持っていない筈(はず)だ。

(数枝)(うつむいて、けれども、はっきりと)島田は死んだようです。

(伝兵衛) そうかも知れない。しかし、まだ遺骨が来ない。お葬(とむら)いも、すんでいない。馬鹿な奴だ、お前は。いったい、いまの亭主だか何だか、それはどんな男なんだ。

(数枝) お母さんにお聞きになったらいいでしょう。なんでも知っていらっしゃるらしいから。

(伝兵衛)(無意識にこぶしを握り)まだそんな馬鹿な事を言うのか。あさは何も知ってはいない。ただお前が、こっそり誰かと文通しているらしいという事、たまにはお金も送られて来る様子だし、睦子が時々、東京のオジちゃんがどうのこうのと言うし、それは、あさでなくったって勘附くわけだ。

(数枝) でも、お父さんは知らなかったのでしょう?

(伝兵衛)(苦しそうに)夢にもそんな事を思う道理が無いじゃないか。(溜息(ためいき)をついて)お前はまあ、これからさき、どこまで堕落して行くつもりなのだ。

(数枝)(静かに)この家に置いていただけないなら、睦子を連れて東京へ帰るつもりでいます。春までこちらに置いていただき、そうしてその間に、鈴木がむこうで家を見つけるという事になっていたのですけど。

(伝兵衛) スズキというのか、その男は。

(数枝)(おとなしく)そうです。

(伝兵衛)(いかめしく)その男と一緒になってから何年になる。

(数枝)(無言)

(伝兵衛) 聞かないほうがよいのか? よし、たいていわかった。(興奮を抑えつつ静かに、しかし、音声が変っている)出て行け。いますぐ出て行け。どこへでもかまわない。出て行ってくれ。睦子を置いて、いますぐその男のところに行ってしまえ!

(数枝)(顔を挙げて)お父さん、あなたは、あたしが東京でどんな苦労をして来たか、知っていますか。


玄関のあく音。


(継母のあさの声) お利口だったねえ、お利口だったねえ。寒くっても、ちっとも泣かなかったんだものねえ。

(睦子の声) そうしてそれから、睦子なんか、うんと役に立ったね?

(あさの声) そうとも、そうとも。おばあちゃんの財布を持ってくれて落さなかったんだものねえ。ずいぶん役に立った。とっても役に立った。

(睦子の声) だからこんども、おつかいに連れて行くのね?

(あさの声) 連れて行くとも、連れて行くとも。さあ、あったしましょう。


下手(しもて)の障子をあけて、あさ、睦子登場。睦子はすぐ数枝のほうに走って行き、数枝の膝(ひざ)の上に抱かれる。


(数枝)(あさに向い、笑いながら)重かったでしょう?

(あさ)(買って来た魚のはいっている籠(かご)やら、角巻(かくまき)――津軽地方に於ける外出用の毛布――やらを上手(かみて)の台所のほうに運びながら)ああ、重かったとも何とも、石の地蔵様を背負って歩いてるみたいだったよ。(上手の障子をあけて、台所に降りて障子をしめ、あとは声のみ)このごろはどうして、なかなか悪智慧(わるぢえ)が附いてね、おんりして歩かないかって言えば、急に眠ったふりなんかしてさ、いやな子だよ。

(数枝)(睦子の手に握られてある一束(ひとたば)の線香花火に気附いて)おや、これは何? どうしたの?

(睦子) これは、玩具(おもちゃ)です。

(数枝) 玩具? (笑って)へんな玩具ねえ。おばあちゃんに買っていただいたの?

(睦子)(うなずく)

(あさ)(台所にて何かごとごと仕事をしていながら、やはり障子の蔭から声のみ)いまの子供は可哀(かわい)そうだよ。玩具らしいものを一つも売っていないんだものねえ。日の丸の小さい旗がほしいって睦子が言うんだけれどもね、ひやりとしたよ。そう言われて見ると、あの旗の玩具は、戦争中はどこの小間物屋にでも、必ずあったものなのに、このごろは影を消してしまったようだね。せめて子供にだけでも、あの旗を持たせて遊ばせてやりたいと思うんだけど、やっぱりだめなのかねえ。睦子にそこんところを何と説明してやったらいいか、おばあちゃんも困ってしまった。(ひくく笑う)線香花火だけは、たくさんお店にあってね。どういうわけかしら。どうもこのごろのお店には、季節はずれの妙な品物ばかり並んでいるよ。麦わら帽子だの、蠅(はえ)たたきだの、笑わせるじゃないか、あんなものでも買うひとがあるんだろうねえ。いまどき蠅たたきなんかを買ってどうするのだろう。

(数枝)(笑って)蠅たたきだって、羽子板のかわりくらいにはなるかも知れないわ。こんな線香花火なんかよりは、子供にはいい玩具かもわからない。(睦子の手から線香花火を取っていじりながら)冬の花火なんて、何だか気味(きび)が悪いわねえ。さっき睦子が持っているのをちらと見た時、なぜだか、ぎょっとしたわよ。

(あさ)(やわらかに)だって、他になんにも売ってなかったんだものねえ。いまの子供は、本当に可哀そうだよ。(語調をかえて)あたらしい鱈のようですけど、鱈ちりになさいますか?

(伝兵衛) 酒は、まだあるか。

(あさ)(やはり障子の蔭から)ええ、まだ少しございますでしょう。

(伝兵衛) それじゃ晩は、鱈ちりで一ぱいという事にしようか。

(数枝) あたしも、そうしよう。

(伝兵衛)(抑制を忘れ、ついに大声を発する)馬鹿野郎! どこまでお前は、ふざけやがって、(立ち上りかけ、また腰をおろして)真人間になれ!


睦子、火のついたように泣き出し、数枝の懐(ふところ)にしがみつく。数枝は、冷然たり。


(伝兵衛) お前ひとりのために、お前ひとりのために、この家が、お前ひとりのために、どれだけ、(何か呟(つぶや)きながら、泣き出す)


数枝、睦子を抱いたまま静かに立って、奥の階段のほうへ行く。


(伝兵衛)(猛然と立ち上って)待て!

(あさ)(台所から走り出て、伝兵衛を抑え)まあ、お父さん、何をなさる。

(伝兵衛) 殴らなくちゃいけねえ。正気にかえるまで殴らなくちゃいけねえ。


数枝、振り向きもせず、泣き叫ぶ睦子を抱いて、階段をのぼりはじめる。和服の裾(すそ)から白いストッキングをはいているのが見える。

伝兵衛、あがく。あさ、必死にとどめる。

――幕。


     第二幕


幕あくと、舞台はまっくら。ぱちと電燈がつく。二階の数枝の居間。数枝がいまその部屋の電燈をつけたのである。部屋には寝床が二つ。一つには、睦子が眠っている。数枝は寝巻き姿で立っていて、片手で、たったいま電燈のスイッチをひねったという形。片手を挙げてスイッチをつかんだまま、一点を凝視している。その一点とは、下手(しもて)の雨戸である。雨戸が静かにあく。雪が吹き込む。つづいて二重廻しを着た男が、うしろむきになってはいって来る。


(数枝)(ひくく、けれども鋭く)どなた? どなたです。

(男)(雨戸をしめ、二重廻しを脱ぎ、はじめてこちら向きになって、その場にきちんと坐る。村の人、金谷清蔵である)私です。かんにんして下さい。(まじめに、ちょっと頭をさげる)

(数枝)(おどろき)まあ、清蔵さん。どうなさったのです。(素早く寝巻きの上に、羽織をひっかけ、羽織紐(ひも)を結びながら、部屋の炉のところに行き、坐って)どろぼうかと思ったわ。いったい、どうしたの?

(清蔵) すみません。もういちど、私の気持を、ゆっくり聞いていただきたいと思って、お宅の前をずいぶん永い間うろついて、とうとう決心して、屋根へあがって、この二階のお部屋の雨戸に手をかけましたら、するするとあきましたので、それで、……。

(数枝)(苦笑し)とんだ鼠小僧ね。(火箸(ひばし)で埋火(うずみび)を掻(か)き集めながら)でも、田舎では、こんな事は珍らしくないんでしょう? 田舎の、普通の、恋愛形式になっているのね、きっと。夜這(よば)いとかいう事なんじゃないの?

(清蔵) とんでもない、そんな、私は、決して、そんな、失礼な。

(数枝)(笑って)いいえ、そうでなかったら、かえって失礼みたいなものだわ。屋根へあがって、二階のこの部屋へ、しかもこんな夜更(よふ)けに人を訪問するなんて、正気の沙汰じゃないわよ。

(清蔵)(いよいよ苦しげに)お願いです、からかわないで下さい。私が悪いのです。夜這いなどと言われるのは、実に心外ですが、しかし、致しかたがありません。私には、これより他に、手段が無かったのです。(顔を挙げて)数枝さん! もうこれ以上、私を苦しめるのは、やめて下さい。イエスですか、ノオですか。それを、それだけを、今夜はっきり答えて下さい。

(数枝)(顔をしかめて)あら、あなたは、お酒を飲んでいるのね。

(清蔵) 飲みました。(沈鬱に)もう、この数日間、私は酒ばかり飲んでいます。数枝さん、これも皆あなたが悪いのです。あなたさえ帰って来なかったら、ああ、つまらん、こんな事を言ったって仕様がない。数枝さん、あなたは覚えていますか、忘れたでしょうね、あなたが、女学校を卒業して東京の学校へいらっしゃる時、あの頃はちょうど雪溶(ゆきど)けの季節で路がひどく悪くて、私があなたの行李(こうり)を背負って、あなたのお母さんと三人、浪岡の駅まで歩いて行きました。路傍(みちばた)にはもう蕗(ふき)の薹(とう)などが芽を出していました。あなたは歩きながら、山辺(やまべ)も野辺(のべ)も春の霞(かすみ)、小川は囁(ささや)き、桃の莟(つぼみ)ゆるむ、という唱歌をうたって。

(数枝) ゆるむじゃないわよ。桃の莟うるむ。潤(うる)むだったわ。

(清蔵) そうでしたか。やっぱり、あの頃の事を覚えていらっしゃるのですね。それから、私たちは浪岡の駅に着いて、まだ時間がかなりあったので、私たちは駅の待合室のベンチに腰かけてお弁当をひらきました。その時、あなたのお弁当のおかずは卵焼きと金平牛蒡(きんぴらごぼう)で、私の持って来たお弁当のおかずは、筋子(すじこ)の粕漬(かすづけ)と、玉葱(たまねぎ)の煮たのでした。あなたは、私の粕漬の筋子を食べたいと言って、私に卵焼きと金平牛蒡をよこして、そうして私の筋子と玉葱の煮たのを、あなたが食べてしまいました。私もあなたの卵焼きと金平牛蒡を食べて、なんだかもうこれで、私たち二人の血がかよい合ったような気が致しました。いまここで別れても、決して別れきりになる事はないんだ、必ずまた私のところへ来て、きっと、夫婦、……ええ、そう思いましたのです。私はあの頃二十三、四になっていたでしょうか。この村では、とにかく中等学校を出ているのは、私ひとりで、あなたと一緒になれる資格のあるのは私だけだと、その前からぼんやり考えていた事でしたが、あのお弁当のおかずを取りかえて食べて、そうして、あなたのお母さんが、あなたに、清蔵さんのおかずは特別においしいようだね、と笑いながら言ったら、あなたは、だって清蔵さんはよその人じゃないんだもの、ねえ清蔵さん、と私のほうを見て妙に笑いました。覚えて、おいでですか。

(数枝)(火箸で灰を掻き撫でながら、無造作に)忘れちゃったわ。

(清蔵) そうですか。(溜息をついて)何もかも私が馬鹿だったのです。私はあの時、あなたにそう言われて、あまり嬉しくて、涙が出て、ごはんも喉(のど)にとおらなかった程だったのです。これはきっと数枝さんも、東京の学校を卒業して帰って来たら、私と一緒になるつもりなのに違いない、そうして、あなたのお母さんも、だいたいその気で居られるのだとそう思い込んでしまったのです。

(数枝) そりゃ、お母さんは、そんな気でいらっしゃったのかも知れないわ。あなたの家と私の家とは昔から親しくしているんだし、それにあなたは、お母さんのお気にいりだったし、だからあたしも、あなたを他人のようには思っていなかったんだけど、……でも、……。

(清蔵)(うなずき)そうでしょうとも、そうでしょうとも。私が馬鹿な勘違いをしたのです。けれども、数枝さん、私はそれから待ちましたよ。もうきっと、あなたと一緒になれるものと錯覚してしまって、心の中では、あなたをワイフと呼んで待っていましたのに、あなたは、あれっきりもう帰って来ない。この地方では男は二十三、四になると、たいていお嫁をもらっているのです。私にもいろんな縁談がありましたが、私は全部断りました。けれどもあなたは夏休みにも冬休みにも一こう村へ帰って来ないで、そのうちにあなたが、あなたの学校の先生で小説家でもある島田哲郎と結婚したという事を聞きました。まあ私の間(ま)の悪さはどんなだったか、察して下さい。私はそれから人が変りました。うちの精米場の手伝いもあまりしなくなりました。煙草の味も覚えました。酒を飲んで人に乱暴を働くようにもなりました。夜這いも、しました。

(数枝)(噴(ふ)き出して)嘘(うそ)、嘘。もうその辺からみんな嘘ね。男のひとって、なぜそんな見え透いた嘘をつくんだろう。ご自分の嘘がご自分に気附いていないみたいに、大まじめでそんな嘘を言ってるのね。あたしが東京へ行って、あなたの事を忘れてしまっていたように、あなただってそうなのよ。あたしと浪岡の停車場で別れてそれからずっと十年間もあたしの事ばかり思っているなんて事は、出来るわけは無いじゃありませんか。人間は皆、自分の毎日の生活に触れて来たものだけを考えて、それで一ぱいのものだわよ。自分の暮しに何の関係も無い、遠方にいる人の事なんか、たまあにはね、思い出す事もあるでしょうけど、いつのまにやら忘れてしまうものだわ。あなたがそんなにお酒を飲んだり乱暴を働いたりするようになったのは、ちっともあたしのせいじゃ無いような気がするわ。あなたには昔から、そのような素質があったなんて、そんな失礼な事はあたしは思っていないけれども、でも、それはみんなあなたの生活の環境から自然にそうなって行っただけの事じゃないの? この村で、のらくらして居れば、きっとそうなるにきまっているわ。それだけの事なのよ。あたしのせいだなんて、ひどいわ。あたしがあなたを忘れていたように、あなただって、あたしを忘れていたのよ。そうしてこんどあたしが帰って来たという事を聞いて、急に、気がかりになって、何だかあたしを憎らしくなって来たのに違いないわ。人間って、そんなものだわ。

(清蔵)(急にふてぶてしく)違うよ。その証拠には、私はいまでも独身です。いい加減に私を言いくるめようたって駄目です。私はもう、三十四になります。この地方では、三十四にもなって、独身でいると、まるでもう変り物の扱いを受けます。どこか、かたわなのではないかなどと、ひどい噂(うわさ)まで立てられます。それでも、私はあなたを忘れられなかった。あなたはもう、よそへお嫁に行ったのですし、あなたを忘れなければならぬと思っても、どうしてもそれは出来なかったのです。それには、理由があるのです。数枝さん、私は島田哲郎の小説を読んだのです。あなたの御亭主は、どんな小説を書いているのか、妙な好奇心から東京の本屋に注文して島田哲郎の新刊書を四五種類取り寄せました。取り寄せなければよかった。あれを読んで私はどんなにみじめに苦しんだか、あなたには想像もつかないでしょう。島田さんの、いや、島田の小説に出て来るさまざまの女は、何の事はない、みんなあなたです。あなたそっくりです。あのひとがあなたをどんなに可愛がっているか、また、あなたも、どんなにはり切ってあのひとに尽しているか、まざまざと私にはわかるのです。これでは私があなたを、忘れようたって忘れられないじゃありませんか。あなたが私からいくら遠く離れていたって、あの本を読めば、まるであなたたちが私の隣り部屋にでも寝起きしているように、なまなましく、やりきれない気がして来るのですもの。もう読むまいと思っても、それでも何か気がかりで、新聞などに島田の新刊書の広告などが出ていると、ついまた注文してしまって、そうして読んで、悶(もだ)えるのです。実に私は不仕合せな男です。そう思いませんか。島田の小説の中にこんな俳句がありました。白足袋(しろたび)や主婦の一日始まりぬ。白足袋や主婦の一日始まりぬ。実際、ひとを馬鹿にしている。私はあの句を読んだ時には、あなたの甲斐々々(かいがい)しく、また、なまめかしい姿がありありと眼の前に浮んで来て、いても立っても居られない気持でした。何だかもう、あなたたちにいいなぶりものにされているような気がして、仕様がありませんでした。これでは全く、酒を飲んでひとに乱暴を働きたくなるのも、もっともな事だと、そう思いませんか。いっそもう誰か田舎女(いなかおんな)をめとって、と考えた事もありましたが、白足袋や主婦の一日始まりぬ、そのあなたの美しいまぼろしが、いつも眼さきにちらついていながら、田舎女の、のろくさいおかみさん振りを眺めて暮すのは、あんまりみじめです。私もみじめですし、また、そんな事は何も知らずにどたばた立ち働いているその田舎女にも気の毒です。数枝さん、私はあなたのためにもう一生、妻をめとられない男になりました。島田の出征の事は、私は少しも知りませんでした。島田の小説がこの数年来ちっとも発表されなくなったのも、この大戦で、小説家たちも軍需工場か何かに進出して行かざるを得なくなったからだろうくらいに考えていました。しかし、新作の小説が出なくても、私の手許(てもと)には、以前の島田の本が何冊も残っています。あまりのろわしくて、焼いてしまおうかと思った事もありましたが、何だかそれは、あなたのからだを焼くような気がして、とても私には出来ませんでした。あの島田の本を、憎んでいながら、それでも、その本の中のあなたが慕わしくて、私は自分の手許から離す事が出来なかったのです。この十年間、あなたはいつも私の傍にいたのです。白足袋や主婦の一日始まりぬ。あなたのその綺麗な姿が、朝から晩まで、私の身のまわりにちらちら動いて、はたらいているのです。忘れようたって、とても駄目です。そこへ突然、あなたが帰って来られた。聞けば島田は、もうずっと前に出征して、そうしてどうやら戦死したらしいという事で、私は、……。

(数枝) それからあとは言えないでしょうね。あなたはもう、あたしが帰って来てから、二、三箇月間は朝から晩までこの家にいりびたりで、あたしのお父さんもお母さんもあんな気の弱い人たちばかりだから、あなたに来るなとも言えないで、ずいぶん困っているようだったから、あたしがあなたのお家へ行って、(言いながら、ふと畳の上に落ち散らばっている線香花火に目をとどめ、一本ひろってそれに火をつける。線香花火がパチパチ燃える。その火花を見つめながら)あなたのお母さんと、あなたの妹さんと、それからあなたと三人のいらっしゃる前で、あんなにしょっちゅうおいでになっては、ひとからへんな噂を立てられるにきまっているから、もうおいでにならないようにと申し上げて、それからぱったりあなたもおいでにならなくなって、(花火消える。別な一本を拾って、点火する)ほっとしていたら、こないだ突然あんな、いやらしい手紙を寄こして、本当に、あなたも変ったわね。村でもあなたは、ひどく評判が悪いようじゃないの。

(清蔵) いやらしくても何でも仕方がありません。私はあの手紙は、泣きながら書きました。男一匹、泣きながら書きました。きょうは、あの手紙の返事を聞きに来ました。イエスですか、ノオですか。それだけを聞かして下さい。きざなようですけれども、(ふところから、手拭いに包んだ出刃庖丁(でばぼうちょう)を出し、畳の上に置いて、薄笑いして)今夜は、こういうものを持って来ました。そんな花火なんかやめて、イエスかノオか、言って下さい。

(数枝)(花火が消えると、また別の花火を拾って点火する。以後も同様にして、五、六本ちかく続ける)この花火はね、二、三日前にあたしのお母さんが、睦子に買って下さったものなんですけど、あんな子供でも、ストーヴの傍でパチパチ燃える花火には、ちっとも興味が無いらしいのよ。つまらなそうに見ていたわ。やっぱり花火というものは、夏の夜にみんな浴衣(ゆかた)を着て庭の涼台(すずみだい)に集って、西瓜(すいか)なんかを食べながらパチパチやったら一ばん綺麗に見えるものなのでしょうね。でも、そんな時代は、もう、永遠に、(思わず溜息をつく)永遠に、来ないのかも知れないわ。冬の花火、冬の花火。ばからしくて間(ま)が抜けて、(片手にパチパチいう花火を持ったまま、もう一方の手で涙を拭く)清蔵さん、あなたもあたしも、いいえ、日本の人全部が、こんな、冬の花火みたいなものだわ。

(清蔵)(気抜けした態で)それは、どんな意味です。

(数枝) 意味も何もありやしないわ。見ればわかるじゃないの。日本は、もう、(突然、花火をやめて、袖(そで)で顔を覆う)何もかも、だめなのだわ。(袖から顔を半分出し、嗚咽(おえつ)しながら少し笑い)そうして、あたしも、もうだめなのだわ。どんなにあがいて努めても、だめになるだけなのだわ。

(清蔵)(何か勘違いしたらしく、もぞりと一膝(ひざ)すすめて)そう、そうです。このままでは、だめです。思い切って生活をかえる事です。睦子さんひとりくらいは立派に私が引受けて見せます。私の家はご承知のようにこのへんでたった一軒の精米屋ですから、米のほうは、どんなにしたってやりくりがつくのです。いまは精米屋が一ばんです。地主よりも誰よりも米の自由がきくのです。

(数枝)(全然それを聞いていない様子で、膝の上で袖の端をいじりながら)いつから日本の人が、こんなにあさましくて、嘘つきになったのでしょう。みんなにせものばかりで、知ったかぶってごまかして、わずかの学問だか主義だかみたいなものにこだわってぎくしゃくして、人を救うもないもんだ。人を救うなんて、まあ、そんなだいそれた、(第一幕に於けるが如き低い異様な笑声を発する)図々(ずうずう)しいにもほどがあるわ。日本の人が皆こんなあやつり人形みたいなへんてこな歩きかたをするようになったのは、いつ頃からの事かしら。ずっと前からだわ。たぶん、ずっとずっと前からだわ。

(清蔵)(たじろぎながら)それは、本当に、都会の人はそうでしょう。まったく、そうでしょう。しかし、田舎者の純情は、昔も今も同じです。数枝さん、(へんに笑い、また少し膝をすすめる)昔の事を思い出して下さい。私とあなたは、もうとうの昔から結ばれていたのです。どうしても一緒になるべき間柄だったのです。数枝さん、思い出して下さい。さすがに私もいままで、この事だけは恥かしくて言いかねていたのですが、数枝さん、私たちは小さい時に、あなたの家の藁小屋(わらごや)の藁にもぐって遊んだ事がありました。あの時の事を、よもや忘れてはいないでしょう? あなたは、女学校へはいるようになったら、もう、私とあんな事があったのをすっかり忘れてしまったような顔をしていましたが、あなたは、あの時から、私のところにお嫁に来なければならなくなっていたのです。私も童貞を失い、あなたも処女を。

(数枝)(驚愕(きょうがく)して立ち上り)まあ、あなたは何という事をおっしゃるのです。まるでそれではごろつきです。何の純情なものですか。あなたのような人こそ、悪人というのです。帰って下さい。お帰りにならなければ、人を呼びます。

(清蔵)(すっかり悪党らしく落ちつき)静かにしなさい。(出刃庖丁をちょっと持ち上げて見せて、軽く畳の上に投げ出し)これが見えませんか。今夜は、私も命がけです。いつまでも、そうそうあなたにからかわれていたくありません。イエスですか、ノオですか。

(数枝) よして下さい、いやらしい。女が、そんな、子供の頃のささいな事で一生ひとから攻められなければならないのでしたら、女は、あんまり、みじめです。ああ、あたしはあなたを殺してやりたい。(清蔵のほうを向きながら二、三歩あとずさりして、突然、うしろ手で背後の襖(ふすま)をあける。襖の外は階段の上り口。そこに、あさが立っている。数枝、そこにあさが立っているのを先刻より承知の如く、やはり清蔵のほうを見ながら)お母さん! たのむわ。この男を、帰らせてよ。毛虫みたいな男だわ。あたしはもう、口をきくのもいや。殺してやりたい。

(清蔵)(あさの立っているのを見て驚き)やあ、お母さん、あなたはそこにいたのですか。(急にはにかみ、畳の上の出刃庖丁をそそくさと懐(ふところ)にしまいこみ)失礼しました。帰りましょう。(立ち上り、二重廻しを着る)

(あさ)(おどおど部屋にはいり、清蔵の傍に寄り、清蔵が二重廻しを着るのにちょっと手伝い、おだやかに)清蔵さん、早くお嫁をもらいなさい。数枝には、もう、……。

(数枝)(小声で鋭く)お母さん! (言うなと眼つきで制する)

(清蔵)(はっと気附いた様子で)そうですか。数枝さん、あなたもひどい女だ。(にやりと笑って)凄(すご)い腕だ。おそれいりましたよ。私が毛虫なら、あなたは蛇(へび)だ。淫乱(いんらん)だ。女郎だ。みんなに言ってやる。ようし、みんなに言ってやる。(身をひるがえして、背後の雨戸をあける。どっと雪が吹き込む)

(あさ)(低く、きっぱりと)清蔵さん、お待ちなさい。(清蔵に抱きつくようにして、清蔵のふところをさぐり、出刃庖丁を取り出し、逆手に持って清蔵の胸を刺さんとする)

(清蔵)(間一髪にその手をとらえ)何をなさる。気が狂ったか、糞婆(くそばばあ)め。(庖丁を取り上げ、あさを蹴倒(けたお)し、外にのがれ出る。どさんと屋根から下へ飛び降りる音が聞える)

(数枝)(あさに武者振りついて)お母さん! つらいわよう。(子供のように泣く)

(あさ)(数枝を抱きかかえ)聞いていました。立聞きして悪いと思ったけど、お前の身が案じられて、それで、……(泣く)

(数枝) 知っていたわよう。お母さんは、あの襖の蔭で泣いていらした。あたしには、すぐにわかった。だけどお母さん、あたしの事はもう、ほっといて。あたしはもう、だめなのよ。だめになるだけなのよ。一生、どうしたって、幸福が来ないのよ。お母さん、あたしを東京で待っているひとは、あたしよりも年がずっと下のひとだわ。

(あさ)(おどろく様子)まあ、お前は。(数枝をひしと抱きかかえ)仕合せになれない子だよ。

(数枝)(いよいよ泣き)仕様が無いわ。仕様が無いわ。あたしと睦子が生きて行くためには、そうしなければいけなかったのよ。あたしが、わるいんじゃないわよ。あたしが、わるいんじゃないわよ。


雪が間断なく吹き込む。その辺の畳も、二人の髪、肩なども白くなって行く。

――幕。


     第三幕


舞台は、伝兵衛宅の奥の間。正面は堂々たる床の間だが、屏風(びょうぶ)が立てられているので、なかば以上かくされている。屏風はひどく古い鼠色(ねずみいろ)になった銀屏風。しかし、破れてはいない。上手(かみて)は障子。その障子の外は、廊下の気持。廊下のガラス戸から朝日がさし込み、障子をあかるくしている。下手(しもて)は襖(ふすま)。

幕あくと、部屋の中央にあさの病床。あさは、障子のほうを頭にして仰向に寝ている。かなりの衰弱。眠っている。枕元(まくらもと)には薬瓶(くすりびん)、薬袋、吸呑(すいの)み、その他。病床の手前には桐(きり)の火鉢(ひばち)が二つ。両方の火鉢にそれぞれ鉄瓶がかけられ、湯気が立っている。数枝、障子に向った小机の前に坐って、何か手紙らしいものを書いている。


第二幕より、十日ほど経過。


数枝、万年筆を置いて、机に頬杖(ほおづえ)をつき障子をぼんやり眺め、やがて声を立てずに泣く。

間。

あさ、眠りながら苦しげに呻(うめ)く。呻きが、つづく。


(数枝)(あさのほうを見て、机上の書きかけの手紙を畳んでふところにいれ、それから、立ってあさのほうへ行き、あさをゆり起し)お母さん、お母さん。

(あさ) ああ、(と眼ざめて深い溜息(ためいき)をつく)ああ、お前かい。

(数枝) どこか、お苦しい?

(あさ) いいえ、(溜息)何だかいやな、おそろしい夢を見て、……(語調をかえて)睦子は?

(数枝) けさ早く、おじいちゃんに連れられて弘前(ひろさき)へまいりました。

(あさ) 弘前へ? 何しに?

(数枝) あら、ご存じ無かったの? きのう来ていただいたお医者さんは、弘前の鳴海(なるみ)内科の院長さんよ。それでね、お父さんがきょう、鳴海先生のとこへお薬をもらいに行ったの。

(あさ) 睦子がいないと、淋(さび)しい。

(数枝) 静かでかえっていいじゃないの。でも、子供ってずいぶん現金なものねえ。おばあちゃんが御病気になったら、もうちっともおばあちゃんの傍には寄りつかず、こんどはやたらにおじいちゃんにばかり甘えて、へばりついているのだもの。

(あさ) そうじゃないよ。それはね、おじいちゃんが一生懸命に睦子のご機嫌(きげん)をとったから、そうなったのさ。おじいちゃんにして見れば、ここは何としても睦子を傍に引寄せていたいところだろうからね。

(数枝) あら、どうして? (火鉢に炭をついだり、鉄瓶に水をさしたり、あさの掛蒲団(かけぶとん)を直してやったり、いろいろしながら気軽い口調で話相手になってやっている)

(あさ) だって、あたしがいなくなった後でも、睦子がおじいちゃんになついて居れば、お前だって、東京へ帰りにくくなるだろうからねえ。

(数枝)(笑って)まあ、へんな事を言うわ。よしましょう、ばからしい。林檎(りんご)でもむきましょうか。お医者さんはね、何でも食べさえすれば、よくなるとおっしゃっていたわよ。

(あさ)(幽(かす)かに首を振り)食べたくない。なんにもいただきたくない。きのう来たお医者さんは、あたしの病気を、なんと言っていたの?

(数枝)(すこし躊躇(ちゅうちょ)して、それから、はっきりと)胆嚢炎(たんのうえん)、かも知れないって。この病気は、お母さんのように何を食べてもすぐ吐くのでからだが衰弱してしまって、それで危険な事があるけれども、でも、いまに食べものがおなかにおさまるようになったら、一週間くらいでよくなると言っていました。

(あさ)(薄笑いして)そうだといいがねえ。あたしは、もうだめなような気がするよ。その他にも何か病気があるんだろう? 手足がまるで動かない。

(数枝) そりゃお医者に見せたら、達者な人でも、いろんな事を言われるんだもの、それをいちいち気にしていたら、きりが無いわ。

(あさ) なんと言ったのだい。

(数枝) いいえ、何でも無いのよ。ただね、軽い脳溢血(のういっけつ)の気味があるようだとか、それから、脈がどうだとか、こうだとか、何だかいろいろ言っていたけど忘れちゃったわ。(おどけた口調で)要するにね、食べたいものを何でも、たくさん召上ったらなおるのよ。数枝という女博士の診断なら、そうだわ。

(あさ)(厳粛に)数枝、あたしはもう、なおりたくない。こうしてお前に看病してもらいながら早く死にたい。あたしには、それが一ばん仕合せなのです。


茶の間の時計が、ゆっくり十時を打つのが聞える。


(数枝)(あさの言う事に全く取り合わず、聞えぬ振りして)あら、もう十時よ。(立上り)葛湯(くずゆ)でもこしらえて来ましょう。本当に、何か召し上らないと。(言いながら上手の障子をあけて)おお、きょうは珍らしくいいお天気。

(あさ) 数枝、ここにいてくれ。何を食べても、すぐ吐きそうになって、かえって苦しむばかりだから。どこへも行かないで、あたしの傍にいてくれ。お前に、すこし言いたい事がある。

(数枝)(障子を静かにしめて、また病床の傍に坐り、あかるく)どうしたの? ね、お母さん。

(あさ) 数枝、お前はもう、東京へは帰らないだろうね。

(数枝)(あっさり)帰るつもりだわ。お父さんはあたしに、出て行けと言ったじゃないの。そうして、あの日からもう、あたしにはろくに口もききやしないんだもの。帰るより他は無いじゃないの。

(あさ) あたしがこんなに寝たきりになってもかい。

(数枝) お母さんの病気なんか、すぐなおるわよ。そりゃ、なおるまでは、やっぱりあたし、お父さんがどんなに出て行けって言ったって、この家に頑張(がんば)ってお母さんの看病をさせていただくつもりだけど。

(あさ) 何年でもかい。

(数枝) 何年でもって、(笑って)お母さん、すぐなおるわよ。

(あさ)(首を振り)だめ、だめ。あたしには、わかっています。数枝、あたしにもしもの事があったら、お前は、お父さんひとりをこの家に残して東京へ行くのですか。

(数枝) もう、いや。そんな話。(顔をそむけて泣く)もしも、そうなったら、もしも、そうなったら、数枝も死んでしまうから。

(あさ)(溜息をついて)あたしはお前を、世界で一ばん仕合せな子にしたかったのだけど、逆になってしまった。

(数枝) いいえ、あたしだけが不仕合せなんじゃないわ。いま日本で、ひとりでも、仕合せな人なんかあるかしら。あたしはね、お母さん、さっきこんな手紙を書いてみたのよ。(ふところから先刻書きかけの手紙を取り出し、小さくはしゃいで)ちょっと読んでみるわね。(小声で読む)拝啓。為替(かわせ)三百円たしかにいただきました。こちらへ来てから、お金の使い道がちっとも無くて、あなたからこれまで送っていただいたお金は、まだそっくりございます。あなたのほうこそ、いくらでもお金が要(い)るでございましょうに、もうこれからは、お金をこちらへ送って寄こしてはいけません。そうして、もしそちらでお金が急に要るような事があったら、電報でお知らせ下さいまし。こちらでは、本当になんにも要らないのですから、いくらでもすぐにお送り申します。それまで、おあずかり致して置きましょう。さて、相変らずお仕事におはげみの御様子、ことしの展覧会は、もうすぐはじまるとか、お正月がすぎたばかりなのに、ずいぶん早いのね。展覧会にお出しになる絵も、それでは、もうそろそろ出来上った頃と思います。新しい現実を描かなければならぬと、こないだのお手紙でおっしゃって居られましたが、何をおかきになったの? 上野駅前の浮浪者の群ですか? あたしならば、広島の焼跡をかくんだがなあ。そうでなければ、東京の私たちの頭上に降って来たあの美しい焔(ほのお)の雨。きっと、いい絵が出来るわよ。私のところでは、母が十日ほど前に、或(あ)るいやな事件のショックのために卒倒して、それからずっと寝込んで、あたしが看病してあげていますけど、久し振りであたしは、何だか張り合いを感じています。あたしはこの母を、あたしの命よりも愛しています。そうして母も、それと同じくらいあたしを愛しているのです。あたしの母は、立派な母です。そうして、それから、美しい母です。あたしがあの、ほとんど日本国中が空襲を受けているまっさいちゅうに、あなたたちのとめるのも振り切って、睦子を連れてまるで乞食(こじき)みたいな半狂乱の恰好(かっこう)で青森行きの汽車に乗り、途中何度も何度も空襲に遭(あ)って、いろいろな駅でおろされて野宿し、しまいには食べるものが無くなって、睦子と二人で抱き合って泣いていたら、或る女学生がおにぎりと、きざみ昆布(こんぶ)と、それから固パンをくれて、睦子はうれしさのあまり逆上したのか、そのおにぎりを女学生に向って怒って投げつけたりなどして、まあ、あさましい、みじめな乞食の親子になりさがり、それでもこの東北のはての生れた家へ帰りたくてならなかったのは、いま考えてみると、たしかにあたしは死ぬる前にいまいちどあたしの美しい母に逢いたい一念からだったのでした。あたしの母は、いい母です。こんどの母の病気も、もとはと言えば、あたしから起ったようなものなのです。あたしは、いまはこの母を少しでも仕合せにしてあげたい。その他の事は、いっさい考えない事にしました。母があたしにいつまでも、母の傍にいなさい、と言ったら、あたしは一生もう母の傍にいるつもりです。あなたのところへも帰らないつもりです。父は、世間に対する気がねやら、また母に対する義理やらで、早くあたしに東京へ帰れ、と言っていますが、しかし、母が病気で寝込んでしまったら、この父も、めっきり気弱く、我(が)が折れて来たようです。あたしは、もう東京へ帰らないかも知れません。もし、あなたのほうで、あたしをこいしく思って下さるなら、絵をかくのをおやめになって、この田舎へ来て、あたしと一緒にお百姓になって下さい。出来ないでしょうね。でも、そんな気になった時には、きっとおいで下さいまし。いまにあたたかくなり、雪が溶けて、田圃(たんぼ)の青草が見えて来るようになったら、あたしは毎日鍬(くわ)をかついで田畑に出て、黙って働くつもりです。あたしは、ただの百姓女になります。あたしだけでなく、睦子をも、百姓女にしてしまうつもりです。あたしは今の日本の、政治家にも思想家にも芸術家にも誰にもたよる気が致しません。いまは誰でも自分たちの一日一日の暮しの事で一ぱいなのでしょう? そんならそうと正直に言えばいいのに、まあ、厚かましく国民を指導するのなんのと言って、明るく生きよだの、希望を持てだの、なんの意味も無いからまわりのお説教ばかり並べて、そうしてそれが文化だってさ。呆(あき)れるじゃないの。文化ってどんな事なの? 文(ぶん)のお化(ば)けと書いてあるわね。どうして日本のひとたちは、こんなに誰もかれも指導者になるのが好きなのでしょう。大戦中もへんな指導者ばかり多くて閉口だったけれど、こんどはまた日本再建とやらの指導者のインフレーションのようですね。おそろしい事だわ。日本はこれからきっと、もっともっと駄目になると思うわ。若い人たちは勉強しなければいけないし、あたしたちは働かなければいけないのは、それは当りまえの事なのに、それを避けるために、いろいろと、もっともらしい理窟(りくつ)がつくのね。そうしてだんだん落ちるところまで落ちて行ってしまうのだわ。ねえ、アナーキーってどんな事なの? あたしは、それは、支那(しな)の桃源境みたいなものを作ってみる事じゃないかと思うの。気の合った友だちばかりで田畑を耕して、桃や梨(なし)や林檎(りんご)の木を植えて、ラジオも聞かず、新聞も読まず、手紙も来ないし、選挙も無いし、演説も無いし、みんなが自分の過去の罪を自覚して気が弱くて、それこそ、おのれを愛するが如く隣人を愛して、そうして疲れたら眠って、そんな部落を作れないものかしら。あたしはいまこそ、そんな部落が作れるような気がするわ。まずまあ、あたしがお百姓になって、自身でためしてみますからね。雪が消えたら、すぐあたしは、田圃に出て、(読むのをやめて、手紙を膝(ひざ)の上に置き、こわばった微笑を浮べて母のほうを見て)ここまで書いたのだけど、もうあたしは、この手紙が最後で鈴木さんとは、おわかれになるかも知れないわ。

(あさ) 鈴木さんというの?

(数枝) ええ、ずいぶんあたしたち、お世話になったわ。この方のおかげで、あたしと睦子は、あの戦争中もどうやら生きて行けたのだわ。でも、お母さん、あたしはもう、みんな忘れる。これからは一生、お母さんの傍にいるわ。考えてみると、お母さんだって、栄一が帰って来ないし、(言ってしまってから、どぎまぎして)でも、栄一は大丈夫よ。いまに、きっと元気で帰って来ると思うけど。

(あさ) お前と睦子が、この家にいてくれたら、栄一は帰って来なくても、かまいません。あの子の事は、もうあきらめているのです。数枝、あたしは栄一よりも、お前と睦子がふびんでならない。(泣く)

(数枝)(ハンケチであさの涙を拭いてやって)あたしは、あたしなんか、どうなったっていいのよ。本当にいつもそう思っているのよ。(うつむいて)悪い事ばかりして来たのだもの。

(あさ) 数枝、(変った声で)女には皆、秘密がある。お前は、それを隠さなかっただけだよ。

(数枝)(不思議そうにあさの顔を覗(のぞ)き込み)お母さん、いやだわ、そんな真面目(まじめ)な顔して。(はにかむような微笑)

(あさ)(それに構わず)あれから何日になりますか。

(数枝) いつから?

(あさ) あの夜から。

(数枝) さあ、もう十日くらい経つかしら。よしましょう、あの晩の話は。

(あさ) 十日? そうかねえ。たった十日。あたしには、半年も前のような気がする。

(数枝) だってお母さんは、あの晩にあれから階段の下で卒倒して、それっきり三日も意識不明でいたんだもの、あの晩の事はもうずっと遠い夢のような気がするのは無理もないわ。夢だわよ。あたしは、あれも忘れる事にしよう。何もかも忘れる事にしよう。あたしはお百姓になって、そうしてあたしたちの桃源境を作るんだ。

(あさ) 清蔵さんは、その後どうしているか、何か聞かなかったかい。

(数枝) 知らないわ、あんなひとの事。もうあたしは忘れてしまうのだから、いいのよ。お酒をよして、このごろ人が変ったみたいに働くようになったとか、きのうあのひとの妹さんが来て言ってたけど、でも、あてになりやしないわ。

(あさ) 早く、お嫁をもらえばいいのにね。

(数枝) 何かいまそんな話もあるんですって。妹さんが言ってたわ。こんどの縁談は、どうした事か、兄さんがとても乗気だって。あたしには、わかるわ。

(あさ) 何が、わかるの?

(数枝) 何がって、清蔵さんの気持が。

(あさ) どうして?

(数枝) どうしてって、だって、お母さんにあの晩あんなに迄(まで)されて、それでも改心しないなら、あのひとは馬鹿か悪魔だわ。

(あさ) その馬鹿か悪魔は、あたしだよ。あたしなのだよ。あたしは、あの晩、あの人を本当に殺そうとしたのだ。

(数枝) もういや、よしましょう、お母さん。あたしのために、みんなあたしのために、お母さん、ごめんなさいね、これからあたしは、(泣き出して)親孝行して、御恩をかえすのだから、もうなんにも言わないで。日本にはもう世界に誇るものがなんにも無くなったけれど、でも、あたしのお母さんは、あたしのお母さんだけは。

(あさ) ちがいます。あたしは、お前よりずっとずっと悪い女です。あたしは、あの晩、あのひとを殺そうとしたのは、お前のためではなかったのです。あたしのためです。数枝、あたしをこのまま死なせておくれ。死ぬのが一ばん仕合せなのです。数枝、あのひとは、六年前、ちょうどあのようにして、このあたしを、……。

(数枝)(顔を挙げ、蒼(あお)ざめる)

(あさ) あたしは、馬鹿で、だまされました。女は、女は、どうしてこんなに、……。(泣く)

(数枝)(苦痛に堪えざるものの如く、荒い呼吸をして、やがて立ち上る。膝から手紙が舞い落ちる。それに眼をとどめて)桃源境、ユートピア、お百姓、(第一幕に於けるが如き低い異様の笑声を発する)ばかばかしい。みんな、ばかばかしい。これが日本の現実なのだわ。(高くあははと笑う)さあ、日本の指導者たち、あたしたちを救って下さい。出来ますか、出来ますか。(と言いながら、手紙を拾い、二つに裂く、四つに裂く、八つに裂く、こまごまに裂き)えい、勝手になさいだ。あたし、東京の好きな男のところへ行くんだ。落ちるところまで、落ちて行くんだ。理想もへちまもあるもんか。


玄関を乱暴にあける音聞える。

「電報です。島田数枝さん。電報です。」という配達人の声。


(数枝) あら、あたしに電報。いやだ、いやだ。ろくな事じゃない。いまの日本の誰にだって、いい知らせなんかありっこないんだ。悪い知らせにきまっている。(うろついて、手にしているたくさんの紙片を、ぱっと火鉢に投げ込む。火焔(かえん)あがる)ああ、これも花火。(狂ったように笑う)冬の花火さ。あたしのあこがれの桃源境も、いじらしいような決心も、みんなばかばかしい冬の花火だ。


玄関にて、「電報ですよ。どなたか、居りませんか。島田数枝さん。至急報ですよ。」という声つづくうちに、

――幕。


Posted by 문학관 관리인 위어조자(謂語助者)

바다(海:うみ)

다자이 오사무(太宰 治) (1946)

일본어 원문


 東京の三鷹の家にいた頃は、毎日のように近所に爆弾が落ちて、私は死んだってかまわないが、しかしこの子の頭上に爆弾が落ちたら、この子はとうとう、海というものを一度も見ずに死んでしまうのだと思うと、つらい気がした。私は津軽平野のまんなかに生れたので、海を見ることがおそく、十歳くらいの時に、はじめて海を見たのである。そうして、その時の大興奮は、いまでも、私の最も貴重な思い出の一つになっているのである。この子にも、いちど海を見せてやりたい。

 子供は女の子で五歳である。やがて、三鷹の家は爆弾でこわされたが、家の者は誰も傷を負わなかった。私たちは妻の里の甲府市へ移った。しかし、まもなく甲府市も敵機に襲われ、私たちのいる家は全焼した。しかし、戦いは尚(なお)つづく。いよいよ、私の生れた土地へ妻子を連れて行くより他は無い。そこが最後の死場所である。私たちは甲府から、津軽の生家に向って出発した。三昼夜かかって、やっと秋田県の東能代(ひがしのしろ)までたどりつき、そこから五能線に乗り換えて、少しほっとした。

「海は、海の見えるのは、どちら側です。」

 私はまず車掌に尋ねる。この線は海岸のすぐ近くを通っているのである。私たちは、海の見える側に坐った。

「海が見えるよ。もうすぐ見えるよ。浦島太郎さんの海が見えるよ。」

 私ひとり、何かと騒いでいる。

「ほら! 海だ。ごらん、海だよ、ああ、海だ。ね、大きいだろう、ね、海だよ。」

 とうとうこの子にも、海を見せてやる事が出来たのである。

「川だわねえ、お母さん。」と子供は平気である。

「川?」私は愕然(がくぜん)とした。

「ああ、川。」妻は半分眠りながら答える。

「川じゃないよ。海だよ。てんで、まるで、違うじゃないか! 川だなんて、ひどいじゃないか。」

 実につまらない思いで、私ひとり、黄昏(たそがれ)の海を眺める。



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부모라는 두 글자(親という二字:おやというにじ)

다자이 오사무(太宰 治) (1946)

일본어 원문


 親(おや)という二字と無筆の親は言い。この川柳(せんりゅう)は、あわれである。

「どこへ行って、何をするにしても、親という二字だけは忘れないでくれよ。」

「チャンや。親という字は一字だよ。」

「うんまあ、仮りに一字が三字であってもさ。」

 この教訓は、駄目である。

 しかし私は、いま、ここで柳多留(やなぎだる)の解説を試みようとしているのではない。実は、こないだ或(あ)る無筆の親に逢(あ)い、こんな川柳などを、ふっと思い出したというだけの事なのである。

 罹災(りさい)したおかたには皆おぼえがある筈(はず)だが、罹災をすると、へんに郵便局へ行く用事が多くなるものである。私が二度も罹災して、とうとう津軽の兄の家へ逃げ込んで居候(いそうろう)という身分になったのであるが、簡易保険だの債券売却だのの用事でちょいちょい郵便局に出向き、また、ほどなく私は、仙台の新聞に「パンドラの匣(はこ)」という題の失恋小説を連載する事になって、その原稿発送やら、電報の打合せやらで、いっそう郵便局へ行く度数が頻繁(ひんぱん)になった。

 れいの無筆の親と知合いになったのは、その郵便局のベンチに於(お)いてである。

 郵便局は、いつもなかなか混んでいる。私はベンチに腰かけて、私の順番を待っている。

「ちょっと、旦那(だんな)、書いてくれや。」

 おどおどして、そうして、どこかずるそうな、顔もからだもひどく小さい爺(じい)さんだ。大酒飲みに違いない、と私は同類の敏感で、ひとめ見て断じた。顔の皮膚が蒼(あお)く荒(すさ)んで、鼻が赤い。

 私は無言で首肯(うなず)いてベンチから立ち上り、郵便局備附けの硯箱(すずりばこ)のほうへ行く。貯金通帳と、払戻し用紙(かれはそれを、うけ出しの紙と言っている)それから、ハンコと、三つを示され、そうして、「書いてくれや」と言われたら、あとは何も聞かずともわかる。

「いくら?」

「四拾円。」

 私はその払戻し用紙に四拾円也としたため、それから通帳の番号、住所、氏名を書き記す。通帳には旧住所の青森市何町何番地というのに棒が引かれて、新住所の北津軽郡金木町何某方というのがその傍に書き込まれていた。青森市で焼かれてこちらへ移って来たひとかも知れないと安易に推量したが、果してそれは当っていた。そうして、氏名は、

 竹内トキ

 となっていた。女房の通帳かしら、くらいに思っていたが、しかし、それは違っていた。

 かれは、それを窓口に差出し、また私と並んでベンチに腰かけて、しばらくすると、別の窓口から現金支払い係りの局員が、

「竹内トキさん。」

 と呼ぶ。

「あい。」

 と爺さんは平気で答えて、その窓口へ行く。

「竹内トキさん。四拾円。御本人ですか?」

 と局員が尋ねる。

「そうでごいせん。娘です。あい。わしの末娘でごいす。」

「なるべくなら、御本人をよこして下さい。」

 と言いながら、局員は爺さんにお金を手渡す。

 かれは、お金を受取り、それから、へへん、というように両肩をちょっと上げ、いかにもずるそうに微笑(ほほえ)んで私のところへ来て、

「御本人は、あの世へ行ったでごいす。」

 私は、それから、実にしばしばその爺さんと郵便局で顔を合せた。かれは私の顔を見ると、へんに笑って、

「旦那。」と呼び、そうして、「書いてくれや。」と言う。

「いくら?」

「四拾円。」

 いつも、きまっていた。

 そうして、その間に、ちょいちょいかれから話を聞いた。それに依(よ)ると、かれは、案にたがわず酒飲みであった。四拾円も、その日のうちにかれの酒代になるらしい。この辺にはまだ、闇の酒があちこちにあるのである。

 かれのあととりの息子は、戦地へ行ってまだ帰って来ない。長女は北津軽のこの町の桶屋(おけや)に嫁(とつ)いでいる。焼かれる前は、かれは末娘とふたりで青森に住んでいた。しかし、空襲で家は焼かれ、その二十六になる末娘は大やけどをして、医者の手当も受けたけれど、象さんが来た、象さんが来た、とうわごとを言って、息を引きとったという。

「象の夢でも見ていたのでごいしょうか。ばかな夢を見るもんでごいす。けえっ。」と言って笑ったのかと思ったら、何、泣いているのだ。

 象さんというのは、或(ある)いは、増産ではなかろうか。その竹内トキさんは、それまでずっともう永いことお役所に勤めていたのだそうだから、「増産が来た」というのが、何かお役所の特別な意味でも有る言葉で、それが口癖になっていたのではなかろうか、とも思われたが、しかし、その無筆の親の解釈にしたがって、象さんの夢を見ていたのだとするほうが、何十倍もあわれが深い。

 私は興奮し、あらぬ事を口走った。

「まったくですよ。クソ真面目(まじめ)な色男気取りの議論が国をほろぼしたんです。気の弱いはにかみ屋ばかりだったら、こんな事にまでなりやしなかったんだ。」

 われながら愚かしい意見だとは思ったが、言っているうちに、眼が熱くなって来た。

「竹内トキさん。」

 と局員が呼ぶ。

「あい。」

 と答えて、爺さんはベンチから立ち上る。みんな飲んでしまいなさい、と私はよっぽどかれに言ってやろうかと思った。

 しかし、それからまもなく、こんどは私が、えい、もう、みんな飲んでしまおうと思い立った。私の貯金通帳は、まさか娘の名儀のものではないが、しかし、その内容は、或いは竹内トキさんの通帳よりもはるかに貧弱であったかも知れない。金額の正確な報告などは興覚めな事だから言わないが、とにかくその金は、何か具合いの悪い事でも起って、急に兄の家から立ち退(の)かなければならなくなったりした時に、あまりみじめな思いなどせずにすむように、郵便局にあずけて置いたものであった。ところがその頃、或る人からウィスキイを十本ばかりゆずってもらえるあてがついて、そのお礼には私の貯金のほとんど全部が必要のようであった。私はちょっと考えただけで、えい、みんな酒にしてしまえ、と思った。あとはまたあとで、どうにかなるだろう。どうにかならなかったら、その時にはまた、どうにかなるだろう。

 来年はもう三十八だというのに、未だに私には、このように全然駄目なところがある。しかし、一生、これ式で押し通したら、また一奇観ではあるまいか、など馬鹿な事を考えながら郵便局に出かけた。

「旦那。」

 れいの爺さんが来ている。

 私が窓口へ行って払戻し用紙をもらおうとしたら、

「きょうは、うけ出しの紙は要(い)らないんでごいす。入金でごいす。」

 と言って拾円紙幣のかなりの束(たば)を見せ、

「娘の保険がさがりまして、やっぱり娘の名儀でこんにち入金のつもりでごいす。」

「それは結構でした。きょうは、僕のほうが、うけ出しなんです。」

 甚(はなは)だ妙な成り行きであった。やがて二人の用事はすんだが、私が現金支払いの窓口で手渡された札束は、何の事は無い、たったいま爺さんの入金した札束そのものであったので、なんだかひどく爺さんにすまないような気がした。

 そうしてそれを或る人に手渡す時にも、竹内トキさんの保険金でウィスキイを買うような、へんな錯覚を私は感じた。

 数日後、ウィスキイは私の部屋の押入れに運び込まれ、私は女房に向って、

「このウィスキイにはね、二十六歳の処女のいのちが溶け込んでいるんだよ。これを飲むと、僕の小説にもめっきり艶(つや)っぽさが出て来るという事になるかも知れない。」

 と言い、そもそも郵便局で無筆のあわれな爺さんに逢った事のはじめから、こまかに語り起すと、女房は半分も聞かぬうちに、

「ウソ、ウソ。お父さんは、また、てれ隠しの作り話をおっしゃってる。ねえ、坊や。」

 と言って、這(は)い寄る二歳の子を膝(ひざ)へ抱き上げた。



Posted by 문학관 관리인 위어조자(謂語助者)

화폐(貨幣:かへい)

다자이 오사무(太宰 治) (1946)

일본어 원문


異国語においては、名詞にそれぞれ男女の性別あり。

然して、貨幣を女性名詞とす。


 私は、七七八五一号の百円紙幣です。あなたの財布の中の百円紙幣をちょっと調べてみて下さいまし。あるいは私はその中に、はいっているかも知れません。もう私は、くたくたに疲れて、自分がいま誰の懐の中にいるのやら、あるいは屑籠の中にでもほうり込まれているのやら、さっぱり見当も附かなくなりました。ちかいうちには、モダン型の紙幣が出て、私たち旧式の紙幣は皆焼かれてしまうのだとかいう噂も聞きましたが、もうこんな、生きているのだか、死んでいるのだかわからないような気持でいるよりは、いっそさっぱり焼かれてしまって昇天しとうございます。焼かれた後で、天国へ行くか地獄へ行くか、それは神様まかせだけれども、ひょっとしたら、私は地獄へ落ちるかも知れないわ。生れた時には、今みたいに、こんな賤(いや)しいていたらくではなかったのです。後になったらもう二百円紙幣やら千円紙幣やら、私よりも有難がられる紙幣がたくさん出て来ましたけれども、私の生れたころには、百円紙幣が、お金の女王で、はじめて私が東京の大銀行の窓口からある人の手に渡された時には、その人の手は少し震えていました。あら、本当ですわよ。その人は、若い大工さんでした。その人は、腹掛けのどんぶりに、私を折り畳(たた)まずにそのままそっといれて、おなかが痛いみたいに左の手のひらを腹掛けに軽く押し当て、道を歩く時にも、電車に乗っている時にも、つまり銀行から家へと、その人はさっそく私を神棚にあげて拝みました。私の人生への門出は、このように幸福でした。私はその大工さんのお宅にいつまでもいたいと思ったのです。けれども私は、その大工さんのお宅には、一晩しかいる事が出来ませんでした。その夜は大工さんはたいへん御機嫌がよろしくて、晩酌などやらかして、そうして若い小柄なおかみさんに向かい、『馬鹿にしちゃいけねえ。おれにだって、男の働きというものがある』などといって威張り時々立ち上がって私を神棚からおろして、両手でいただくような恰好で拝んで見せて、若いおかみさんを笑わせていましたが、そのうちに夫婦の間に喧嘩が起り、とうとう私は四つに畳まれておかみさんの小さい財布の中にいれられてしまいました。そうしてその翌る朝、おかみさんに質屋に連れて行かれて、おかみさんの着物十枚とかえられ、私は質屋の冷くしめっぽい金庫の中にいれられました。妙に底冷えがして、おなかが痛くて困っていたら、私はまた外に出されて日の目を見る事が出来ました。こんどは私は、医学生の顕微鏡一つとかえられたのでした。私はその医学生に連れられて、ずいぶん遠くへ旅行しました。そうしてとうとう、瀬戸内海のある小さい島の旅館で、私はその医学生に捨てられました。それから一箇月近く私はその旅館の、帳場の小箪笥の引出しにいれられていましたが、何だかその医学生は、私を捨てて旅館を出てから間もなく瀬戸内海に身を投じて死んだという、女中たちの取沙汰をちらと小耳にはさみました。『ひとりで死ぬなんて阿呆(あほ)らしい。あんな綺麗な男となら、わたしはいつでも一緒に死んであげるのにさ』とでっぷり太った四十くらいの、吹出物だらけの女中がいって、皆を笑わせていました。それから私は五年間四国、九州と渡り歩き、めっきり老(ふ)け込んでしまいました。そうしてしだいに私は軽んぜられ、六年振りでまた東京へ舞い戻った時には、あまり変り果てた自分の身のなりゆきに、つい自己嫌悪しちゃいましたわ。東京へ帰って来てからは私はただもう闇屋の使い走りを勤める女になってしまったのですもの。五、六年東京から離れているうちに私も変りましたけれども、まあ、東京の変りようったら。夜の八時ごろ、ほろ酔いのブローカーに連れられて、東京駅から日本橋、それから京橋へ出て銀座を歩き新橋まで、その間、ただもうまっくらで、深い森の中を歩いているような気持で人ひとり通らないのはもちろん、路を横切る猫の子一匹も見当りませんでした。おそろしい死の街の不吉な形相を呈していました。それからまもなく、れいのドカンドカン、シュウシュウがはじまりましたけれども、あの毎日毎夜の大混乱の中でも、私はやはり休むひまもなくあの人の手から、この人の手と、まるでリレー競走のバトンみたいに目まぐるしく渡り歩き、おかげでこのような皺(しわ)くちゃの姿になったばかりでなく、いろいろなものの臭気がからだに附いて、もう、恥ずかしくて、やぶれかぶれになってしまいました。あのころは、もう日本も、やぶれかぶれになっていた時期でしょうね。私がどんな人の手から、どんな人の手に、何の目的で、そうしてどんなむごい会話をもって手渡されていたか、それはもう皆さんも、十二分にご存じのはずで、聞き飽き見飽きていらっしゃることでしょうから、くわしくは申し上げませんが、けだものみたいになっていたのは、軍閥とやらいうものだけではなかったように私には思われました。それはまた日本の人に限ったことでなく、人間性一般の大問題であろうと思いますが、今宵死ぬかも知れぬという事になったら、物慾も、色慾も綺麗に忘れてしまうのではないかしらとも考えられるのに、どうしてなかなかそのようなものでもないらしく、人間は命の袋小路に落ち込むと、笑い合わずに、むさぼりくらい合うものらしうございます。この世の中のひとりでも不幸な人のいる限り、自分も幸福にはなれないと思う事こそ、本当の人間らしい感情でしょうに、自分だけ、あるいは自分の家だけの束(つか)の間(ま)の安楽を得るために、隣人を罵(ののし)り、あざむき、押し倒し、(いいえ、あなただって、いちどはそれをなさいました。無意識でなさって、ご自身それに気がつかないなんてのは、さらに怒るべき事です。恥じて下さい。人間ならば恥じて下さい。恥じるというのは人間だけにある感情ですから)まるでもう地獄の亡者がつかみ合いの喧嘩をしているような滑稽で悲惨な図ばかり見せつけられてまいりました。けれども、私はこのように下等な使い走りの生活においても、いちどや二度は、ああ、生れて来てよかったと思ったこともないわけではございませんでした。いまはもうこのように疲れ切って、自分がどこにいるのやら、それさえ見当がつかなくなってしまったほど、まるで、もうろくの形ですが、それでもいまもって忘れられぬほのかに楽しい思い出もあるのです。その一つは、私が東京から汽車で、三、四時間で行き着けるある小都会に闇屋の婆さんに連れられてまいりました時のことですが、ただいまは、それをちょっとお知らせ致しましょう。私はこれまで、いろんな闇屋から闇屋へ渡り歩いて来ましたが、どうも女の闇屋のほうが、男の闇屋よりも私を二倍にも有効に使うようでございました。女の慾というものは、男の慾よりもさらに徹底してあさましく、凄(すさま)じいところがあるようでございます。私をその小都会に連れて行った婆さんも、ただものではないらしくある男にビールを一本渡してそのかわりに私を受け取り、そうしてこんどはその小都会に葡萄酒の買出しに来て、ふつう闇値の相場は葡萄酒一升五十円とか六十円とかであったらしいのに、婆さんは膝をすすめてひそひそひそひそいって永い事ねばり、時々いやらしく笑ったり何かしてとうとう私一枚で四升を手に入れ重そうな顔もせず背負って帰りましたが、つまり、この闇婆さんの手腕一つでビール一本が葡萄酒四升、少し水を割ってビール瓶につめかえると二十本ちかくにもなるのでしょう、とにかく、女の慾は程度を越えています。それでもその婆さんは、少しもうれしいような顔をせず、どうもまったくひどい世の中になったものだ、と大真面目で愚痴(ぐち)をいって帰って行きました。私は葡萄酒の闇屋の大きい財布の中にいれられ、うとうと眠りかけたら、すぐにまたひっぱり出されて、こんどは四十ちかい陸軍大尉に手渡されました。この大尉もまた闇屋の仲間のようでした。「ほまれ」という軍人専用の煙草を百本(とその大尉はいっていたのだそうですが、あとで葡萄酒の闇屋が勘定してみましたら八十六本しかなかったそうで、あのインチキ野郎めが、とその葡萄酒の闇屋が大いに憤慨していました)とにかく、百本在中という紙包とかえられて、私はその大尉のズボンのポケットに無雑作にねじ込まれ、その夜、まちはずれの薄汚い小料理屋の二階へお供をするという事になりました。大尉はひどい酒飲みでした。葡萄酒のブランデーとかいう珍しい飲物をチビチビやって、そうして酒癖もよくないようで、お酌の女をずいぶんしつこく罵るのでした。

 「お前の顔は、どう見たって狐以外のものではないんだ。(狐をケツネと発音するのです。どこの方言かしら)よく覚えて置くがええぞ。ケツネのつらは、口がとがって髭(ひげ)がある。あの髭は右が三本、左が四本、ケツネの屁(へ)というものは、たまらねえ。そこらいちめん黄色い煙がもうもうとあがってな、犬はそれを嗅(か)ぐとくるくるくるっとまわって、ぱたりとたおれる。いや、嘘でねえ。お前の顔は黄色いな。妙に黄色い。われとわが屁で黄色く染まったに違いない。や、臭い。さては、お前、やったな。いや、やらかした。どだいお前は失敬じゃないか。いやしくも軍人の鼻先で、屁をたれるとは非常識きわまるじゃないか。おれはこれでも神経質なんだ。鼻先でケツネのへなどやらかされて、とても平気では居られねえ」などそれは下劣な事ばかり、大まじめでいって罵り、階下で赤子の泣き声がしたら耳ざとくそれを聞きとがめて、「うるさい餓鬼だ、興がさめる。おれは神経質なんだ。馬鹿にするな。あれはお前の子か。これは妙だ。ケツネの子でも人間の子みたいな泣き方をするとは、おどろいた。どだいお前は、けしからんじゃないか、子供を抱えてこんな商売をするとは、虫がよすぎるよ。お前のような身のほど知らずのさもしい女ばかりいるから日本は苦戦するのだ。お前なんかは薄のろの馬鹿だから、日本は勝つとでも思っているんだろう。ばか、ばか。どだい、もうこの戦争は話にならねえのだ。ケツネと犬さ。くるくるっとまわって、ぱたりとたおれるやつさ。勝てるもんかい。だから、おれは毎晩こうして、酒を飲んで女を買うのだ。悪いか」

 「悪い」とお酌の女のひとは、顔を蒼くしていいました。

 「狐がどうしたっていうんだい。いやなら来なけれあいいじゃないか。いまの日本で、こうして酒を飲んで女にふざけているのは、お前たちだけだよ。お前の給料は、どこから出てるんだ。考えても見ろ。あたしたちの稼ぎの大半は、おかみに差し上げているんだ。おかみはその金をお前たちにやって、こうして料理屋で飲ませているんだ。馬鹿にするな。女だもの、子供だって出来るさ。いま乳呑児をかかえている女は、どんなにつらい思いをしているか、お前たちにはわかるまい。あたしたちの乳房からはもう、一滴の乳も出ないんだよ。からの乳房をピチャピチャ吸って、いや、もうこのごろは吸う力さえないんだ。ああ、そうだよ、狐の子だよ。あごがとがって、皺だらけの顔で一日中ヒイヒイ泣いているんだ。見せてあげましょうかね。それでも、あたしたちは我慢しているんだ。それをお前たちは、なんだい」といいかけた時、空襲警報が出て、それとほとんど同時に爆音が聞え、れいのドカンドカンシュウシュウがはじまり、部屋の障子がまっかに染まりました。

 「やあ、来た。とうとう来やがった」と叫んで大尉は立ち上がりましたが、ブランデーがひどくきいたらしく、よろよろです。

 お酌のひとは、鳥のように素早く階下に駆け降り、やがて赤ちゃんをおんぶして、二階にあがって来て、「さあ、逃げましょう、早く。それ、危い、しっかり」ほとんど骨がないみたいにぐにゃぐにゃしている大尉を、うしろから抱き上げるようにして歩かせ、階下へおろして靴をはかせ、それから大尉の手を取ってすぐ近くの神社の境内まで逃げ、大尉はそこでもう大の字に仰向(あおむけ)に寝ころがってしまって、そうして、空の爆音にむかってさかんに何やら悪口をいっていました。ばらばらばら、火の雨が降って来ます。神社も燃えはじめました。

 「たのむわ、兵隊さん。も少し向こうのほうへ逃げましょうよ。ここで犬死にしてはつまらない。逃げられるだけは逃げましょうよ」

 人間の職業の中で、最も下等な商売をしているといわれているこの蒼黒く痩せこけた婦人が、私の暗い一生涯において一ばん尊く輝かしく見えました。ああ、欲望よ、去れ。虚栄よ、去れ。日本はこの二つのために敗れたのだ。お酌の女は何の慾もなく、また見栄もなく、ただもう眼前の酔いどれの客を救おうとして、こん身の力で大尉を引き起し、わきにかかえてよろめきながら田圃(たんぼ)のほうに避難します。避難した直後にはもう、神社の境内は火の海になっていました。

 麦を刈り取ったばかりの畑に、その酔いどれの大尉をひきずり込み、小高い土手の蔭に寝かせ、お酌の女自身もその傍にくたりと坐り込んで荒い息を吐いていました。大尉は、すでにぐうぐう高鼾(たかいびき)です。

 その夜は、その小都会の隅から隅まで焼けました。夜明けちかく、大尉は眼をさまし、起き上がって、なお燃えつづけている大火事をぼんやり眺め、ふと、自分の傍でこくりこくり居眠りをしているお酌の女のひとに気づき、なぜだかひどく狼狽の気味で立ち上がり、逃げるように五、六歩あるきかけて、また引返し、上衣の内ポケットから私の仲間の百円紙幣を五枚取り出し、それからズボンのポケットから私を引き出して六枚重ねて二つに折り、それを赤ちゃんの一ばん下の肌着のその下の地肌の背中に押し込んで、荒々しく走って逃げて行きました。私が自身に幸福を感じたのは、この時でございました。貨幣がこのような役目ばかりに使われるんだったらまあ、どんなに私たちは幸福だろうと思いました。赤ちゃんの背中は、かさかさ乾いて、そうして痩せていました。けれども私は仲間の紙幣にいいました。

 「こんないいところはほかにないわ。あたしたちは仕合せだわ。いつまでもここにいて、この赤ちゃんの背中をあたため、ふとらせてあげたいわ」

 仲間はみんな一様に黙ってうなずきました。

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Posted by 문학관 관리인 위어조자(謂語助者)

거짓말(嘘:うそ)

다자이 오사무(太宰 治) (1946)

일본어 원문


「戦争が終ったら、こんどはまた急に何々主義だの、何々主義だの、あさましく騒ぎまわって、演説なんかしているけれども、私は何一つ信用できない気持です。主義も、思想も、へったくれも要(い)らない。男は嘘(うそ)をつく事をやめて、女は慾を捨てたら、それでもう日本の新しい建設が出来ると思う。」

 私は焼け出されて津軽の生家の居候(いそうろう)になり、鬱々(うつうつ)として楽しまず、ひょっこり訪ねて来た小学時代の同級生でいまはこの町の名誉職の人に向って、そのような八つ当りの愚論を吐いた。名誉職は笑って、

「いや、ごもっとも。しかし、それは、逆じゃありませんか。男が慾を捨て、女が嘘をつく事をやめる、とこう来なくてはいけません。」といやにはっきり反対する。

 私はたじろぎ、

「そりゃまた、なぜです。」

「まあ、どっちでも、同じ様なものですが、しかし、女の嘘は凄(すご)いものです。私はことしの正月、いやもう、身の毛もよだつような思いをしました。それ以来、私は、てんで女というものを信用しなくなりました。うちの女房なんか、あんな薄汚い婆でも、あれで案外、ほかに男をこしらえているかも知れない。いや、それは本当に、わからないものですよ。」と笑わずに言って、次のように田舎(いなか)の秘話を語り聞かせてくれた。以下「私」というのは、その当年三十七歳の名誉職御自身の事である。


 今だから、こんな話も公開できるのですが、当時はそれこそ極秘の事件で、この町でこの事件に就(つ)いて多少でも知っていたのは、ここの警察署長と(この署長さんは、それから間もなく転任になりましたが、いい人でした)それから、この私と、もうそれくらいのものでした。

 ことしのお正月は、日本全国どこでもそのようでしたが、この地方も何十年振りかの大雪で、往来の電線に手がとどきそうになるほど雪が積り、庭木はへし折られ、塀(へい)は押し倒され、またぺしゃんこに潰(つぶ)された家などもあり、ほとんど大洪水みたいな被害で、連日の猛吹雪のため、このあたり一帯の交通が二十日も全くと絶えてしまいました。その頃の事です。

 夜の八時ちょっと前くらいだったでしょうか、私が上の女の子に算術を教えていたら、ほとんどもう雪だるまそっくりの恰好(かっこう)で、警察署長がやって来ました。

 何やら、どうも、ただならぬ気配です。あがれ、と言っても、あがりません。この署長はひどく酒が好きで、私とはいい飲み相手で、もとから遠慮も何も無い仲だったのですが、その夜は、いつになく他人行儀で、土間に突立ったまま、もじもじして、

「いや、きょうは、」と言い、「お願いがあって来たのです。」と思いつめたような口調で言う。これはいよいよ、ただ事でないと、私も緊張しました。

 私は下駄(げた)をつっかけて土間へ降り、無言で鶏小屋へ案内しました。雛(ひな)の保温のために、その小屋には火鉢を置いてあるのです。私たちは真暗い鶏小屋にこっそりはいります。私たちがはいって行っても、鶏どもが少しも騒がなかったほど、それほどこっそり忍び込んだのです。

 私たちは火鉢を中にして、向い合って突立っていました。

「絶対に秘密にして置いて下さい。脱走事件です。」と署長は言う。

 警察の留置場から誰か脱走したのだろう、と私は、はじめはそう思いました。黙って、次の説明を待っていました。

「たぶん、この町には、先例の無かった事でしょう。あなたの御親戚(ごしんせき)の圭吾(けいご)さん、ね、入隊していないんです。」

 私は頭から、ひや水をぶっ掛けられたような気がしました。

「いや、しかし、あれは、」と私は、ほとんど夢中で言いました。「あれは、たしかに私が、青森の部隊の営門まで送りとどけた筈(はず)ですが。」

「そうです。それは私も知っています。しかし、向うの憲兵隊から、彼は、はじめから来ていない、という電話です。いったいならば、憲兵がこちらへ捜査に来る筈なのですが、この大雪で、どうにもならぬ。依(よ)って、まず先に内々の捜査を言いつけて来たのです。それで私は、あなたに一つ、お願いがあるのです。」

 圭吾ってのは、どんな男だか、あなたなどは東京にばかりいらっしゃったのだから、何も御存じないでしょうし、また、いまはこんな時代になって、何を公表しても差支(さしつか)えないわけでしょうから、それはどこの誰だと、はっきり明かしてしまってもいいとはいうものの、でも、いずれにしても、これは美談というわけのものでもないのですから、やっぱりどうも、あれの氏素姓をこれ以上くわしく説明するのは、私にはつらくていけません。まあ、ぼんやり、圭吾とだけ覚えていて下さい。私の遠縁の男なんです。嫁をもらったばかりの若い百姓です。

 そいつに召集令状が来て、まるでもう汽車に乗った事もないような田舎者(いなかもの)なのですから、私が青森の部隊の営門まで送りとどけてやったのですが、それが、入隊してないというのです。いったん、営門にはいって、それから、すぐにまたひょいと逃げ出したのでしょうか。

 署長の願いというのは、とにかくあの圭吾は逃げ出したって他に行くところも無い。この吹雪の中を、幾日かかっても山越えして、家へ帰って来るに違いない。死にやしない。必ず家へ帰って来る。何せ、あれの嫁は、あれには不似合いなほどの美人なんだから、必ず家へ帰る。そこで、あなたに一つお願いがある。あなたは、あの夫婦の媒妁人(ばいしゃくにん)だった筈だし、また、かねてからあの夫婦は、あなたを非常に尊敬している。いや、ひやかしているのでは、ありません。まじめな話です。それで、今夜あなたは御苦労だが、あれの家へ行って、嫁によくよく説き聞かせ、決して悪いようにはせぬから、もし圭吾が家に帰って来たなら、こっそりあなたに知らせてくれるように、しっかりと言いつけてやって下さい。ここ二、三日中に、圭吾が見つかったならば、私は、圭吾に何の罰もかからないように取りはからう事が出来ます。何せこの大雪で、交通機関がめちゃ滅茶なのですから、私はあれが入隊におくれた理由を、そこは何とかうまく報告できるつもりです。脱走兵を出したとあっては、この町全体の不名誉です。この町の名誉のために、一つ御苦労でもたのむ、というような事でした。

 私は署長と一緒に吹雪の中を、あれの家へ出掛けました。かなり遠いのです。どうも人間の一生には、いろいろな事があると思いましたよ。私のような兵役免除の丁種(ていしゅ)が、帝国軍人の妻たる者の心掛けを説こうというのは、どう考えたって少し無理ですよ。

 あれの家の前で署長と無言で別れ、私はあれの家の土間にはいって行きました。あなたがこれまで東京に永くいらっしゃったと言っても、やはりこの土地の生れなのですから、このへんの農家の構造はご存じでしょう。土間へはいると、左手は馬小屋で、右手は居間と台所兼用の板敷の部屋で大きい炉(ろ)なんかあって、まあ、圭吾の家もだいたいあれ式なのです。

 嫁はまだ起きていて、炉傍(ろばた)で縫い物をしていました。

「ほう、感心だのう。おれのうちの女房などは、晩げのめし食うとすぐに赤ん坊に添寝(そいね)して、それっきりぐうぐう大鼾(おおいびき)だ。夜なべもくそもありやしねえ。お前は、さすがに出征兵士の妻だけあって、感心だ、感心だ。」などと、まことに下手(へた)なほめ方をして外套(がいとう)を脱ぎ、もともと、もう礼儀も何も不要な身内の家なのですから、のこのこ上り込んで炉傍に大あぐらをかき、

「ばばちゃは、寝たか。」とたずねます。

 圭吾には、盲目の母があるのです。

「ばばちゃは、寝て夢でも見るのが、一ばんの楽しみだべ。」と嫁は、縫い物をつづけながら少し笑って答えます。

「うん、まあそんなところかも知れない。お前も、なかなか苦労が多いの。しかし、いまの時代は、日本国中に仕合せな人は、ひとりもねえのだからな、つらくても、しばらくの我慢だ。何か思いに余る心配事でも起った時には、おれのところへ相談に来ればいいし、のう。」

「有難うごす。きょうはまた、どこからかのお帰りですか。おそいねす。」

「おれか? いや、どこの帰りでもねえ。まっすぐに、ここさ来たのだ。」

 どうも私は駈引(かけひ)きという事がきらいで、いや、駈引きしたいと思っても、めんどうくさくて、とても出来ないたちですので、ちょっと気まずくても、ありのままを言う事にしているのです。そのために、思わぬ難儀が振りかかって来た事もありますが、しかし、駈引きして成功しても永続きはしないような気がするのです。

 その時も、私は、下手な小細工(こざいく)をしたって仕様が無いと思って、「まっすぐに、ここさ来た」と本当の事を言ったのですが、嫁は別にそれを気にとめる様子も無く、あたらしい薪(まき)を二本、炉にくべて、また縫い物を続けます。

 へんな事をおたずねするようですが、あなたと私とは小学校の同級生ですから、同じとしの三十七、いやもう二、三週間すると昭和二十一年になって、三十八。ところでどうです、このとしになっても、やはり、色気はあるでしょう、いや、冗談でなく、私はいつか誰かに聞いてみたいと思っていた事なのです。まさか、私は、このとおり頭が禿(は)げて、子供が四人もあって、手の皮なんかもこんなに厚くなって、ひびだらけでささくれ立って、こんな手で女の柔い着物などにさわったら、手の皮がひっかかっていけないでしょう、このようなていたらくで、愛だの恋だのを囁(ささや)く勇気は流石(さすが)にありませんが、しかし、色気というのは案外なもので、ちょっと綺麗(きれい)な女とふたり切りで、よもやまの話などをしているうちに、何か妙な気がして来る事があるのです。あなたは、どうでしょう。いや、私は普通よりも少し色気が強いのかも知れません。実は、私はこんな薄汚い親爺(おやじ)になり下がっていながら、たいていの女と平気で話が出来ないたちなんです。まさか私は、その話相手の女に、惚(ほ)れるの惚れられるの、そんな馬鹿な事は考えませんが、どうも何だか心にこだわりが出て来るのです。窮屈なんです。どうしても、男同士で話合うように、さっぱりとはまいりません。自分の胸の中のどこかに、もやもやと濁っているものがあるような気がしていけません。あれは、やはり、私の色気のせいだと思うのですが、どんなものでしょうか。しかしまた、私にそんなこだわりを全然、感じさせない女のひとも、たまにはあるのです。八十歳の婆とか、五歳の娘とか、それは問題になりませんが、女盛りの年頃で、しかもなかなかの美人でありながら、ちっとも私に窮屈な思いをさせず、私もからりとした非常に楽な気持で対坐している事が出来る、そんな女のひとも、たまにはあるのです。あれはいったい、どういうものでしょう。私は、このごろはまた何が何やら、わからなくなってしまいましたが、以前はまあ、こんな具合いに考えていたのです。私に窮屈な思いをさせないというのは、つまり、私にみじんも色気を感じさせないという事なのだから、きっとその女のひとの精神が気高いのだろう、話をしてこだわりを感じさせる女には、まさか、好くの好かれるのというはっきりした気持などはないでしょうが、自身でも気のつかない、あてもないぼんやりしたお色気があって、それが話相手にからまって、へんに相手を窮屈にさせてしまうのではないだろうか、とまあ、そんなふうに考えていたのでした。要するに私は、話をして落ちつかない気持を起させる女は、みだら、とは言えないまでも、多少のお色気のある女として感服せず、そうして、平気で話合える女を、心の正しい人として尊敬していました。

 ところで、その圭吾の嫁は、ほかのひとにはどうかわかりませんが、私には、これまで一度も、全く少しのこだわりも感じさせない女だったのです。いまはもう、地主も小作人もあったものではありませんが、もともとこの嫁は、私の家の代々の小作人の娘で、小さい頃からちょっとこう思案深そうな顔つきをしていました。百姓には珍らしく、からだつきがほっそりして、色が白く、おとなになったら顔がちょっとしゃくれて来て、悪く言えば般若面(はんにゃめん)に似たところもありましたが、しかし、なかなかの美人という町の評判で、口数も少く、よく働き、それに何よりも、私に全然れいのこだわりを感じさせぬところが気にいって、私は親戚の圭吾にもらってやったのでした。

 どんなに親しい間柄とは言っても、私とその嫁とは他人なのだし、私だって、まだよぼよぼの老人というわけではなし、まして相手は若い美人で、しかも亭主が出征中に、夜おそくのこのこ訪ねて行って、そうして二人きりで炉傍で話をするというのは、普通ならば、あまりおだやかな事でも無いのでしょうが、しかし私は、あの嫁に対してだけは、ちっともうしろめたいものを感ぜず、そうしてそれは、その女の人格が高潔なせいであるとばかり解していたのですから、なに、一向に平気で、悠々(ゆうゆう)と話込みました。

「実はの、きょうはお前に大事なお願いがあって来たのだ。」

「はあ。」と言って、嫁は縫い物の手を休め、ぼんやり私の顔を見守ります。

「いや、針仕事をしながらでいい、落ちついて聞いてくれ。これは、お国のため、というよりは、この町のため、いや、お前たち一家のために是非とも、聞きいれてくれろ。だいいちには、圭吾自身のため、またお前のため、またばばちゃのため、それから、お前たちの祖先、子孫のため、何としても、こんどのおれの願い一つだけは、聞きいれてくれねばいけねえ。」

「なんだべ、ねす。」嫁は針仕事を続けながら、小声で言いました。別に心配そうな顔もしていません。

「驚いてはいけねえ、とは言っても、いや、誰だって驚くに違いないが、実はな、さきほど警察の署長さんが、おれの家へおいでになって、」と私は、駈引きも小細工も何もせず、署長から言われた事をそのまま伝えて、「のう、圭吾も心得違いしたものだが、しかし、どんな人でも、いちどは魔がさすというか、魔がつくというか、妙な間違いを起したがるものだ。これは、ハシカのようなもので、人間の持って生れた心の毒を、いちどは外へ吹き出さなければならねえものらしい。だから、起した間違いは仕方のねえ事として、その間違いをそれ以上に大きな騒ぎにしないように努めるのが、お前やおれの、まごころというものでないか。署長さんも、決して悪いようにはしないと言っている。あれは、ひとをだましたりなどしない人だ。この町の名誉のため、ここ二、三日中に圭吾が見つかりさえすれば、何とかうまく全然おかみのお叱(しか)りのないように取りはからうと言っている。署長もおれも、黙っている。この町の誰にも、絶対に言わぬ。どうか、たのむ。圭吾は、きっとお前のところへ、帰って来る。帰って来たら、もう何も考える事は要(い)らない、すぐにおれのところへ知らせに来てくれ。それが、だいいちに圭吾のため、お前のため、ばばちゃのため、祖先、子孫のためだ。」

 嫁は、顔色もかえず、縫い物をつづけながら黙って聞いていましたが、その時、肩で深く息をついて、

「なんぼう、馬鹿だかのう。」と言って、左手の甲で涙を拭きました。

「お前も、つらいところだ。それは重々、察している。しかし、いま日本では、お前よりも何倍もつらい思いをしているひとが、かず限りなくあるのだから、お前も、ここは、こらえてくれろ。必ず必ず、圭吾が帰って来たら、おれのところに知らせてくれ。たのむ! おれは今までお前たちに、ものを頼んだ事はいちども無かったが、こんどだけは、これ、このとおり、おれは、手をついてお前にお願いする。」

 私は、お辞儀をしました。吹雪の音にまじって、馬小屋のほうから小さい咳(せき)ばらいが聞えました。私は顔を挙げて、

「いま、お前は、咳をしたか。」

「いいえ。」嫁は私の顔をけげんそうに見て、静かに答えます。

「それでは、いまの咳は誰のだ。お前には、聞えなかったか。」

「さあ、べつに、なんにも。」と言って、うすら笑いをしました。

 私は、その時、なぜだか、全身鳥肌立つほど、ぞっとしました。

「来てるんでないか。おい、お前、だましてはだめだ。圭吾は、あの馬小屋にいるんでないか?」

 私のあわてて騒ぐ様子が、よっぽど滑稽(こっけい)なものだったと見えて、嫁は、膝の上の縫い物をわきにのけ、顔を膝に押しつけるようにして、うふふふと笑い咽(むせ)んでしまいました。しばらくして顔を挙げ、笑いをこらえているように、下唇を噛(か)んで、ぽっと湯上りくらいに赤らんでいる顔を仰向けて、乱れた髪を掻(か)きあげ、それから、急にまじめになって私のほうにまっすぐに向き直り、

「安心してけせ。わたしも、馬鹿でごいせん。来たら来たと、かならずあなたのところさ、知らせに行きます。その時は、どうか、よろしくお願いします。」

「おう、そうか、」と私は苦笑して、「さっきの咳ばらいは、おれの空耳であったべな。こうなると、どうも、男よりも女子(おなご)のほうが、しっかりしている。それでは、どうか、よろしくたのむよ。」

「はあ、承知しました。」たのもしげに、首肯(うなず)きます。

 私は、ほっとして、それでは帰ろうかと腰を浮かしかけた途端に、馬小屋のほうで、

「馬鹿! 命をそまつにするな!」と、あきらかに署長の声です。続いて、おそろしく大きい物音が。


 名誉職は、そこまで語って、それから火鉢の火を火箸(ひばし)でいじくりながら、しばらく黙っていた。

「で? どうしたのです。」と私は、さいそくした。「いたのですか?」

「いるも、いないも、」と言って、彼は火箸をぐさと灰に深く突き刺し、「二日も前から来ていたんですよ。ひどいじゃありませんか。二日も前に帰って来て、そうして、嫁と相談して、馬小屋の屋根裏の、この辺ではマギと言っていますが、まあ乾草や何かを入れて置くところですな、そこへ隠れていたのです。もちろん、嫁の入智慧(いれぢえ)です。母は盲目だし、いい加減にだまして、そうしてこっそり馬小屋のマギに圭吾をかくし、三度々々の食事をそこへ運んでいたのだそうですよ。あとで、圭吾がそう言っていました。なに、あの嫁なんか一言も何も言いません。いまもって、知らん振りです。あの晩に、私が行って嫁にあれほど腹の底を打ち割った話をして、そうして、男一匹、手をついてお願いしたのにまあ、あの落ちつき払った顔。かえって馬小屋のマギで聞いていた圭吾のほうで、申しわけ無くなって、あなた、馬小屋の梁(はり)に縄をかけ、首をくくって死のうとしたのです。

 署長は私と別れてからも商売柄、その辺をうろついて見張っていたのでしょう、馬小屋でたしかに人の気配がするので、土間からそっと覗(のぞ)いてみると、圭吾がぶらりです。そこでもって、馬鹿! 命をそまつにするな! と叫び、ひきずりおろしたところへ、私たちが駈けつけたというわけでしたが、その、署長の、馬鹿! という声と共に私たちは立ち上り、思わず顔を見合せ、その時の、嫁のまるでもう余念なさそうに首をかしげて馬小屋の物音に耳を澄ました恰好(かっこう)は、いやもう、ほとんど神(しん)の如(ごと)くでした。おそろしいものです。そうして、私たちは馬小屋へ駈けつけ、圭吾は署長にとらえられて、もう嫁のまっかな嘘が眼前にばれているのに、嫁は私のうしろから圭吾のほうを覗いて見て、

『いつ、もどったのだべ。』と小声で言い、私は、あとで圭吾から二日前に既に帰っていたという事を聞かなかったら、この嫁が圭吾の帰宅をその時までまったく知らなかったのだと永遠に信じていたでしょう、きっと、そうです。嫁は、もうそれっきり何も言わず、時々うすら笑いさえ顔に浮べ、何を考えているのやら、何と思っているのやら、まるでもうわかりません。色気を感じさせないところが偉いと私は尊敬をしていたのですが、やっぱり、ちょっと男に色気を起させるくらいの女のほうが、善良で正直なのかも知れません。何が何やら、もう私は女の言う事は、てんで信用しない事にしました。

 圭吾は、すぐに署長の証明書を持って、青森に出かけ、何事も無く勤務して終戦になってすぐ帰宅し、いまはまた夫婦仲良さそうに暮していますが、私は、あの嫁には呆(あき)れてしまいましたから、めったに圭吾の家へはまいりません。よくまあ、しかし、あんなに洒唖々々(しゃあしゃあ)と落ちついて嘘をつけたものです。女が、あんなに平気で嘘をつく間は、日本はだめだと思いますが、どうでしょうか。」

「それは、女は、日本ばかりでなく、世界中どこでも同じ事でしょう。しかし、」と私は、頗(すこぶ)る軽薄な感想を口走った。

「そのお嫁さんはあなたに惚(ほ)れてやしませんか?」

 名誉職は笑わずに首をかしげた。それから、まじめにこう答えた。

「そんな事はありません。」とはっきり否定し、そうして、いよいよまじめに(私は過去の十五年間の東京生活で、こんな正直な響きを持った言葉を聞いた事がなかった)小さい溜息(ためいき)さえもらして、「しかし、うちの女房とあの嫁とは、仲が悪かったです。」

 私は微笑した。

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찬스(チャンス)

다자이 오사무(太宰 治) (1946)


 人生はチャンスだ。結婚もチャンスだ。恋愛もチャンスだ。と、したり顔して教える苦労人が多いけれども、私は、そうでないと思う。私は別段、れいの唯物論的弁証法に媚(こ)びるわけではないが、少くとも恋愛は、チャンスでないと思う。私はそれを、意志だと思う。

 しからば、恋愛とは何か。私は言う。それは非常に恥かしいものである。親子の間の愛情とか何とか、そんなものとはまるで違うものである。いま私の机の傍の辞苑をひらいて見たら、「恋愛」を次の如(ごと)く定義していた。

「性的衝動に基づく男女間の愛情。すなわち、愛する異性と一体になろうとする特殊な性的愛。」

 しかし、この定義はあいまいである。「愛する異性」とは、どんなものか。「愛する」という感情は、異性間に於いて、「恋愛」以前にまた別個に存在しているものなのであろうか。異性間に於いて恋愛でもなく「愛する」というのは、どんな感情だろう。すき。いとし。ほれる。おもう。したう。こがれる。まよう。へんになる。之等(これら)は皆、恋愛の感情ではないか。これらの感情と全く違って、異性間に於いて「愛する」というまた特別の感情があるのであろうか。よくキザな女が「恋愛抜きの愛情で行きましょうよ。あなたは、あたしのお兄さまになってね」などと言う事があるけれど、あれがつまり、それであろうか。しかし、私の経験に依(よ)れば、女があんな事を言う時には、たいてい男がふられているのだと解して間違い無いようである。「愛する」もクソもありやしない。お兄さまだなんてばからしい。誰がお前のお兄さまなんかになってやるものか。話がちがうよ。

 キリストの愛、などと言い出すのは大袈裟(おおげさ)だが、あのひとの教える「隣人愛」ならばわかるのだが、恋愛でなく「異性を愛する」というのは、私にはどうも偽善のような気がしてならない。

 つぎにまた、あいまいな点は、「一体になろうとする特殊な性的愛」のその「性的愛」という言葉である。

 性が主なのか、愛が主なのか、卵が親か、鶏が親か、いつまでも循環するあいまい極(きわ)まる概念である。性的愛、なんて言葉はこれは日本語ではないのではなかろうか。何か上品めかして言いつくろっている感じがする。

 いったい日本に於いて、この「愛」という字をやたらに何にでもくっつけて、そうしてそれをどこやら文化的な高尚(こうしょう)なものみたいな概念にでっち上げる傾きがあるようで、(そもそも私は「文化」という言葉がきらいである。文のお化けという意味であろうか。昔の日本の本には、文華または文花と書いてある)恋と言ってもよさそうなのに、恋愛、という新語を発明し、恋愛至上主義なんてのを大学の講壇で叫んで、時の文化的なる若い男女の共鳴を得たりしたようであったが、恋愛至上というから何となく高尚みたいに聞えるので、これを在来の日本語で、色慾至上主義と言ったら、どうであろうか。交合至上主義と言っても、意味は同じである。そんなに何も私を、にらむ事は無いじゃないか。恋愛女史よ。

 つまり私は恋愛の「愛」の字、「性的愛」の「愛」の字が、気がかりでならぬのである。「愛」の美名に依って、卑猥感(ひわいかん)を隠蔽(いんぺい)せんとたくらんでいるのではなかろうかとさえ思われるのである。

「愛」は困難な事業である。それは、「神」にのみ特有の感情かも知れない。人間が人間を「愛する」というのは、なみなみならぬ事である。容易なわざではないのである。神の子は弟子たちに「七度の七十倍ゆるせ」と教えた。しかし、私たちには、七度でさえ、どうであろうか。「愛する」という言葉を、気軽に使うのは、イヤミでしかない。キザである。

「きれいなお月さまだわねえ。」なんて言って手を握り合い、夜の公園などを散歩している若い男女は、何もあれは「愛し」合っているのではない。胸中にあるものは、ただ「一体になろうとする特殊な性的煩悶(はんもん)」だけである。

 それで、私がもし辞苑の編纂者(へんさんしゃ)だったならば、次のように定義するであろう。

「恋愛。好色の念を文化的に新しく言いつくろいしもの。すなわち、性慾衝動に基づく男女間の激情。具体的には、一個または数個の異性と一体になろうとあがく特殊なる性的煩悶。色慾の Warming-up とでも称すべきか。」

 ここに一個または数個と記したのは、同時に二人あるいは三人の異性を恋い慕い得るという剛の者の存在をも私は聞き及んでいるからである。俗に、三角だの四角だのいう馬鹿らしい形容の恋の状態をも考慮にいれて、そのように記したのである。江戸の小咄(こばなし)にある、あの、「誰でもよい」と乳母(うば)に打ち明ける恋いわずらいの令嬢も、この数個のほうの部類にいれて差(さ)し支(つか)えなかろう。

 太宰もイヤにげびて来たな、と高尚な読者は怒ったかも知れないが、私だってこんな事を平気で書いているのではない。甚(はなは)だ不愉快な気持で、それでも我慢してこうして書いているのである。

 だから私は、はじめから言ってある。

 恋愛とは何か。

 曰(いわ)く、「それは非常に恥かしいものである」と。

 その実態が、かくの如きものである以上、とてもそれは恥かしくて、口に出しては言えない言葉であるべき筈なのに、「恋愛」と臆(おく)するところ無くはっきりと発音して、きょとんとしている文化女史がその辺にもいたようであった。ましてや「恋愛至上主義」など、まあなんという破天荒(はてんこう)、なんというグロテスク。「恋愛は神聖なり」なんて飛んでも無い事を言い出して居直ろうとして、まあ、なんという図々(ずうずう)しさ。「神聖」だなんて、もったいない。口が腐りますよ。まあ、どこを押せばそんな音(ね)が出るのでしょう。色気違いじゃないかしら。とても、とても、あんな事が、神聖なものですか。

 さて、それでは、その恋愛、すなわち色慾の Warming-up は、単にチャンスに依(よ)ってのみ開始せられるものであろうか。チャンスという異国語はこの場合、日本に於いて俗に言われる「ひょんな事」「ふとした事」「妙な縁」「きっかけ」「もののはずみ」などという意味に解してもよろしいかと思われるが、私の今日までの三十余年間の好色生活を回顧しても、そのような事から所謂(いわゆる)「恋愛」が開始せられた事は一度も無かった。「もののはずみ」で、つい、女性の繊手(せんしゅ)を握ってしまった事も無かったし、いわんや、「ふとした事」から異性と一体になろうとあがく特殊なる性的煩悶、などという壮烈な経験は、私には未(いま)だかつて無いのである。

 私は決して嘘(うそ)をついているのではない。まあ、おしまいまで読み給え。

「もののはずみ」とか「ひょんな事」とかいうのは、非常にいやらしいものである。それは皆、拙劣きわまる演技でしかない。稲妻(いなずま)。あー こわー なんて男にしがみつく、そのわざとらしさ、いやらしさ。よせやい、と言いたい。こわかったら、ひとりで俯伏(うつぶ)したらいいじゃないか。しがみつかれた男もまた、へたくそな手つきで相手の肩を必要以上に強く抱いてしまって、こわいことない、だいじょぶ、など外人の日本語みたいなものを呟(つぶや)く。舌がもつれ、声がかすれているという情無い有様である。演技拙劣もきわまれりと言うべきである。「甘美なる恋愛」の序曲と称する「もののはずみ」とかいうものの実況は、たいていかくの如く、わざとらしく、いやらしく、あさましく、みっともないものである。

 だいたいひとを馬鹿にしている。そんな下手(へた)くそな見えすいた演技を行っていながら、何かそれが天から与えられた妙な縁の如く、互いに首肯(しゅこう)し合おうというのだから、厚かましいにも程があるというものだ。自分たちの助平の責任を、何もご存じない天の神さまに転嫁しようとたくらむのだから、神さまだって唖然(あぜん)とせざるを得まい。まことにふとい了見(りょうけん)である。いくら神さまが寛大だからといって、これだけは御許容なさるまい。

 寝てもさめても、れいの「性的煩悶」ばかりしている故に、そんな「もののはずみ」だの「きっかけ」だのでわけもなく「恋愛関係」に突入する事が出来るのかも知れないが、しかし心がそのところに無い時には、「きっかけ」も「妙な縁」もあったものでない。

 いつか電車で、急停車のために私は隣りに立っている若い女性のほうによろめいた事があった。するとその女性は、けがらわしいとでもいうようなひどい嫌悪(けんお)と侮蔑(ぶべつ)の眼つきで、いつまでも私を睨(にら)んでいた。たまりかねて私は、その女性の方に向き直り、まじめに、低い声で言ってやった。

「僕が何かあなたに猥褻(わいせつ)な事でもしたのですか? 自惚(うぬぼ)れてはいけません。誰があなたみたいな女に、わざとしなだれかかるものですか。あなたご自身、性慾が強いから、そんなへんな気のまわし方をするのだと思います。」

 その女性は、私の話がはじまるやいなや、ぐいとそっぽを向いてしまって、全然聞えない振りをした。馬鹿野郎! と叫んで、ぴしゃんと頬を一つぶん殴ってやりたい気がした。かくの如く、心に色慾の無い時には、「きっかけ」も「もののはずみ」も甚(はなは)だ白々しい結果に終るものなのである。よく列車などで、向い合せに坐った女性と「ひょんな事」から恋愛関係におちいったなど、ばからしい話を聞くが、「ひょんな事」も「ふとした事」もありやしない。はじめから、そのつもりで両方が虎視眈々(こしたんたん)、何か「きっかけ」を作ろうとしてあがきもがいた揚句(あげく)の果の、ぎごちないぶざまな小細工(こざいく)に違いないのだ。心がそのところにあらざれば、脚がさわったって頬がふれたって、それが「恋愛」の「きっかけ」などになる筈は無いのだ。かつて私は新宿から甲府まで四時間汽車に乗り、甲府で下車しようとして立ち上り、私と向い合せに凄(すご)い美人が坐っていたのにはじめて気がつき、驚いた事がある。心に色慾の無い時は、凄いほどの美人と膝頭(ひざがしら)を接し合って四時間も坐っていながら、それに気がつかない事もあるのだ。いや、本当にこれは、事実談なのである。図に乗ってまくし立てるようだが、登楼(とうろう)して、おいらんと二人でぐっすり眠って、そうして朝まで、「ひょんな事」も「妙な縁」も何も無く、もちろんそれゆえ「恋愛」も何も起らず、「おや、お帰り?」「そう。ありがとう。」と一夜の宿のお礼を言ってそのまま引き上げた経験さえ私にはあった。

 こんな事を言っていると、いかにも私は我慢してキザに木石を装っている男か、或(ある)いは、イムポテンツか、或いは、実は意馬心猿(いばしんえん)なりと雖(いえど)も如何(いかん)せんもてず、振られどおしの男のように思うひともあるかも知れぬが、私は決してイムポテンツでもないし、また、そんな、振られどおしの哀(あわ)れな男でも無いつもりでいる。要するに私の恋の成立不成立は、チャンスに依らず、徹頭徹尾、私自身の意志に依るのである。私には、一つのチャンスさえ無かったのに、十年間の恋をし続け得た経験もあるし、また、所謂絶好のチャンスが一夜のうちに三つも四つも重っても、何の恋愛も起らなかった事もある。恋愛チャンス説は、私に於いては、全く取るにも足らぬあさはかな愚説のようにしか思われない。それを立派に証明せんとする目的を以て、私は次に私の学生時代の或るささやかな出来事を記して置こうと思う。恋はチャンスに依らぬものだ。一夜に三つも四つも「妙な縁」やら「ふとした事」やら「思わぬきっかけ」やらが重って起っても、一向に恋愛が成立しなかった好例として、次のような私の体験を告白しようと思うのである。

 あれは私が弘前(ひろさき)の高等学校にはいって、その翌年の二月のはじめ頃だったのではなかったかしら、とにかく冬の、しかも大寒(だいかん)の頃の筈である。どうしても大寒の頃でなければならぬわけがあるのだが、しかし、そのわけは、あとで言う事にして、何の宴会であったか、四五十人の宴会が弘前の或る料亭でひらかれ、私が文字どおりその末席に寒さにふるえながら坐っていた事から、この話をはじめたほうがよさそうである。

 あれは何の宴会であったろう。何か文芸に関係のある宴会だったような気もする。弘前の新聞記者たち、それから町の演劇研究会みたいなもののメンバー、それから高等学校の先生、生徒など、いろいろな人たちで、かなり多人数の宴会であった。高等学校の生徒でそこに出席していたのは、ほとんど上級生ばかりで、一年生は、私ひとりであったような気がする。とにかく、私は末席であった。絣(かすり)の着物に袴(はかま)をはいて、小さくなって坐っていた。芸者が私の前に来て坐って、

「お酒は? 飲めないの?」

「だめなんだ。」

 当時、私はまだ日本酒が飲めなかった。あのにおいが厭(いや)でたまらなかった。ビイルも飲めなかった。にがくて、とても、いけなかった。ポートワインとか、白酒とか、甘味のある酒でなければ飲めなかった。

「あなたは、義太夫(ぎだゆう)をおすきなの?」

「どうして?」

「去年の暮に、あなたは小土佐(ことさ)を聞きにいらしてたわね。」

「そう。」

「あの時、あたしはあなたの傍にいたのよ。あなたは稽古本(けいこぼん)なんか出して、何だか印をつけたりして、きざだったわね。お稽古も、やってるの?」

「やっている。」

「感心ね。お師匠さんは誰?」

「咲栄太夫(さきえだゆう)さん。」

「そう。いいお師匠さんについたわね。あのかたは、この弘前では一ばん上手(じょうず)よ。それにおとなしくて、いいひとだわ。」

「そう。いいひとだ。」

「あんなひと、すき?」

「師匠だもの。」

「師匠だからどうなの?」

「そんな、すきだのきらいだのって、あのひとに失敬だ。あのひとは本当にまじめなひとなんだ。すきだのきらいだの。そんな、馬鹿な。」

「おや、そうですか。いやに固苦しいのね。あなたはこれまで芸者遊びをした事なんかあるの?」

「これからやろうと思っている。」

「そんなら、あたしを呼んでね、あたしの名はね、おしのというのよ。忘れないようにね。」

 昔のくだらない花柳(かりゅう)小説なんていうものに、よくこんな場面があって、そうして、それが「妙な縁」という事になり、そこから恋愛がはじまるという陳腐(ちんぷ)な趣向が少くなかったようであるが、しかし、私のこの体験談に於いては、何の恋愛もはじまらなかった。したがってこれはちっとも私のおのろけというわけのものではないから、読者も警戒御無用にしていただきたい。

 宴会が終って私は料亭から出た。粉雪が降っている。ひどく寒い。

「待ってよ。」

 芸者は酔っている。お高祖頭巾(こそずきん)をかぶっている。私は立ちどまって待った。

 そうして私は、或る小さい料亭に案内せられた。女は、そこの抱(かか)え芸者とでもいうようなものであったらしい。奥の部屋に通されて、私は炬燵(こたつ)にあたった。

 女はお酒や料理を自分で部屋に運んで来て、それからその家の朋輩(ほうばい)らしい芸者を二人呼んだ。みな紋附を着ていた。なぜ紋附を着ていたのか私にはわからなかったが、とにかく、その酔っているお篠(しの)という芸者も、その朋輩の芸者も、みな紋の附いた裾(すそ)の長い着物を着ていた。

 お篠は、二人の朋輩を前にして、宣言した。

「あたしは、こんどは、このひとを好きになる事にしましたから、そのつもりでいて下さい。」

 二人の朋輩は、イヤな顔をした。そうして、二人で顔を見合せ、何か眼で語り、それから二人のうちの若いほうの芸者が膝を少しすすめて、

「ねえさん、それは本気?」と怒っているような口調で問うた。

「ああ、本気だとも、本気だとも。」

「だめですよ。間違っています。」と若い子は眉(まゆ)をひそめてまじめに言い、それから私にはよくわからない「花柳隠語」とでもいうような妙な言葉をつかって、三人の紋附の芸者が大いに言い争いをはじめた。

 しかし、私の思いは、ただ一点に向って凝結されていたのである。炬燵の上にはお料理のお膳(ぜん)が載せられてある。そのお膳の一隅(ぐう)に、雀焼(すずめや)きの皿がある。私はその雀焼きが食いたくてならぬのだ。頃しも季節は大寒(だいかん)である。大寒の雀の肉には、こってりと油が乗っていて最もおいしいのである。寒雀(かんすずめ)と言って、この大寒の雀は、津軽の童児の人気者で、罠(わな)やら何やらさまざまの仕掛けをしてこの人気者をひっとらえては、塩焼きにして骨ごとたべるのである。ラムネの玉くらいの小さい頭も全部ばりばり噛(か)みくだいてたべるのである。頭の中の味噌(みそ)はまた素敵においしいという事になっていた。甚だ野蛮な事には違いないが、その独特の味覚の魅力に打ち勝つ事が出来ず、私なども子供の頃には、やはりこの寒雀を追いまわしたものだ。

 お篠さんが紋附の長い裾をひきずって、そのお料理のお膳を捧げて部屋へはいって来て、(すらりとしたからだつきで、細面(ほそおもて)の古風な美人型のひとであった。としは、二十二、三くらいであったろうか。あとで聞いた事だが、その弘前の或る有力者のお妾(めかけ)で、まあ、当時は一流のねえさんであったようである)そうして、私のあたっている炬燵の上に置いた瞬間、既に私はそのお膳の一隅に雀焼きを発見し、や、寒雀! と内心ひそかに狂喜したのである。たべたかった。しかし、私はかなりの見栄坊であった。紋附を着た美しい芸者三人に取りまかれて、ばりばりと寒雀を骨ごと噛みくだいて見せる勇気は無かった。ああ、あの頭の中の味噌はどんなにかおいしいだろう。思えば、寒雀もずいぶんしばらく食べなかったな、と悶(もだ)えても、猛然とそれを頬張る蛮勇は無いのである。私は仕方なく銀杏(ぎんなん)の実を爪楊枝(つまようじ)でつついて食べたりしていた。しかし、どうしても、あきらめ切れない。

 一方、女どもの言い争いは、いつまでもごたごた続いている。

 私は立上って、帰ると言った。

 お篠は、送ると言った、私たちは、どやどやと玄関に出た。あ、ちょっと、と言って、私は飛鳥の如く奥の部屋に引返し、ぎょろりと凄くあたりを見廻し、矢庭(やにわ)にお膳の寒雀二羽を掴(つか)んでふところにねじ込み、それからゆっくり玄関へ出て行って、

「わすれもの。」と嗄(しゃが)れた声で嘘を言った。

 お篠はお高祖頭巾をかぶって、おとなしく私の後について来た。私は早く下宿へ行って、ゆっくり二羽の寒雀を食べたいとそればかり思っていた。二人は雪路を歩きながら、格別なんの会話も無い。

 下宿の門はしまっていた。

「ああ、いけない。しめだしを食っちゃった。」

 その家の御主人は厳格なひとで、私の帰宅のおそすぎる時には、こらしめの意味で門をしめてしまうのである。

「いいわよ。」とお篠は落ちついて、「知ってる旅館がありますから。」

 引返して、そのお篠の知っている旅館に案内してもらった。かなり上等の宿屋である。お篠は戸を叩いて番頭を起し、私の事をたのんだ。

「さようなら。どうも、ありがとう。」と私は言った。

「さようなら。」とお篠も言った。

 これでよし、あとはひとりで雀焼きという事になる。私は部屋に通され、番頭の敷いてくれた蒲団(ふとん)にさっさともぐり込んで、さて、これからゆっくり寒雀をと思ったとたんに玄関で、

「番頭さん!」と呼ぶお篠の声。私は、ぎょっとして耳をすました。

「あのね、下駄(げた)の鼻緒(はなお)を切らしちゃったの。お願いだから、すげてね。あたしその間、お客さんの部屋で待ってるわ。」

 これはいけない、と私は枕元(まくらもと)の雀焼きを掛蒲団の下にかくした。

 お篠は部屋へはいって来て、私の枕元にきちんと坐り、何だか、いろいろ話しかける。私は眠そうな声で、いい加減の返辞をしている。掛蒲団の下には雀焼きがある。とうとうお篠とは、これほどたくさんのチャンスがあったのに、恋愛のレの字も起らなかった。お篠はいつまでも私の枕元に坐っていて、そうしてこう言った。

「あたしを、いやなの。」

 私はそれに対してこう答えた。

「いやじゃないけど、ねむくって。」

「そう。それじゃまたね。」

「ああ、おやすみ。」と私のほうから言った。

「おやすみなさい。」

 とお篠も言って、やっと立ち上った。

 そうして、それだけであった。その後、私は芸者遊びなど大いにするようになったが、なぜだか弘前で遊ぶのは気がひけて、おもに青森の芸者と遊んだ。問題の雀焼きは、お篠の退去後に食べたか、または興覚めて棄てちゃったか、思い出せない。さすがに、食べるのがいやになって、棄てちゃったような気もする。

 これが即ち、恋はチャンスに依らぬものだ、一夜のうちに「妙な縁」やら「ふとした事」やら「もののはずみ」やらが三つも四つも重って起っても、或る強固な意志のために、一向に恋愛が成立しないという事の例証である。ただもう「ふとした事」で恋愛が成立するものとしたら、それは実に卑猥(ひわい)な世相になってしまうであろう。恋愛は意志に依るべきである。恋愛チャンス説は、淫乱(いんらん)に近い。それではもう一つの、何のチャンスも無かったのに、十年間の恋をし続け得た経験とはどんなものであるかと読者にたずねられたならば、私は次のように答えるであろう。それは、片恋というものであって、そうして、片恋というものこそ常に恋の最高の姿である。

 庭訓(ていきん)。恋愛に限らず、人生すべてチャンスに乗ずるのは、げびた事である。



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겨울의 불꽃놀이(冬の花火)

다자이 오사무(太宰 治) (1946)

번역 : 홍성필


등장인물


카즈에                29세

무츠코                카즈에의 딸, 6세

덴베에                카즈에의 부, 54세

아사                  덴베에의 후처, 카즈에의 계모, 45세

카나야 세이조         마을 사람, 34세


기타                  에이이치 (덴베에와 아사의 자, 미귀환)

                      시마다 데츠로 (무츠코의 친부, 미귀환)

                      모두 등장 안함.


장소.

쓰가루 지방의 어느 부락.

때.

1946년 1월 말경에서 2월에 걸쳐.








제1막

무대는 덴베에 집 거실. 다소 유복해 보이는 지주 집과 같은 형태. 안쪽에 2층으로 통하는 계단이 보인다. 안쪽은 부엌, 바깥쪽은 현관이다.

막이 열리자 덴베에와 카즈에, 방 안쪽에 있는 스토브를 쬐고 있다.

둘 모두 말이 없다. 큰 벽시계가 3시를 알린다. 어색한 분위기.

갑자기 카즈에가 조용하고도 기이한 웃음소리를 낸다.

덴베에, 얼굴을 들어 카즈에를 본다.

카즈에, 아무 말 없이 웃음을 그치고는 쑥스러움을 감추듯 난로 옆 나무 상자에서 장작을 꺼내어 난로에 두세 개를 집어넣는다.

[카즈에] (두 손의 손톱을 보면서 혼잣말처럼) 졌다, 졌다고 하지만 난 그렇지 않다고 생각해요. 망한 거예요. 멸망해버린 거예요. 일본이라는 나라 구석구석까지 점령당하고 우리들은 하나도 남기 없이 포로인데도, 그걸 창피한 줄도 모르고 정말, 촌사람들은 정말 바보예요. 지금까지 그래왔던 것처럼 생활이 언제까지라도 계속될 거라고 생각하고 있나보죠? 여전히 남 욕이나 하면서 자고 일어나면 먹고, 사람들을 보면 도둑인줄 알고, (또 낮은 목소리로 웃는다) 대체 무엇 때문에 살고 있는지 모르겠어요. 정말 신기하다구요.

[덴베에] (담배를 피우고는) 그야 뭐 어떻든 상관없지만 넌 지금 남편……인지 바람둥이인지 그런 게 있다는 건 사실이지?

[카즈에] (기분이 나빠져서) 그게 무슨 상관이에요. (혀를 찬다) 아무 말도 하지 말걸 그랬어요.

[덴베에] 네가 말하지 않더라도 여기저기서 내 귀에 들어와.

[카즈에] 괜히 숨기지 않아도 되요. 엄마죠?

[덴베에] (잠시 당황한 듯) 아니.

[카즈에] (작고 빠른 말투로) 그래요. 틀림 없다구요. 엄마는 또 어떻게 아셨대? 바보 같은 엄마.

- 틈 -

[덴베에] ‘아사’한테서 들었어. 하지만 ‘아사’는 절대 그렇다고 뭐…….

[카즈에] (그 말을 듣지도 않고 갑자기 태도를 바꾸더니) 엄마는 어디 가셨어요?

[덴베에] 대구를 사러 간다느니 하던데.

[카즈에] 무츠코를 업고서요?

[덴베에] 그렇겠지.

[카즈에] 무거울 텐데. 그 애는 이상하게 무거워요. 신기하게 할머니를 따르고, 그저 좋다면서 매달리고 있어요.

[덴베에] 네가 어렸을 때와 닮았어. (진지한 표정을 지으며 강한 말투로) ‘아사’는 그 아이를 갖고 싶다던데.

[카즈에] (얼굴을 돌리며) 말도 안 돼.

[덴베에] 아니야. 심각하게 하는 소리야. 한 번 들어봐. ‘아사’가 어제 저녁에 (슬쩍 쓴 웃음을 지으며) 나한테 심각하게 의논한 일이야. 에이이치 일은 이미 포기했어. 전쟁터에서 소식이 끊긴지도 벌써 3년이 지났어. 그 놈 부대가 남방의 어느 작은 섬을 지키러 갔다는 것만은 알고 있지만, 에이이치가 지금 무사한지 어떤지는 전혀 모르겠어. 포기했다고 ‘아사’가 그래. 하지만 너한테는 이미 숨겨놓은 사내가 있는 것 같아. 또 바로 동경으로 가버릴 셈이겠지. 가만히 잠자코 들어봐. 그건 네 마음이야. 좋을 대로 하면 돼. 그러나 무츠코는 놓고 갈 수 없겠니?

[카즈에] (또다시 기이한 웃음소리를 내며) 진심으로 말씀하신 거예요? 그런 바보 같은 말씀을……. 참 엄마도 어떻게 되셨나 보네요. 노망이라도 든 거 아니에요? 말도 안 돼.

[덴베에] 노망든 것일지도 모르지. 나도 말도 안 되는 소리라고 생각했어. 그런데 그 사람은 진지하게 그런 걸 생각하고 있는 것 같애. 네가 이제 지금 그 남편인지 바람둥이인지한테 간다고 해도 무츠코가 같이 있다면 장차 그 사내와의 사이에서 재미없는 일이라도 일어날지 모르지. 너도 아직 젊으니 이제부터 아이는 얼마든지 생길 거잖아. 아무튼 무츠코는 이 집에 두고 가줬으면 좋겠다고 하는데, 그 사람으로서도 여러 가지 생각한 끝에 말을 꺼냈겠지. 너를 위해서도 그게 가장 좋다고 생각하는 것 같애.

[카즈에] 상관할 필요 없어요.

[덴베에] 맞아. 분명 상관할 필요 없겠지. 그러나 너처럼 그렇게 ‘아사’를 바보취급 하고…….

[카즈에] (끝까지 안 듣고) 아니, 무슨. 그렇지 않아요. 들어봐요, 아빠. 낳은 정보다 길은 정이라고 하잖아요? 나를 낳은 어머니는 내가 지금의 무츠코보다도 훨씬 어렸을 때 돌아가시고, 그로부터 계속 지금 엄마가 키워주셨는걸요. 나중에 남들이 ‘저 사람은 네 계모이고, 동생인 에이이치는 배다른 동생이다’라는 말을 들어도 전 아무렇지도 않았어요. 계모든 뭐든 내 엄마인 건 틀림없고, 배다른 동생이라고 해도 에이이치는 역시 제 사이 좋은 동생이니 그런 건 전혀 아무렇지도 않았어요. 하지만 제가 여학교에 다니게 되고부터는 왠지 가끔 문득 쓸쓸하기도 했어요. 왜냐하면 엄마는 너무 훌륭해서요. 하나도 단점이 없잖아요. 제가 아무리 버릇없이 굴어도, 또 아무리 잘 못해도 엄마는 한 번도 혼내지 않고, 항상 웃으면서 저를 너무나도 귀여워해주셨어요. 그렇게 마음씨 좋은 엄마는 정말 없어요. 너무 마음씨가 좋으세요. 지나칠 정도로 말이에요. 어느 날인가 제가 다리 엄지발가락 발톱이 뽑힌 날 엄마는 얼굴이 창백해지고 제 발가락에 붕대를 감아주시면서 훌쩍훌쩍 우시는 걸 보고 너무한다고 생각했어요. 또 어떤 날에 제가 엄마한테, “엄마는 그래도 사실은 저보다도 에이이치가 더 귀엽죠?” 라고 여쭈었더니, 어쩌면 그렇게 대답을 잘하세요? 엄마는요, 그 때 제게 이렇게 말씀하셨어요. “가끔은 그래.” 라고 하시더군요. 너무 솔직하신 것처럼, 그리고 너무나 마음씨가 좋아 보여서 정말 미워지기까지 하더라구요. 에이이치한테만 어려운 일을 시키고 제게는 걸레질조차도 제대로 시키지 않으셨어요. 그래서 저도 오기가 생겨서 닥치는 대로 말을 안 들으려고 했죠. 무조건 버릇없게 굴고, 나쁜 짓만 하려고 그래버렸어요. 하지만 저는 엄마가 싫지 않아요. 너무 좋아요. 너무너무 좋아서 사족을 못 쓸 정도예요. 엄마도 제가 진심으로 귀여우셨나 보죠. 너무 귀여워서 저한테는 항상 예쁜 옷만 입혀놓으시고는 집안일도 시키고 싶지 않으셨나 봐요. 그건 알겠어요. 그래서 불쾌하고 밉고, 그러고는 왠지 쓸쓸해지고는 마음껏 멋대로 굴고 닥치는 대로 나쁜 짓을 해서, 그리고 나서 엄마랑 대판 싸우고 싶어 어쩔 줄을 몰랐어요.

[덴베이] (얼굴을 찡그리며) 서른이 내일 모렌데 아직도 그런 바보 같은 소리만 하고 있으니. 좀 제대로 된 말을 해봐라.

[카즈에] (태연하게) 아버지는 둔하니까 아무 것도 모르시는 거예요. 아버지 같은 사람을 ‘호인(好人)이라고 하지 않나요? 정말 무신경하시다니까요. (말투를 바꾸고) 하지만 엄마는 옛날부터 아름다웠어요. 저 동경에서 10년 가까이 살면서 여러 여배우나 양갓집 규수도 봤지만 우리 엄마만큼 아름다운 사람을 본 적이 없어요. 저는 옛날 엄마랑 둘이서 목욕탕에 갈 때는 얼마나 기쁘고 부끄러웠는지, 지금 생각해도 가슴이 뛸 정도예요.

[덴베에] 내 앞에서 그런 쓸데없는 소리는 하지 마. 그건 그렇고, 어떻겠니? 무츠코를 놓고 갈 생각이니?

[카즈에] (어이없다는 표정을 지으며) 아이, 아버지까지 그런 말도 안 되는…….

[덴베에] 그래도 사내가 있는 거 아냐?

[카즈에] (얼굴을 찡그리며) 좀 다른 말로 물어볼 수 없어요?

[덴베에] 어떤 말로 묻건 마찬가지잖니. (끌어 오르는 노여움을 억누르듯) 너도 하지만 멍청한 짓을 했다. 그렇게 생각 안 하냐?

[카즈에] (얼굴을 들고 말없이 차갑게 아버지 얼굴을 바라본다)

[덴베에] 어릴 적부터 말도 안 듣고 속을 썩였지만 그래도 이렇게 어리석은 녀석일 줄은 몰랐어. 너 때문에 ‘아사’도 얼마나 고생했는지 모른다구. 네가 히로사키(弘前)에서 여학교를 졸업하고 동경에 있는 전문학교에 가겠다고 했을 때도 나는 무슨 수를 써서라도 반대했고, 속이 상해 앓아 누웠지만 ‘아사’는 내가 누워 있는 머리맡에 계속 앉아 있으면서, 평생 소원이니 카즈에를 카즈에가 가고 싶다는 학교에 보내달라며 신신당부하고 울기에, 나도 고집을 꺾어가며 승낙했지. 너는 당연하다는 듯이 동경에 가더니 돌아오지 않아. 소설가인지 선생인지 뭔지는 모르지만, 그 시마다(島田)와 같이 살며 학교도 멋대로 그만두고, 그때부터 이미 너는 죽은 셈 치고 포기했었다. 하지만 ‘아사’는 한 마디 내게 싫은 소리 한 번 안 하고는 내게 숨긴 채 몰래 쌈짓돈을 네게 보내주고 있는 것 같더구나. ‘아사’는 자기 옷까지 팔아가며 너한테 돈을 보내주고 있었다구. 무츠코가 태어나고 바로 시마다가 군대에 끌려가서는, 그래도 너는 양재(洋裁)인지 뭔지를 하며 혼자 살 수 있다고 하고는 시댁으로 가지고 않고, 아니, 가려고 해봤자 시마다도 상당한 불효자식 같았으니 자기 부모와 사이가 안 좋은데, 이제 와서 처자식을 맡겨달라고 할 수 없었는지, 그렇다면 우리한테 기어들어오나 하고 있었더니 그것도 아니야. 난 두 번 다시 꼴도 보기 싫었기에 모르는 척 하고 있었지만 ‘아사’는 재차 시마다가 나가있을 때에는 이쪽에 와 있으라며 편지를 보낸 것 같더구나. 그래도 너는 쓸데없이 잘난 척을 하며 양재 일이 바빠 도저히 시골 같은 데 내려갈 수 없다는 등 답장을 보내와서는, 대체 어떻게 살고 있는 건지, 서서히 동경에서는 식량이 모자라진다는 소문을 듣고 ‘아사’는 거의 매일같이 소포를 만들어 너네들한테 먹을 것을 보내줬어. 넌 그걸 당연한 듯 태연하게 받아들고는 제대로 인사편지 하나 보내지 않았던 것 같지만 그래도 ‘아사’는 그것을 보내기 위해 얼마나 고생을 했는지 너희가 알 턱이 없지. 하루라도 빨리 도착하라고 반드시 철도편으로 보내고, 그렇게 하려고 ‘아사’는 항상 나미오카(浪岡) 역까지 걸어서 갔었어. 나미오카 역까지는 여기서 10리 길이야. 겨울 눈보라를 뚫고도 걸어갔지. 여섯 시 상행선 첫차를 놓치지 않으려고 아직 캄캄할 때 일어나 역까지 갈 때도 있었어. 그 사람은 정말 아침에 일어나서 밤에 잘 때까지 너희들만을 생각하며 살고 있었다구. 너처럼 행복한 녀석은 없다. 동경에서 이재(罹災)했다고 해서 아무런 말도 없이 싱글벙글 웃으며 이 집으로 와서는 그야말로 창피한 줄도 모르고 어떻게 기어들어왔을까 하고 나는 어이가 없어 너희들한테 말도 걸고 싶지 않았었으나 하지만 너희도 지금은 내 딸이 아니며 시마다라는 출정(出征)군인의 마누라이니 문전박대 할 수도 없어, 그저 남남인 이재민을 맡아주는 셈치고 아무 말 없이 너희들을 이 집에 있게 한 거야. 건방 떨면 못 써. 나한테는 너희들을 돌봐줄 의무도 없고, 너도 역시 이 집에서 멋대로 굴 권리 같은 건 안 가지고 있을 게야.

[카즈에] (고개를 숙이고는 그래도 또박또박) 시마다는 죽은 것 같습니다.

[덴베에] 그럴지도 모르지. 하지만 아직 유골이 오질 않아. 장례식도 치르지 않았어. 너는 참으로 어리석은 녀석이야. 대체 지금의 남편인지 뭔지는 어떤 놈이야?

[카즈에] 엄마한테 물어보면 되잖아요. 뭐든지 알고 계시니까.

[덴베에] (무의식적으로 주먹을 쥐고) 아직도 그런 바보 같은 소릴 하냐. ‘아사’는 아무 것도 몰라. 그저 네가 남몰래 누군가와 편지를 주고 받고 있는 것 같다는 것, 가끔 돈도 보내오는 것 같고 무츠코가 동경에 있는 아저씨가 어쩌구 하니, 이러면 ‘아사’가 아니더라도 눈치를 안 채겠냐.

[카즈에] 그래도 아버지는 모르셨잖아요?

[덴베에] (괴로운 듯이) 꿈에서 그런 걸 생각할 리가 있겠냐. (한 숨을 지으며) 넌 정말 이제부터 어디까지 타락할 생각이냐.

[카즈에] (조용히) 이 집에 있게 해주지 않으면 무츠코를 데리고 동경으로 돌아갈 생각이에요. 봄까지 여기에 머물고 있다가, 그리고 그러는 동안 스즈키(鈴木)가 저쪽에서 집을 찾아놓기로 했었는데.

[덴베에] 그 사내는 스즈키라고 하나?

[카즈에] (얌전히) 네에.

[덴베에] (거칠게) 그 녀석이랑 지낸 지 몇 년이나 되냐.

[카즈에] (말 없음)

[덴베에] 묻지 않기를 바라냐? 그래. 대충 알았어. (흥분을 누르며 조용히, 그러나 목소리가 변했다) 나가. 지금 당장 나가버려. 어디라도 상관없어. 나가버려라. 무츠코를 여기 두고 지금 당장 그 녀석한테 가버려!

[카즈에] (얼굴을 들며) 아버지. 아버지는 제가 동경에서 어떤 고생을 해왔는지 알고 계세요?

현관이 열리는 소리.

[계모 ‘아사’ 목소리] 아이구, 착해라. 정말 착하네. 추워도 전혀 울지도 않았지?

[무츠코 목소리] 그리고 또 무츠코가 도움이 많이 됐죠?

[‘아사’ 목소리] 그럼. 그렇구 말구. 할머니 지갑을 들고 떨어뜨리지도 않았지? 정말 도움이 됐어. 정말이야.

[무츠코 목소리] 다음에도 그럼 장 보러 갈 때 데리고 가실 거죠?

[‘아사’ 목소리] 물론이지 데리고 갈게. 자, 집에 들어가자꾸나.

바깥쪽 미닫이를 열고 ‘아사’와 무츠코 등장. 무츠코는 곧바로 카즈에 쪽으로 달려가, 카즈에 무릎 위에서 안긴다.

[카즈에] (‘아사’를 보고 웃으며) 무거우셨죠?

[아사]   (장을 봐온 생선 바구니, 가쿠마키(角卷:쓰가루 지방에서 사용되는 외출용 담요) 등을 안쪽 부엌으로 옮기면서) 요즘은 제법 꾀가 늘어서 말이야. 내려서 걷지 않으려냐고 물으면 갑자기 자는 척하고 그런다니까. 얼마나 맹랑한지 몰라.

[카즈에] (무츠코가 손에 쥐고 있는 한 다발 가느다란 불꽃놀이를 보고는) 어머, 이거 뭐니? 어디서 났어?

[무츠코] 이건 장난감이에요.

[카즈에] 장난감? (웃으며) 이상하게 생겼네. 할머니께서 사주셨니?

[무츠코] 고개를 끄덕인다.

[아사]   (부엌에서 부엌일을 하면서 역시 창호지 뒤편에서 목소리만) 지금 아이들은 불쌍해. 장난감 같은 건 하나도 팔지 않더구나. 작은 국기를 갖고 싶다며 무츠코가 그러는데 깜짝 놀랐어. 말을 듣고 보니 그런 깃발 장난감이 전쟁 중에는 어느 구멍가게에서도 꼭 있었는데 요즘은 찾아볼 수 없더라구. 하다못해 아이들한테 만이라도 그 깃발을 들려주며 놀게 하고 싶은데 역시 안 되겠어. 무츠코한테 그 점을 뭐라고 설명해줘야 할지 할머니로서도 곰 곤란했었지 뭐야. (낮게 웃는다) 센코 하나비(가느다란 향처럼 생긴 모양새 끝에 불을 붙이고 즐기는 불꽃놀이 기구. 불꽃 크기는 매우 작다 - 역자 주) 정도는 가게에 많이 있어서 말이야. 무슨 영문인지 아무래도 요즘 가게에는 계절과 맞지 않는 물건만 있더라구. 밀짚모자다 파리채다, 웃기지 않니? 그런 거라도 사는 사람이 있나봐. 이맘때에 파리채 같은 걸 사서 어디다가 쓰려는 건지.

[카즈에] (웃으며) 파리채라도 하고이타 대신은 쓸 수 있을지 모르겠네요. 이런 센코 하나비보다는 아이들한테 좋은 장난감일 수도 있잖아요. (무츠코가 손에 들고 있던 센코 하나비를 들고 만지작거리면서) 겨울의 불꽃이라. 왠지 좀 기분이 이상하네요. 아까 무츠코가 들고 있는 걸 보고 왠지 모르게 소름이 끼쳤어요.

[아사]   (부드럽게) 그런 것들 말고 다른 건 안 팔고 있는데 어떡하겠어요. 지금 아이들은 정말 불쌍하죠. (말투를 바꾸고) 싱싱한 대구 같은데 대구지리를 드시겠어요?

[덴베에] 술은 아직 있나?

[아사]   역시 미닫이 뒤편에서) 네에. 아직 조금 있을 거예요.

[덴베에] 그럼 밤에는 대구지리로 한 잔 하도록 할까.

[카즈에] 나도 그래야지.

[덴베에] (인내를 잃고 자기도 모르게 큰 소리를 낸다) 이 멍청한 것! 넌 어디까지 까부는 게야! (일어서려다 다시 앉고서) 사람이 좀 제대로 돼봐!

무츠코, 갑자기 울음을 터뜨리고 카즈에 품에 매달린다. 카즈에는 차분하고 말이 없었다.

[덴베에] 너 하나 때문에, 너 하나 때문에 이 집안이 너 하나 때문에(무언가 중얼거리며 울기 시작한다.)

카즈에, 무츠코를 안은 채로 조용히 일어서 안쪽 계단이 있는 곳으로 간다.

[덴베에] (분연히 일어나) 거기 서!

[아사]   (부엌에서 뛰쳐나와 덴베에를 말리며] 아이구, 여보. 왜 그러세요.

[덴베에] 두들겨 패줘야 해. 정신이 들 때까지 두들겨 패야 돼.

카즈에, 뒤도 돌아보지 않고 울부짖는 무츠코를 안고서 계단을 오르기 시작한다. 키모도 밑자락에 흰 스타킹을 신고 있는 것이 보인다.

덴베에, 몸부림을 친다. ‘아사’ 필사적으로 말린다.

― ―  막



제2막

막이 열리자 무대는 캄캄하다. 찰칵 하고 전등이 켜진다. 이층 카즈에 거실. 카즈에가 지금 그 방 전등을 켠 것이다. 방에는 이불이 두 자리 깔려있고, 한 이불에서는 무츠코가 자고 있다. 카즈에는 잠옷 차림으로 서 있고 한 손으로 방금 스위치를 켰다는 듯한 자세. 한 손을 들고 스위치를 잡은 채로 한 곳을 응시하고 있다. 그 한 곳이란 아래쪽 덧문이었다. 덧문이 조용히 열린다. 눈바람이 들어온다. 이어서 전통 외투를를 걸친 사내가 뒷걸음으로 들어온다.


[카즈에] (조용히, 그러나 날카롭게] 누구, 누구세요?

[사내] (덧문을 닫고 외투를 벗고는 비로소 이 쪽을 돌아보고 그 자리에 정연하게 앉는다. 마을 사람 카나야 세이조(金谷淸藏)였다.) 접니다. 죄송합니다. (진지한 표정으로 가볍게 고개를 숙인다)

[카즈에] (놀라며) 아니, 세이조 씨. 무슨 일이세요? (재빨리 잠옷 위에 윗도리를 걸치고 띠를 묶으며 방의 화로 근처까지 가서 앉고서) 도둑이 든 줄 알았어요. 대체 어떻게 된 거예요?

[세이조] 죄송합니다. 다시 한 번 제 마음을 차분히 들어주셨으면 해서 집 앞을 꽤 오랫동안 왔다갔다 하다가, 결국 결심하고 지붕 위로 올라, 여기 2층 창가 덧문에 손을 걸쳤더니 스르륵 열리기에 그래서…….

[카즈에] (쓴 웃음을 지으며) 엉뚱한 도둑이었네요. (화저로 화롯불을 끌어 모으면서) 그래도 시골에서는 이런 일이 드문 건 아니죠? 아마 요즘 시골에서의 연애형식이 되어 있나보군요. ‘요바이(夜這:남성이 여성의 침소에 몰래 들어가는 것 - 역자 주)’ 어쩌구 하는 거죠?

[세이조] 천만에요. 그런, 저는 절대 그런 실례를.

[카즈에] (웃으며) 아뇨. 그게 아니라면 오히려 실례 아닐까요? 지붕 위로 올라 2층 이 방으로, 그것도 이런 야밤에 방문하다니 제정신이 아니겠죠.

[세이조] (더더욱 괴로운 듯이) 부탁입니다. 놀리지 마세요. 제 잘못입니다. ‘요바이’ 같은 말을 듣는다면 무척 섭섭한 일입니다만, 그래도 하는 수 없습니다. 제게는 이렇게 하는 것 외에 다른 방법이 없었습니다. (얼굴을 들고) 카즈에 씨! 이제 더 이상 저를 괴롭히지 말아주세요. YES인가요, NO인가요? 그것을, 그것만을 오늘 밤 분명히 말씀해주세요.

[카즈에] (얼굴을 찡그리며) 어머, 당신, 술을 드셨군요.

[세이조] 마셨습니다. (침울하게) 벌써 이 며칠 동안 술만 마시고 있습니다. 카즈에 씨, 이것도 모두 당신 때문입니다. 당신이 돌아오지만 않았어도 아아, 필요 없어요. 이런 말을 해봤자 소용없습니다. 카즈에 씨, 당신은 기억하고 있나요? 잊었겠죠. 당신이 여학교를 졸업하고 동경으로 가셨을 때 그 무렵은 마침 눈이 녹아 길이 무척 안 좋아서 제가 고리짝을 짊어지고 당신 어머님과 셋이서 나미오카에 있는 역까지 걸어갔습니다. 길가에는 벌써 머위의 새순이 싹을 내밀고 있었습니다. 당신은 걸으면서 ‘산도 들도 봄 안개에 덮이고 냇물은 속삭이며 복숭아 봉우리는 풀리려 한다’는 노래를 부르고요.

[카즈에] 풀리려 하는 게 아니에요. 복숭아 봉우리가 물기를 머금는다. ‘머금는다’였어요.

[세이조] 그랬군요. 역시 그 때 일을 기억하고 있었군요. 그리고 우리들은 나미오카 역에 도착하고 아직 시간이 상당히 있었기에 우리들은 역 대합실 의자에 앉아 도시락을 펼쳤습니다. 그 때 당신 도시락은 계란부침과 우엉 볶음이고, 제가 가지고 온 도시락 반찬은 연어알젓 절인 것과 찐 양파였습니다. 당신은 제 연어알젓이 먹고 싶다고 하기에 저한테 계란부침과 우엉 볶음을 주고는, 그리고 제 연어알젓과 찐 양파를 당신이 먹어버렸습니다. 저도 당신의 계란부침과 우엉 볶음을 먹고는, 왠지 이제 우리 둘 사이에 피가 서로 섞인 듯한 마음이 들었습니다. 지금 여기서 헤어지더라도 절대 영원히 헤어지는 일은 없을 것이다, 반드시 꼭 내가 있는 곳으로 돌아와, 분명 부부……그렇죠. 그렇게 생각했습니다. 저는 그 때 스물 서너 살이었을까요. 이 마을에서는 아무튼 중등학교 이상을 나온 건 저 하나뿐이었으며, 당신과 하나가 될 자격이 있는 건 저 밖에 없다며, 예전부터 막연하게 그런 마음을 가지고 있었으나, 그 도시락 반찬을 서로 바꾸어먹고, 그리고 당신 어머님께서 당신에게 세이조 씨 반찬은 특별히 맛있는 것 같다고 웃으며 말씀하시자, 당신은 “그야 세이조 씨는 남의 집안사람이 아니잖아요, 세이조 씨, 그렇죠?” 라며 저를 보고 묘하게 웃었어요. 기억 나요?

[카즈에] (화저로 재를 섞으면서 내뱉듯이) 잊어버렸어요.

[세이조] 그렇군요. (한숨을 쉬고) 하나부터 열까지 제가 바보였던 겁니다. 저는 그 때 당신이 하는 그 말을 듣고 너무 기쁜 나머지 눈물이 나와서 밥도 제대로 넘어가지 않았을 정도였습니다. 이건 분명 카즈에 씨도 동경에서 학교를 졸업하고 돌아오면 틀림없이 저와 결혼할 생각을 하고 있고, 그리고 당신 어머님도 대충 그럼 마음을 가지고 계신 걸로 생각하고 있었습니다.

[카즈에] 그야 엄마는 그런 생각을 가지고 있었는지는 모르죠. 당신과 우리 집 사이는 옛날부터 친하게 지내왔고, 당신을 남처럼 생각하지는 않았지만, ……그래도…….

[세이조] (고개를 끄덕이고) 그렇죠. 그렇겠죠. 제가 어이없는 착각을 하고 있었던 거예요. 하지만 카즈에 씨. 저는 그날 이후 기다렸습니다. 이제 분명 당신과 결혼할 수 있다고 착각하고는, 마음 석으로 당신을 ‘와이프’라 부르고 있었는데, 당신은 그날 이후 돌아올 기색이 없습니다. 제게도 여러 중매가 들어왔습니다만 모두 거절했습니다. 그러나 당신은 여름방학에도 겨울방학에도 마을로 돌아오지 않기에 그러던 중 당신이 당신 학교 선생님이며 소설가인 시마다 데츠로와 결혼했다는 소식을 들었습니다. 제가 얼마나 당황했는지 생각해보세요. 저는 그 후로 사람이 변했습니다. 저희 집 정미소도 제대로 거들지 않게 되었습니다. 담배 맛도 배웠습니다. 술을 마시고는 사람에게 난폭해지기도 했습니다. ‘요바이’도 했습니다.

[카즈에] (웃음을 터뜨리며) 거짓말. 거짓말이에요. 거기서부터는 모두 거짓말이네요. 남자는 왜 그런 뻔한 거짓말을 하는 걸까요? 자기가 하는 거짓말을 자기도 모르는 것처럼 진지하게 그런 거짓말을 한다니까요. 제가 동경에 가고 당신에 대한 일을 잊고 있었던 것처럼 당신도 마찬가지예요. 저와 나미오카 정거장에서 헤어지고 그로부터 계속 10년간 저만 생각하고 있었다는 게 말이 된다고 생각하세요? 사람은 모두 하루하루 자신의 삶에서 부딪히는 것만을 생각하고, 그것만으로도 벅차죠. 자기 생활에 아무런 상관도 없는 멀리 있는 사람을, 그야 가끔 떠올릴 때도 있겠지만 어느새 잊어버리게 되는 거라구요. 당신이 그렇게 술을 마시거나 난폭해진 것 전혀 나 때문이 아닌 것 같아요. 당신은 옛날부터 그런 기질이 있었다고, 그런 실례되는 건 저는 생각하지 않지만, 그래도 그건 모두 당신의 생활환경 때문에 자연히 그렇게 된 거잖아요? 이 마을에서 빈둥빈둥 살다보면 분명 그렇게 돼 버릴 거예요. 그것뿐이라구요. 저 때문이라니, 너무해요. 제가 당신을 잊고 있었던 것처럼 당신도 저를 잊고 있었던 거예요. 그리고 이번에 제가 돌아왔다는 소식을 듣고 갑자기 마음에 걸려서 왠지 제가 미워지기 시작한 거죠. 사람이란 다 그런 거예요.

[세이조] (갑자기 심술이 난 듯) 아니에요. 그 증거로 저는 아직도 독신입니다. 대충 저를 둘러대려 해도 안 돼요. 저는 벌써 서른넷입니다. 이 지방에서는 서른넷이나 먹고 독신으로 지내면 정말 이상한 사람 대접을 받아요. 어딘가 모자란 게 아닌가 하는 심한 소문까지 납니다. 그래도 저는 당신을 잊지 않았어요. 당신은 이미 다른 곳에 시집갔고 당신을 잊어야 한다고 아무리 생각해도 그럴 수 없었습니다. 거기엔 이유가 있어요. 카즈에 씨, 저는 시마다 데츠로가 쓴 소설을 읽었어요. 당신 남편은 어떤 소설을 쓰고 있는지 묘한 호기심 때문에 동경에 있는 서점에 주문하여 시마다 데츠로서의 신간서적을 네다섯 권 주문했습니다. 괜히 주문했어요. 그걸 읽고 저는 얼마나 비참하게 괴로워했는지 당신은 상상도 못하시겠죠. 시마다 씨의, 아니, 시마다가 쓴 소설에 나오는 모든 여자는 다름 아닌 모두 당신입니다. 당신과 꼭 닮았습니다. 그 사람이 당신을 얼마나 예뻐하고 있는지, 당신 또한 얼마나 전심으로 당신을 위해 애를 쓰는지 적나라하게 저는 알 수 있었습니다. 이렇다면 제가 당신을 잊고 싶어도 잊을 수가 없지 않습니까. 당신이 저한테서 아무리 멀리 떨어져 있어도 그 책을 읽으면 마치 당신들이 제 이웃집에서 지내고 있는 것처럼 생생하게 느껴져서 견딜 수 없는 걸요. 더 이상 읽지 않겠다고 하면서도, 그래도 왠지 마음에 걸려 신문 같은 곳에 시마다의 신간서적 광고가 나오면 저도 모르게 또 주문하고 읽고서는 몸부림칩니다. 정말 저는 불행한 남자입니다. 그렇게 생각 안 드세요? 시마다의 소설 속에 이런 시가 나옵니다. 흰 버선이라, 주부의 하루가 시작되누나. 흰 버선이라, 주부의 하루가 시작되누나. 실제로 사람을 바보취급 하고 있어요. 제가 그 시를 읽었을 때는 당신이 얼마나 생동감 있고 생생한 모습이 선명하게 제 눈앞에 떠올라 안절부절 못하는 심정이었습니다. 왠지 모르게 당신들한테 희롱 당하고 있는 것 같아 미칠 지경이었습니다. 이렇게 되면 정말 술 퍼 마시고 사람한테 난폭해지는 것도 당연하다고 생각하지 않아요? 이럴 바에야 그저 아무나 시골 여자를 맞이할까 하기도 했지만, 흰 버선이라, 주부의 하루가 시작되누나. 당신의 그 아름다운 환상이 항상 눈앞에 아른거리는데도 시골 여자, 게으른 마누라를 바라보는 생활은 너무나도 비참합니다. 저도 비참하고, 또한 그런 일은 모르는 채 열심히 일하는 그 시골 여자도 딱합니다. 카즈에 씨, 저는 당신을 위해 한평생 결혼을 하지 않은 남자가 되었습니다. 시마다가 출정한 일을 저는 전혀 몰랐습니다. 시마다의 소설이 요 몇 년 동안 전혀 발표되지 않은 것도 이 전쟁 때문에 소설가들도 군수공장인가 어딘가에 진출하지 않을 수 없게 되었겠지 하고 있었습니다. 그런데 신작 소설이 안 나오더라도 제게는 이전에 시마다가 쓴 책이 몇 권이나 남아 있습니다. 너무나도 저주스러워 태워버릴까 하던 적도 있었지만, 왠지 그건 당신 몸을 태우는 것만 같아 도저히 저는 할 수 없었습니다. 그 시마다의 책을 미워하면서도 그래도 그 책 속에 나오는 당신이 사랑스러워 저는 제게서 떼어놓을 수가 없었습니다. 이 10년간 당신은 항상 제 곁에 있었던 겁니다. 흰 버선이라, 주부의 하루가 시작되누나. 당신의 그 아름다운 모습이 아침부터 밤까지 제 주변에서 가물거리며 일하고 있는 것입니다. 잊고 싶어도 도저히 불가능합니다. 그런데 마침 갑자기 당신이 돌아왔습니다. 듣자 하니 시마다는 이미 예전에 출정하여, 그리고 아무래도 전사한 것 같다고 해서 저는…….

[카즈에] 거기서부터는 말을 못하겠죠. 당신은 이미 제가 돌아와서부터 두세 달 동안 아침부터 밤까지 이 집에 맨날 들락거리고 제 아버지나 엄마한테도 그렇게 소심한 사람들이니 당신한테 오지 말라는 소리도 못하고 무척이나 곤란해 하는 것 같아, 제가 당신 집에 가서 (말하면서 문득 바닥 위에 흩어져 있는 ‘센코하나비’를 보고는 하나를 집어 들고 불을 붙인다. 따닥따닥 타오른다. 그 불꽃을 바라보며) 당신 어머니와 당신 여동생, 그리고 당신과 셋이 계신 앞에서, 그렇게 자주 오시면 남들이 분명 이상한 소문을 낼 테니 이제 오시지 말라고 하고는, 그 다음부터 당신도 찾아오지 않게 되고, (‘센코 하나비’가 꺼진다. 다른 하나를 집어 들고 불을 붙인다) 마음 놓고 있었더니 얼마 전 갑자기 그런 징그러운 편지를 보내와서는, 정말 당신도 변했더군요. 마을에서도 당신은 무척 소문이 안 좋던 것 같던데요.

[세이조] 징그럽든 어떻든 상관없습니다. 저는 그 편지를 울면서 썼습니다. 사나이가 울면서 썼습니다. 오늘은 그 편지에 대한 대답을 들으러 왔습니다. YES인가요, NO인가요. 그것만을 들려주세요. 겉멋 부리는 것 같지만, (주머니에서 수건에 싸인 식칼을 꺼내어 바닥에 놓고는 미소를 띄우며) 오늘 밤은 이런 것도 가지고 왔습니다. 그런 불꽃놀이 같은 건 치우고 YES인지 NO인지 말해주세요.

[카즈에] (불꽃이 꺼지자 또 다른 불꽃놀이를 주워들어 불을 붙인다. 이후에도 마찬가지로 대여섯개 가까이 계속한다) 이 불꽃놀이는 말이에요, 이삼 일 전에 제 엄마가 무츠코한테 사주신 건데 저런 아이라도 난로 옆에서 따닥따닥 타오르는 불꽃놀이에는 전혀 흥미가 없나봐요. 재미없게 쳐다보더군요. 역시 불꽃놀이라는 건 여름 밤에 모두가 유카타(여름철에 입은 얇은 일본식 복장 - 역자 주)를 입고 스즈미다이(납량용 긴 걸상 - 역자 주)에 모여서 수박이라도 먹으며 따닥따닥 하고 그래야 가장 예쁘게 보이는 거겠죠. 하지만 그런 시대는 이제 영원히, (문득 한숨을 쉰다) 영원히 안 올 지도 몰라요. 겨울의 불꽃놀이, 겨울의 불꽃놀이. 바보 같고 시시해서 (한 속으로 따닥따닥 소리 내는 불꽃놀이를 든 채로, 다른 한 손으로는 눈물을 닦는다) 세이조 씨, 당신이나 나나, 아뇨 일본사람 모두가 이런 겨울날의 불꽃놀이 같은 거예요.

[세이조] (맥이 풀린 듯) 그건 어떤 뜻이죠?

[카즈에] 아무 의미도 없어요. 보면 알잖아요. 일본은 이제, (갑자기 불꽃놀이를 그만두고 소매로 얼굴을 덮는다) 모든 게 다 틀렸어요. (소매에서 얼굴을 반쯤 내밀고는 오열하면서 조금 웃고는) 그리고 저도 이제 틀렸어요. 아무리 발버둥치고 노력해도 나빠질 뿐이에요.

[세이조] (무슨 착각을 한 듯 앉은 채로 안 발자국 다가선다) 그래요, 그렇습니다. 이대로는 나빠질 뿐입니다. 마음먹고 생활을 바꾸는 거예요. 무츠코 씨 하나 정도는 훌륭하게 키우겠습니다. 저희 집은 아시겠지만 이 주변에서 단 한곳뿐인 정미소니까 쌀은 어떻게든 마련할 수 있어요. 지금은 정미소가 최고입니다. 지주보다 누구보다도 쌀이 풍족하잖아요.

[카즈에] (그 말을 전혀 듣지 않은 듯, 무릎 위에서 소매 끝을 만지작거리며) 언제부터 일본사람이 이렇게 뻔뻔한 거짓말쟁이가 된 걸까요. 모두 가짜 투성이고 아는 척 하고 속이고는, 약간의 학문인지 무슨 주의인지 같은 것에 매달리면서 삐걱거리며 사람들을 구원한다느니. 사람을 구원한다니 얼마나 터무니없는, (제1막에서와 같은 조용하고 기이한 웃음소리를 낸다) 치사한 것에도 분수가 있어요. 일본사람들이 모두 이런 꼭두각시 같은 이상한 걸음걸이를 시작하게 된 게 언제부터였을까요. 훨씬 전부터예요. 아마 한참 전부터예요.

[세이조] (멈칫하며) 그건 정말 도시 사람들은 그렇겠죠. 정말 그렇겠죠. 하지만 시골에서의 순정은 예나 지금이나 같습니다. 카즈에 씨, (이상하게 웃고는 다시 조금 더 다가선다) 옛날 일을 떠올려주세요. 당신과 저, 이미 오래 전부터 연결되어 있었던 거예요. 어떻게 해도 함께 되는 사이였다는 겁니다. 카즈에 씨, 생각해보세요. 역시 저도 지금까지는 부끄러워 이것만은 말을 꺼내지 못하고 있었지만, 카즈에 씨, 우리는 어릴 때 당신 집에 있는 짚 창고에서 지푸라기 속으로 들어가 놀던 적이 있었어요. 그 때 일을 설마 잊지는 않았겠죠? 당신은 여학교에 들어갈 때가 되자 이제 저와 그런 일이 일었다는 것을 완전히 잊은 듯한 얼굴이었으나 당신은 그 때부터 제게 시집을 와야만 했습니다. 저도 동정을 잃고 당신도 처녀를.

[카즈에] (경악하고 일어서서) 아니, 당신은 무슨 소리를 하는 거예요? 마치 이건 불량배잖아요. 무슨 순정이에요. 당신 같은 사람이야말로 나쁜 사람입니다. 돌아가주세요. 돌아가지 않는다면 사람을 부르겠어요.

[세이조] (완전히 악당처럼 차분해져서) 조용히 하세요. (식칼을 잠깐 들어 보이고 바닥 위로 살짝 내던지고는) 이게 안 보이세요? 오늘 밤은 저도 목숨을 걸었습니다. 언제까지나 맨날 그렇게 당신한테 놀림 당하고 싶지 않습니다. YES예요, NO예요?

[카즈에] 그만 두세요. 징그럽습니다. 여자가 그런 어린 아이 때 사사로운 일로 평생토록 지탄 받아야 한다면 여자는 너무나 비참합니다. 아ㅇ, 저는 당신을 죽이고 싶어요. (세이조 쪽을 돌아보며 두 세 발자국 뒷걸음질 하며 갑자기 손을 뒤로 돌려 미닫이문을 연다. 문 바깥은 계단 내리막길 거기에 ‘아사’가 서 있다. 카즈에 그곳에 아사가 서 있다는 것을 아까부터 알고 있었다는 듯, 역시 세이조 쪽을 보면서) 엄마! 부탁이에요. 이 사람을 돌려보내세요. 송충이 같은 사람이에요. 저는 이제 말도 하기 싫어요. 죽여버리고 싶다구요.

[세이조] (‘아사’가 서 있는 것을 보고 놀라) 이런, 어머님. 거기 계셨습니까. (갑자기 수줍어하며 바닥 위에 있던 식칼을 재빨리 품속으로 집어넣는다) 실례했습니다. 돌아가죠. (일어서서 겉옷을 걸친다)

[아사]   (어쩔줄을 몰라 하며 방으로 들어와서 세이조 곁에 다가가서는 세이조가 겉옷 입는 것을 조금 도와주고는 차분하게) 세이조 씨, 어서 색시를 얻으세요. 카즈에한테는 벌써…….

[카즈에] (작은 목소리로 날카롭게) 엄마! (말하지 말라고 눈짓을 한다)

[세이조] (순간 눈치를 챘다는 듯이) 그렇군요. 카즈에 씨, 당신도 너무합니다. (씨익 웃고는) 대단한 수완이네요. 탄복했습니다. 제가 송충이라면 당신은 뱀입니다. 음란해요. 기생입니다. 남들한테 다 말할 거예요. 그렇지. 다 말할 겁니다. (몸을 돌려 등뒤에 있는 덧문을 연다. 눈보라가 방 안까지 몰아친다.)

[아사]   (조용히 단호하게) 세이조 씨. 기다리세요. (세이조를 끌어안듯 하고는 품속을 뒤져 부엌칼을 꺼내어 거꾸로 들고는 세이조의 가슴을 찌르려 한다)

[세이조] (간발의 차이로 그 손을 잡고는) 무슨 짓입니까. 이 할망구가 미쳤나. (칼을 빼앗고는 아사를 발로 밀어내고 바깥으로 도망친다. 털썩 하고 지붕에서 아래로 뛰어내리는 소리가 들린다)

[카즈에] (‘아사’를 껴안으며) 엄마! 괴로워요. (아이처럼 운다)

[아사]   (카즈에를 안으며) 듣고 있었어. 훔쳐 듣는 게 안 좋다는 건 알고 있었지만, 네가 걱정돼서 그래서……. (운다)

[카즈에] 알고 있었어요. 엄마가 저 미닫이에 숨어 울고 계셨죠. 저는 금방 알았어요. 하지만 엄마, 제 일은 이제 내버려두세요. 전 이제 틀렸어요. 나빠질 뿐이에요. 평생 어떻게 해도 행복이 오질 않아요. 엄마, 저를 동경에서 기다리고 있는 사람은 저보다도 훨씬 나이가 어린 사람이에요.

[아사]   (놀란 듯) 어머, 넌 정말. (카즈에를 꼭 껴안으며) 행복해질 수 없는 아이야.

[카즈에] (더 큰 소리로 울며) 할 수 없어요. 할 수 없다구요. 저랑 무츠코가 살아가기 위해서는 그렇게  할 수밖에 없었어요. 제 잘못이 아니에요. 제 잘못이 아니라구요.

눈이 끊임없이 불어 들어온다. 그 주변 바닥도, 두 사람의 머리카락과 어깨도 하얗게 되어간다.


― ―  막


제3막

무대는 덴베에 집 안방. 정면에는 대단한 걸개그림이 걸려 있으나 병풍이 서 있어 절반 이상 가려져 있다. 병풍은 매우 오래된 회색 빛 은 병풍. 그러나 찢어지지는 않았다. 안쪽은 미닫이. 그 미닫이 바깥은 복도인 셈. 복도 유리문에서 아침햇살이 들어와 창호지문을 밝게 비추고 있다. 바깥쪽은 미닫이문. 

막이 열리자 방 중앙에 ‘아사’의 병상(病床). ‘아사’는 창호지문 쪽에 머리를 두고 누워있다. 상당히 쇠약해져 있다. 잠을 자고 있다. 머리맡에는 약병, 약 봉지, 환자용 주전자, 기타. 병상 바로 앞에는 오동나무로 된 화로가 두 개. 양쪽에 각각 철병이 걸려 있어 김이 난다. 카즈에, 창호지 쪽 작은 책상 앞에 앉아 무슨 편지 같을 것을 쓰고 있다.

제2막으로부터 10일 정도 경과.

카즈에, 만년필을 놓고 책상에 턱을 괸 채로 창호지문을 멍하니 바라보고는, 이윽고 소리내지 않고 운다.

‘아사’, 자면서 괴로운 듯 신음소리를 낸다. 심음 소리가 이어진다.

[카즈에] (‘아사’ 쪽을 보고 책상 위에 적힌 편지를 접고 품에 넣고는, 그리고 일어나 ‘아사’ 쪽으로 가서는 ‘아사’를 흔든다. 엄마, 엄마.

[아사]   으응. (하고 눈을 뜬 후 깊은 한숨을 쉰다) 그래. 너였구나.

[카즈에] 어디 불편해요?

[아사]   아니 (한숨) 왠지 기분 나쁜, 무서운 꿈을 꾸고……(말투를 바꾸고) 무츠코는?

[카즈에] 아침 일찍 할아버지를 따라 히로사키에 갔어요.

[아사]   히로사키에? 무엇 때문에?

[카즈에] 어머, 모르셨나요? 어제 오셨던 의사선생님은 히로사키에 있는 ‘나루미(鳴海)’ 내과의원 원장님이세요. 그래서 아버지가 오늘 나루미 선생님께 약을 받으러 가셨어요.

[아사]   무츠코가 없으면 쓸쓸해.

[카즈에] 조용하고 좋잖아요. 하지만 아이들은 타산적이네요. 할머니가 편찮으시다고 하니까 이제 할머니 곁에는 한 번도 오지 않고, 이번에는 연신 할아버지한테만 매달리고 있잖아요.

[아사]   그게 아니야. 그건 말이야, 할아버지가 열심히 무츠코의 비유를 맞췄으니까 그렇게 된 거야. 할아버지한테 있어서는 지금은 무슨 일이 있더라도 무츠코를 곁에 두고 싶어 하기 때문이지.

[카즈에] 아니, 왜요? (화로에 숯을 넣고 철병에 물을 붓고, ‘아사’ 이불을 고치고 여러 가지 일을 하면서 가벼운 말투로 말상대가 되어주고 있다.)

[아사]   그건 왜냐하면 내가 없더라도 무츠코가 할아버지를 따르면 너도 동경에 돌아가기 어려워질 테니까 그렇지.

[카즈에] (웃으며) 아이참, 이상한 말씀을 하시네요. 관두세요. 바보 같애. 사과라도 깎을까요? 의사선생님은 무엇이든지 먹기만 하면 좋아진다고 하셨어요.

[아사]   (살며시 고개를 저으며) 먹기 싫어. 아무 것도 내키질 않아. 어제 오신 의사선생님은 내 병을 뭐라고 하셨어?

[카즈에] (조금 주저하고는 분명하게) 담낭염일지도 모른댔어요. 이 병은 엄마처럼 무엇을 먹어도 금방 토하니까 쇠약해져서, 그래서 위험할 수도 있지만, 그래도 이제 음식이 배로 들어가게 되고 일주일 정도면 좋아진댔어요.

[아사]   (조용히 웃으며) 그러면 다행이련만. 난 이제 틀린 것 같아. 그것 말고 또 병이 있는 거지? 팔다리가 전혀 움직이질 않아.

[카즈에] 그야 의사한테 내보이면 건강한 사람이라도 이런저런 말을 듣게 마련이에요. 하나하나 신경 쓰면 끝이 없겠죠.

[아사]   뭐라고 하시든?

[카즈에] 아뇨. 아무 것도 아니에요. 그냥 말이죠, 가벼운 뇌일혈 증세가 있는 것 같다나요. 그리고 맥이 어떻다는 둥 이런저런 말을 했지만 잊어버렸어요. (익살스럽게) 말하자면 드시고 싶은 건 무엇이든 많이 드시면 낫는 거예요. 카즈에라는 여 박사님 진찰이면 그래요.

[아사]   (엄숙하게) 카즈에. 난 이제 낫고 싶지가 않구나. 이렇게 네가 간병해주면서 빨리 가고 싶어. 나한테는 그게 제일 행복하단다.

거실 시계가 천천히 10시를 알리는 소리가 들린다.

[카즈에] (‘아사’가 하는 말에 댓구도 하지 않고 안 들리는 척하며) 어머, 벌써 10시예요. (일어서며) 갈분탕(갈분에 설탕을 넣고 뜨거운 물을 부어 마시는 음료 - 역자 주)이라도 탈게요. 정말 뭐라도 드셔야지. (말하면서 안쪽 미닫이문을 열고) 아아, 오늘은 보기 드물게 좋은 날씨네요.

[아사]   카즈에. 여기에 있어줘. 뭘 먹어도 금방 토할 것 같아서 오히려 괴로울 뿐이니까. 어디에도 가지 말고 내 곁에 있어줘. 너한테 잠시 하고 싶은 말이 있어.

[카즈에] (미닫이문을 조용히 닫고 다시 병상 곁에 앉아 밝게) 엄마, 왜요?

[아사]   카즈에. 넌 이제 동경에는 돌아가지 않겠지?

[카즈에] (망설임 없이) 돌아갈 거예요. 아버지는 저한테 나가라고 했잖아요. 그리고 그날부터 이미 저와는 제대로 말도 하지 않으시는 걸 봐요. 돌아갈 수밖에 없잖아요.

[아사]   내가 이렇게 누운 채로 있는데 말이니?

[카즈에] 엄마 병 같은 건 금방 나으실 거예요. 그야 나을 때까지는 역시 전 아버지가 아무리 나가라고 하셔도 이 집에서 열심히 엄마 간호를 해드릴 작정이지만요.

[아사]   몇 년이라도?

[카즈에] 몇 년이라도라뇨. (웃으며) 엄마, 곧 나을 거예요.

[아사]   (고개를 저으며) 아냐 아냐. 난 알고 있어. 카즈에야. 나한테 무슨 일이 있으면 넌 아버지를 홀로 이 집에 남겨두고 동경으로 갈 생각이니?

[카즈에] 이제 됐어요. 그런 말씀. (얼굴을 돌리며 운다) 만약 그렇게 되면, 만약 그렇게 되면 카즈에도 죽어버릴 거예요.

[아사]   (한숨을 쉬고) 나는 너를 세상에서 가장 행복한 아이로 키우고 싶었는데 반대가 돼버렸어.

[카즈에] 아뇨. 저만이 불행한 게 아니에요. 지금 일본에서는 단 하나라도 행복한 사람이 있을까요? 저는요, 엄마. 아까 이런 편지를 써봤어요. (품속에서 방금 전 쓰다 만 편지를 남고 살며시 펴 들고) 잠깐 읽어볼게요. (조용히 읽는다) 삼가 아룁니다. 어음 300엔 분명히 수령했습니다. 이쪽에서는 쓸 일이 전혀 없었기에 당신으로부터 지금까지 받은 돈은 아직 그대로 있습니다. 당신이야말로 얼마든지 돈이 필요하시겠지요. 이제부터는 돈을 이쪽으로 보내시면 안 됩니다. 그리고 만약 그쪽에서 돈이 급히 필요하게 되면 전보로 알려주세요. 이쪽에서는 정말 아무것도 필요하지 않으니 얼마든지 보내드리겠습니다. 그때까지 맡아두도록 하겠습니다. 그런데 여전히 일은 열심히 하고 계신 것 같군요. 올해 전람회에 출품하실 그림도 그렇다면 어느 정도 완성되셨으리라 짐작됩니다. 새로운 현실을 그려야 하신다고 얼마 전 편지로 말씀하셨는데, 무엇을 그리셨나요? 우에노(上野) 역에서의 부랑자 무리인가요? 저라면 히로시마의 전쟁으로 타버린 모습을 그릴 텐데요. 그러지 않다면 동경에서 우리들 머리 위에 쏟아진 그 아름다운 화염과도 같은 비. 분명 좋은 그림이 될 거예요. 제가 있는 곳에서는 어머니가 열흘 정도 전에 어떤 안 좋은 사건의 충격 때문에 쓰러지셔서, 그로부터 계속 누워 계시므로 제가 간호해드리고 있습니다만, 오랜만이라 저는 왠지 보람을 느끼고 있습니다. 저는 이 어머니를 제 목숨보다도 사랑하고 있습니다. 그리고 어머니도 똑같이 저를 사랑하고 계십니다. 제 어머니는 훌륭한 분입니다. 그리고 아름다운 분이세요. 제가 그 일본 대부분이 공습을 당하고 있는 와중에 당신들이 말리는 것도 뿌리치고 무츠코를 데리고서 거지처럼 반미치광이 같은 차림으로 아오모리(靑森)행 기차를 타고, 도중에 몇 번이고 몇 번이고 공습을 당하면서 여러 역에서 내려지고는 노숙하고, 끝내는 식량이 떨어져 무츠코와 둘이서 끌어안고 울고 있었더니 어떤 여학생이 주먹밥과 잘게 썬 다시마, 그리고 딱딱한 빵을 주었기에 무츠코는 너무 기뻐서 흥분한 나머지 그 주먹밥을 여학생한테 화를 내며 던지곤 하여, 정말 보기도 흉하고 처참한 거지 모녀가 되어, 그래도 이 동북지방 끝에 있는 태어난 집으로 돌아오고 싶었던 것은, 지금 생각하면 분명 제가 죽기 전에 다시 한 번 제 아름다운 어머니를 만나고 싶은 일념이었던 것입니다. 제 어머니는 좋은 분입니다. 이번 어머니 병도 근본적으로는 저 때문에 일어난 일이나 마찬가지입니다. 저는 지금 이 어머니를 조금이라도 행복하게 해드리고 싶어요. 그 외에 다른 일은 일체 생각하지 않기로 했습니다. 어머니가 제게 언제까지나 어머니 곁에 있으라고 하시면 저는 이제 평생토록 어머니 곁에 있을 생각입니다. 당신 곁으로도 돌아가지 않을 작정입니다. 아버지는 세상에 대한 걱정이나 어머니에 대한 의리 때문에 저더러 일찍 동경으로 돌아가라고 합니다만, 그러나 어머니가 병으로 앓아눕게 되시더니 그런 아버지도 눈에 띄게 풀이 죽고 고집도 꺾인 듯합니다. 저는 이제 동경으로 돌아가지 않을지도 모릅니다. 만약 당신 쪽에서 저를 그립게 여겨주신다면 그림 그리는 것을 그만 두시고 여기 시골에 와서 저와 함께 농부가 되어 주세요. 그러실 수 없겠지요. 하지만 그런 마음이 드실 때에는 꼭 와주시기 바랍니다. 이제 날도 풀리고 눈도 녹아 논에도 푸르른 초목들이 보이기 시작하면 저는 매일 괭이를 짊어지고 논밭에 나가 묵묵히 일할 생각입니다. 저는 그저 여자농부가 되겠습니다. 저만이 아니라 무츠코까지도 여자 농부로 만들어버릴 작정입니다. 저는 지금 일본의 정치가나 사상가, 예술가 그 누구한테도 의지하고 싶지 않습니다. 지금은 누구나 자기들의 하루하루 살아가는 일로 벅차겠지요? 그렇다면 그렇다고 솔직하게 말하면 좋을 텐데 정말 뻔뻔하게 국민을 지도한다거나 그러면서 밝게 살라는 둥 희망을 가지라는 둥 무슨 소리인지도 모르는 잔소리만을 늘어놓고, 그리고 그게 문화라니요. 어이가 없잖아요. 문화라는 게 어떤 거죠? 글(文)귀신(お化け : 귀신이라는 뜻 - 역자 주 )이라고 써 있죠. 왜 사람들은 누구든지 모두 지도자가 되고 싶어 하는 걸까요. 전쟁 중에도 이상한 지도자만 많아서 질렸는데 이번에는 또다시 일본 재건하겠다는 지도자들의 인플레이션 같더군요. 끔찍한 일이에요. 일본은 이제부터 훨씬 더 나빠질 거예요. 젊은 사람들은 공부해야만 하고 저희들은 일해야만 한다는 건, 그건 당연한 일인데도 그것을 피하기 위해 여러 가지 그럴싸한 핑계가 붙더군요. 그렇게 해서 점점 떨어질 데까지 떨어져가는 거예요. 근데요, ‘아나키’가 어떤 거죠? 저는 그건 중국에 있는 도원경 같은 것을 만들어보는 게 아닐까 해요. 마음이 맡는 친구들끼리 논밭을 갈고 복숭아나 배나 사과나무를 심고는 라디오도 안 듣고 신문도 안 읽고 편지도 안 오고 선거도 없고 연설도 없고 모두가 자신의 과거에 대한 죄를 자각하고 소심해져서, 그야말로 자기가 사랑하듯 이웃을 사랑하여, 그리고 지치면 잠이 드는, 그런 부락을 만들 수 없을까요? 저는 지금이야말로 그런 부락을 만들 수 있을 것 같아요. 글쎄요. 우선 제가 농부가 되어 스스로 시험해볼게요. 눈이 사라지면 곧바로 저는 논으로 나가 (읽는 것을 멈추고 편지를 무릎 위에 올려놓고는 굳은 미소를 지으며 어머니를 보고서) 여기까지 썼는데 이제 저는 이 편지를 마지막으로 스즈키 씨와는 헤어지게 될지도 몰라요.

[아사]   스츠키 씨라고 하니?

[카즈에] 네. 저희들이 신세를 많이 졌어요. 이 분 덕분에 저와 무츠코는 그 전쟁 속에서도 어떻게는 살아갈 수 있었어요. 하지만 엄마, 저는 이제 다 잊을게요. 이제부터는 평생 동안 엄마 곁에 있을 거예요. 생각해보면 엄마도 에이이치가 돌아오지 않고, (말해버리고 나서 어쩔 줄을 몰라 하며) 그래도 에이이치는 괜찮아요. 이제 곧 씩씩하게 돌아오겠지만요.

[아사]   너와 무츠코가 이 집에 있어준다면 에이이치가 돌아오지 않아도 괜찮아. 그 아이 일은 이미 포기했어. 카즈에, 난 에이이치보다도 너와 무츠코가 너무나 가여워서 말이야. (운다)

[카즈에] (손수건으로 ‘아사’ 눈물을 닦아주고서) 전 저 같은 건 어떻게 되어도 상관없어요. 정말로 항상 그렇게 생각해요. (고개를 숙이고) 나쁜 일만 해왔잖아요.

[아사]   카즈에. (색다른 목소리로) 여자한테는 모두 비밀이 있어. 너는 그걸 숨기지 않았을 뿐이야.

[카즈에] (이상하다는 듯이 아사 얼굴을 들여다본다) 엄마, 왜 그러세요, 그렇게 심각한 얼굴로요. (수줍은 듯한 미소)

[아사]   (그것에 개의치 않고) 그로부터 며칠이나 됐니.

[카즈에] 언제부터요?

[아사]   그날 밤부터.

[카즈에] 글쎄요, 이제 열흘 정도 되지 않았나요? 관두자구요. 그날 밤 얘기는.

[아사]   열흘? 그렇구나. 열흘밖에. 난 반년이나 된 것 같아.

[카즈에] 그야 엄마는 그날 밤 그러시고 계단 밑에서 쓰러져서 사흘 동안이나 의식이 없으셨잖아요. 그날 밤이 훨씬 먼 꿈처럼 느끼는 건 그럴 만도 하죠. 꿈이에요. 저는 그것도 잊기로 했어요. 모든 것을 잊어버릴 거라구요.. 저는 농부가 돼서 우리들의 도원경을 만들 거예요.

[아사]   세이조 씨는 그 후로 어떻게 됐는지 무슨 소식 못 들었니?

[카즈에] 몰라요, 그런 사람 소식 같은 건. 이제 전 잊어버릴 거니까 괜찮아요. 술을 끊고 요즘 사람이 바뀐 것처럼 일하게 되었다며 어제 그 사람 여동생이 와서 그런 말을 했지만, 그래도 믿을 게 못 돼요.

[아사]   어서 색시라도 맞으면 좋을 텐데.

[카즈에] 요즘 무슨 그런 얘기도 있데요. 여동생이 그러더군요. 이번 중매는 어쩐 일인지 오빠가 적극적이라면서요. 저는 알 것 같아요.

[아사]   뭘 아는데?

[카즈에] 뭐라뇨. 세이조 씨 마음이요.

[아사]   왜?

[카즈에] 왜라뇨. 그건 엄마한테 그날 밤 그렇게까지 당하는, 그랬는데도 회심하지 않으면 그 사람은 바보나 악마예요.

[아사]   그 바보나 악마는 나야. 나라구. 난 그날 밤 그 사람을 정말로 죽이려고 했어.

[카즈에] 됐어요. 이제 그만해요, 엄마. 저를 위해서, 모두 저를 위해서, 엄마 미안해요. 이제부터 저는 (울음을 터뜨리며) 효도 잘 하고 은혜를 갚을 테니 아무 말도 하지 말세요. 일본에는 이제 세계에 자랑할 거라고는 하나도 없지만 그래도 제 엄마는, 제 엄마만은.

[아사]   아니야. 난 너보다 훨씬 더 나쁜 여자란다. 난 그날 밤 그 사람을 죽이려 한 건 너 때문이 아니었어. 나 때문이야. 카즈에, 나를 이대로 죽여줘라. 죽는 게 제일 행복해. 카즈에, 그 사람은 6년 전 똑같이 그렇게 해서 나를…….

[카즈에] (고개를 들고 파랗게 질린다)

[아사]   난 바보라서 속았어. 여자는, 여자는 왜 이토록……. (운다)

[카즈에] (고통을 못 이기듯 거칠게 숨을 쉬고는 일어선다. 무릎 위에서 편지가 흩날리듯 떨어진다. 그것은 보고는) 도원경, 유토피아, 농부, (제1막에 있었던 것과 같이 조용하고 기이한 웃음소리를 낸다) 웃기고 있네. 다들 웃기고 있어. 이게 일본의 현실이야. (크게 ‘아하하하’ 하고 소리 내어 웃는다) 일본의 지도자들이여 우리들을 구원해주시오. 할 수 있어요? 할 수 있냐구요. (라고 말하면서 편지를 두 장으로, 네 장으로, 여덟 장으로, 박박 찢고는) 에이, 마음대로 해요. 난 동경의 좋아하는 남자한테 갈 거야. 타락할 데까지 타락하는 거라구. 이상도 나발이고 있기는 뭐가 있어.

현관문을 난폭하게 두드리는 소리가 들린다.

“전보예요, 시마다 카즈에 씨. 전보 왔어요.” 라는 집배원 목소리.

[카즈에] 어머, 나한테 전보라니. 싫어, 됐어. 쓸데없어. 지금 일본에서는 누구한테나 좋은 소식이라는 게 있을 리가 없어. 분명 나쁜 소식일 거야. (우왕좌왕 거리다가 손에 들고 있던 많은 종이조각들은 한 번에 화로 속으로 던져 넣는다. 불길이 솟아오른다. 아아, 이것도 불꽃놀이. (미친 듯이 웃는다) 한겨울의 불꽃놀이야. 내가 꿈꿨던 도원경도 애처로운 결심도 모두 말도 안 되는 한겨울의 불꽃놀이라구.

현관에서, “전보 왔어요. 아무도 안 계시나요. 시마다 카즈에 씨. 긴급 전보예요.” 목소리가 이어지면서,

― ―  막

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바다(海)

다자이 오사무(太宰 治) (1946)

번역 : 홍성필


 동경 미타카(三鷹)에서 살 무렵은 매일처럼 인근에 폭탄이 떨어져, 나야 죽어도 상관 없지만, 그러나 이 아이의 머리 위에 폭탄이 떨어진다면, 이 아이는 끝내 바다라는 것을 한 번도 보지 못하고 죽고 만다는 생각을 하자 마음이 아팠다. 나는 츠가루(津輕) 평야 한 가운데에서 태어났기에 처음 바다를 본 것은 매우 늦어, 열 살 정도가 되어서야 비로소 바다를 보았다. 그러므로 그 때의 큰 흥분은 지금까지도 나의 가장 소중한 추억 중 하나로 남아있다. 이 아이에게도 한 번은 바다를 보여주고 싶다.

 아이는 딸이며 다섯 살이다. 이윽고 미타카에서 살던 집도 폭탄 때문에 허물어졌으나 집에서 살던 사람들은 누구도 다치지는 않았다. 그러나 곧 코후(甲府) 시도 적군의 전투기에 의해 폭격 당해, 우리들이 살던 집은 전소했다. 하지만 전쟁은 계속 이어진다. 결국 내가 태어난 땅으로 처자를 데리고 갈 수밖에 다른 방도가 없다. 그 곳이 마지막 뼈를 묻을 장소인 것이다. 우리들은 코후에서부터 츠가루를 향해 출발했다. 사흘 밤낮에 걸쳐 겨우 아키타(秋田) 현 히가시노로(東能代)까지 도착하고는, 거기서부터 고로(五能) 선으로 갈아타자 조금 마음이 놓였다.

 “바다는, 바다가 보이는 건 어느 쪽이죠?”

 나는 우선 차장에게 묻는다. 이 철도는 해안선 바로 옆을 지나간다. 우리들은 바다가 보이는 쪽으로 앉았다.

 “바다가 보인다. 이제 머지않아 보일 거야. 우라시마 타로(浦島太郞:일본 옛날 이야기 주인공)에 나오는 바다가 보인다구.”

 나 혼자 어쩐지 소란스럽다.

 “자, 바다야. 저것 봐, 바다야, 야아, 바다라니까. 정말 크지, 그렇지, 바다라구.”

 끝내 이 아이에게도 바다를 보여줄 수 있었던 것이다.

 “강이지, 엄마.” 라고 아이는 태연하다.

 “강?” 나는 넋을 잃었다.

 “그래, 강이야.” 부인은 잠결에 대답한다.

 “강이 아니야. 바다라구. 전혀, 완전히 다르잖아! 강이라니 너무하네.”

 매우 실망스러운 심정으로 나 홀로, 황혼이 지는 바다를 바라본다.

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부모라는 두 글자(親という二字

다자이 오사무(太宰 治) (1946)

번역 : 홍성필


 '親(부모)라는 건, 두 글자라는 문맹인 부모님 말씀.' 이 옛 시는 읊는 사람으로 하여금 서글프게 만든다.


 "어디에 가서 뭘 하든지 親(부모)라는 두 글자는 잊지 말아라."


 "아부지. 親(부모)라는 글자는 한 글자라구요."


 "음, 어쨌거나 한 글자든 세 글자든 말이다."


 이런 식의 가르침은 교훈이 안 된다.


 그러나 나는 지금 여기서 옛 시의 해설을 하려는 것이 아니다. 실은 얼마 전 어떤 문맹인 부모를 만나 이런 옛 시가 문득 떠올랐다는 것뿐이다.


 이재민 생활을 해보신 분들은 잘 아시겠으나, 이재민이 되면 이상하게도 우체국에 갈 일이 많아지기 마련이다. 내가 두 번이나 이재민 생활을 하여 결국 츠가루(津輕)에 사는 형님 댁으로 도망쳐 들어가 얹혀 사는 신세가 되었는데, 간이보험이다, 채권매각이다, 하는 볼일 때문에 종종 우체국에 갔으며, 또한 조금 지나자 센다이(仙臺)지역 신문에 '판도라의 상자'라는 제목의 실연소설(失戀小說)을 연재하게 되어, 그 원고의 발송이다, 전보치는 방법에 대한 협의다, 하여 더욱 우체국에 가는 일이 빈번해졌다.


 그 문맹인 부모를 알게 된 건 그 우체국 의자에서였다.


 우체국은 항상 꽤나 붐빈다. 나는 의자에 앉아 차례를 기다리고 있었다.


 "잠깐, 나으리, 이것 좀 써 주겠시유?"


 어딘지 모르게 자신이 없어 보이고, 그리고 교활할 듯하며, 얼굴이나 몸집도 매우 작은 할아버지였다. 술꾼이 분명하다, 하고 나는 동족에게 느끼는 예민함으로 금새 알아보았다. 얼굴 피부가 파랗고 거칠며 코가 빨갛다.


 나는 말없이 고개를 끄덕이고는 의자에서 일어나, 우체국에서 설치해둔 벼루상자가 있는 곳으로 갔다. 예금통장과 지급청구서 (그는 그 종이를 '돈 받는 종이'라고 한다), 그리고 도장, 이 세 가지를 내밀며 "써 줄 텐가?" 라는 말을 들으면 더 이상 설명이 필요 없다.


 "얼마죠?"


 "사십 엔."


 나는 그 지급청구서에 '사십 엔 정'이라고 적은 후 통장번호, 주소, 성명을 써 나아간다. 통장에는 옛 주소인 아오모리(靑森) 시 무슨 동네 몇 번지라는 곳에 줄이 그어져 있어, 새 주소인 키타츠가루(北津輕)군 카나기마치(金木町) 아무개 댁이라는 것이 곁에 적혀 있었다. 아오모리 시에서 피해를 입고 이쪽으로 옮겨온 사람인 지도 모른다는 건 쉽게 짐작할 수 있었으나, 과연 맞았다. 그리고 성함은,


 타케우치(竹內) 토키.


 라고 되어 있었다. 부인 통장인가 정도로 생각했으나 그건 아니었다.


 그는 그것을 창구에 내고 다시 돌아와 나란히 의자에 앉아 있더니, 잠시 후 다른 창구에서 현금지급담당 직원이,


 "타케우치 토키 손님."


 이라 부른다.


 "옙."


 하고 노인은 태연하게 대답하고서 창구 쪽으로 간다.


 "타케우치 토키 손님. 사십 엔. 본인이신가요?"


 라고 직원이 묻는다.


 "아니구만유, 딸이지유. 예, 내 막내딸이구만유."


 "가급적 본인이 오도록 해주세요."


 라는 말을 하며 직원은 노인에게 돈을 건낸다.


 그는 돈을 받고서, 그리고는 '히힛'하며 웃기라도 하듯 두 어깨를 슬쩍 들더니 그야말로 교활한 미소를 지으며 내가 있는 쪽으로 와서는,


 "본인은 저 세상에 갔시유."


 나는 그로부터 매우 자주 그 노인과 우제국에서 얼굴을 마주쳤다. 그는 내 얼굴을 보면 이상하게 웃으며,


 "나으리." 라고 부르고는 "좀 써주겠시유?"라고 한다.


 "얼마죠?"


 "사십 엔."


 항상 같았다.


 그리고 그러면서 조금씩 그에 대한 이야기를 들었다. 그의 말에 의하면, 그는 과연 술꾼이었다. 사십 엔도 그 날에 마실 그의 술값이라고 한다. 이 주변에는 여전히 불법술집이 여기저기 있었다.


 그의 큰아들은 전쟁터에 갔다가 아직 돌아오지 않는다. 큰딸은 키타츠가루인 이 마을의 나무 통 만드는 집으로 시집을 보냈다. 피해를 입기 전, 그는 막내딸과 둘이서 아오모리에서 살고 있었다. 그러나 공습으로 집은 타버리고, 막내딸은 큰 화상을 입어 의사에게 치료를 받았으나 '코끼리가 왔어요, 코끼리가 왔어요.'라는 혼잣말을 하더니 숨을 거두었다고 한다.


 "코끼리 꿈이라두 꿨나봐유. 묘한 꿈이지유, 흣." 하길래 웃는 줄 알았으나, 천만에, 울고 있는 것이다.


 코끼리라는 건 어쩌면 증산(增産:모두 발음이 같음 - 역자 주)이 아니었을까. 그 타케우치 토키 씨는 그때까지 오랫동안 구청에서 근무해왔다고 하니, '증산이 왔다'는 건 무언가 특별한 의미가 있는 말이라서, 그 말이 입에 배었던 것이 아닐까, 하는 생각도 들었지만, 그러나 그 문맹인 부모의 해석처럼 코끼리 꿈을 꾸었다는 쪽이 몇 십 배나 더 딱하게 여겨진다.


 나는 흥분하여 쓸데없는 소리를 했다.


 "정말 지나치게 착실하고 폼잡기 위한 논쟁이 나라를 이 모양으로 만들어버린 겁니다. 겁 많고 마음도 여린 사람들만 있었다면 이렇게까지 되진 않았을 거예요."


 스스로 생각해도 어리석은 의견이라는 생각이 들었으나, 말하면서도 눈시울이 뜨거워졌다.


 "타키우치 토키 손님."


 라고 직원이 부른다.


 "옙."


 라며 대답하고서 노인은 의자에서 일어난다. 다 마셔버리세요, 라고 나는 아주 말해버리고 싶었다.


 하지만 그로부터 얼마 지나지 않아, 이번에는 내가, 에잇, 다 마셔버리자는 생각이 들었다. 내 저금통장은 물론 딸 명의는 아니지만, 그러나 그 내용은 어쩌면 타케우치 토키 씨의 통장보다도 훨씬 빈약했는지도 모른다. 금액의 정확한 보고 따위는 김빠지는 일이므로 안 하겠으나, 아무튼 그 돈은 어떤 좋지 않은 일이라도 생겨서 갑자기 형님 댁에서 나와야 하는 일이 생기거나 할 때에, 비참한 꼴을 안 당하기 위해 우체국에 맡겨놓았던 것이다. 하지만 그 무렵, 어떤 사람을 통해 위스키 열 병 정도를 살 수 있다는 소식이 있어, 그 답례를 위해서는 내 저금 중 거의 대부분이 필요했다. 나는 잠깐 고민하고는, 에잇, 다 술로 만들어버리자고 생각했다. 나중 일은 또 나중 일로서 어떻게 되겠지. 어떻게 안 되면 또 그 때에는 어떻게 되겠지.


 내년에는 벌써 서른 여덟인데도 아직 내게는 이런 형편없는 구석이 있다. 그러나 평생을 이렇게 산다면, 이도 또한 신기한 일이 아닐까 하는, 바보 같은 생각을 하며 우체국에 갔다.


 "나으리."


 그 노인이 와 있다.


 나는 창구에 가서 지급청구서를 받으려고 했더니,


 "오늘 돈 받는 종이는 필요 없시유. 입금하는 거거든유."


 라고 말하며 상당한 양의 십 엔 짜리 지폐뭉치를 보이고는,


 "딸래미 보험금이 나왔거든유. 역시 딸 명의로 오늘 입금시킬 생각이구만유."


 "그것 참 잘되었군요. 오늘은 제가 돈을 찾으러 왔습니다."


 매우 묘한 전개였다. 이윽고 둘의 볼일은 끝났으나 내가 현금지급창구에서 받은 지폐뭉치는, 공교롭게도 방금 노인이 입금시킨 지폐뭉치 바로 그것이었기에, 왠지 모르게 노인에게 매우 송구스런 느낌이 들었다.


 그리고 그 돈을 어떤 사람에게 줄 때에도 타케우치 토키 씨의 보험금으로 위스키를 사는 것 같은 착각을 나는 느꼈다.


 며칠 후, 위스키는 내 방안 장롱 안으로 운반되고, 나는 부인에게,


 "이 위스키에는 말이야, 스물 여섯 살 짜리 여인의 생명이 녹아 들어있어. 이걸 마시면 내 소설도 훨씬 매력이 넘치게 될지도 모른다구."


 라고 말하고 나서, 우체국에서 문맹인 불쌍한 노인을 만났던 일을 처음부터 자세히 말해주자, 부인은 절반도 채 듣지 않고는,


 "거짓말. 아빠는 또 쑥스러워서 꾸며낸 말씀을 하시네요. 그치, 아가야?"


 라며 기어오는 두 살 짜리 아이를 무릎 위로 끌어안았다.

Posted by 문학관 관리인 위어조자(謂語助者)

화폐(貨幣)

다자이 오사무(太宰 治) (1946)

번역 : 홍성필


 외국어에 있어서는 명사에 각각 남녀의 성별 있어

 그리하여 화폐를 여성명사로 한다.


 저는 77581호 백엔 짜리 지폐입니다. 당신의 지갑 속 백엔 지폐를 잠깐 살펴보세요. 어쩌면 제가 그 속에 들어있을지도 모릅니다. 이제 저는 매우 지쳐서, 저 자신이 지금 누구 주머니 속에 들어있는지, 아니면 휴지통 속에라도 쳐 박혀 있는지 도무지 알 수 없게 되고 말았습니다. 근래에는 현대식 지폐가 나와, 저희들 구식 지폐는 모두 불태워지고 만다는 소문도 들었습니다만, 이제 이런, 살았는지 죽었는지도 모르는 심정으로 있을 바에는, 아예 깨끗하게 불태워져 승천하고 싶습니다. 불태워진 후 천국으로 갈지 지옥으로 갈지 그건 하느님께 달렸습니다만, 어쩌면 저는 지옥으로 떨어질지도 모르겠어요. 태어났을 때는 지금처럼 이런 몰골이 아니었습니다. 나중에 이백엔 지폐다, 천엔 지폐다 하고, 저보다도 소중히 여겨지는 지폐가 많이 나왔지만, 제가 태어났을 무렵, 백엔 지폐가 돈 중에서는 여왕이었으며, 처음으로 제가 동경에 있는 큰 은행 창구로부터 어떤 사람 손으로 건네졌을 때, 그 사람 손은 조금 떨고 있었습니다. 어머, 정말이에요. 그 사람은 젊은 목수였습니다. 그 사람은 복대 속으로 저를 접지도 않은 채 그대로 살며시 넣고는, 배가 아픈 것처럼 왼손 손바닥을 배에 가볍게 대고서, 길을 걸을 때도, 전철에 탔을 때도, 그러니까 은행에서 집으로 가는 동안 계속. 그 사람은 집에 도착하자 저를 카미다나(집안에 신위(神位)를 모셔놓는 선반 – 역자 주)에 올려놓고 기도를 드렸습니다. 제 인생의 첫발은 이처럼 행복했습니다. 저는 그 목수님 댁에 언제까지나 있고 싶었습니다. 그러나 저는 그 목수님 댁에 하룻밤밖에 있을 수가 없었습니다. 그날 밤 목수님은 대단히 기분이 좋아, 반주도 드시고, 그리고 젊고 몸집이 작은 부인을 보고 “날 바보로 알면 곤란해. 나도 사내노릇을 할 때가 있다구.” 라며 큰 소리를 치고, 가끔 일어서서 저를 카미다나에서 내려다가 두 손으로 떠받들 듯 내보이면서 젊은 부인을 웃기곤 했었으나, 그러는 동안 부부간에 싸움이 벌어져 결국 저는 네 겹으로 접힌 채 부인의 작은 지갑 속으로 들어가고 말았습니다. 그러고는 다음날 아침, 부인에게 이끌려 전당포로 가서는 부인의 옷 열 벌과 맞바뀌어, 저는 전당포에 있는 차갑고 습한 금고 속으로 들어가게 되었습니다. 어딘지 모르게 으실으실 춥고 배가 아파 괴로웠는데, 저는 또다시 바깥으로 나오게 되어 세상을 구경하게 되었습니다. 이번에는 의대생이 가지고 온 현미경 하나와 맞바뀌었습니다. 그 의대생에게 이끌려 제법 먼 곳까지 여행을 했습니다. 그리고 결국 세토나이카이(瀨戶內海) 작은 섬에 있는 여관에서 저는 그 의대생으로부터 버림을 받았습니다. 그로부터 한 달 가까이 저는 그 여관 장부들이 들어 있는 서랍 안에 넣어졌습니다만, 그 의대생은 저를 버리고 여관을 나선 후 바로 세토나이카이에 몸을 던져 죽었다는, 여종업원들의 말을 살짝 들었습니다. “혼자 죽다니 바보 같애. 저렇게 잘생긴 남자라면 난 언제라도 함께 죽어줄 텐데 말이야” 하고 매우 살찐 마흔 가량 된, 얼굴에는 부스럼이 많은 여종업원이 있어 모두를 웃겼습니다. 그로부터 저는 5년간 시코쿠(四國), 큐슈(九州)를 떠돌며 부쩍 늙고 말았습니다. 그리하여 점차 저는 푸대접을 받게 되고, 6년 만에 동경으로 되돌아왔을 무렵에는 너무나도 변해버린 자신의 생김새 때문에 저도 모르게 자기혐오에 빠지기도 했었지요. 동경으로 돌아와서 저는 그저 뒷골목에서 심부름이나 하는 여자처럼 전락하고 말았거든요. 5, 6년 동경을 떠나 있는 동안 저도 변했지만, 정말 동경의 변한 모습하고는요. 밤 여덟시 경, 술에 취한 중개상에게 이끌려 동경역에서 니혼바시(日本橋), 그리고 쿄바시(京橋)를 거쳐 긴자(銀座)를 지나서 신바시(新橋)까지, 그 동안 그저 캄캄하고 깊은 숲속을 걷고 있는 듯하고, 사람 하나 다니지 않는 것은 물론이거니와, 길을 건너는 고양이 한 마리 없었습니다. 끔찍한 죽음의 거리, 기분 나쁜 모습이었습니다. 그로부터 곧바로 그 쿵쿵, 슉슉, 하는 소리가 시작했지만, 연일 밤낮 대혼란 속에서도 저는 역시 쉴새 없이 이 사람 손에서부터 저 사람 손으로, 마치 이어달리기 선수들의 바통처럼 눈코 뜰새 없이 오가며, 덕분에 이처럼 쭈굴쭈굴한 모습이 되었을 뿐만 아니라, 온갖 냄새까지 몸에 베어, 정말 부끄러워 이판사판이 되고 말았습니다. 그 무렵 이미 일본도 또한 이판사판이 되었던 시기였겠지요. 제가 어떤 사람의 손에서부터 어떤 사람의 손으로, 무슨 목적으로, 그리고 얼마나 험한 대화 속에서 건네졌는지, 그건 이미 여러분께서도 충분히 알고 계시기에 듣는 것도 보는 것도 질렸으리라 여겨지므로 자세히 말씀 드리지는 않겠습니다만, 짐승처럼 변해있던 것은 군벌(軍閥)이라 일컬어지는 집단들만은 아닌 것처럼 제게는 보였습니다. 그것은 또한 일본 사람들에게만 국한된 것은 아니라, 인간성에 관한 일반적인 큰 문제라고 생각됩니다만, 오늘 밤 죽을지도 모른다는 상황에 빠지면 물욕도 색욕도 깨끗이 잊고 마는 것이 아닐까 하지만, 아무래도 그렇지마는 않은 듯, 인간의 목숨은 막다른 길에 빠지면 서로 웃지도 않고 각자 욕심만이 깊어지는 듯합니다. 이 세상에서 단 한 사람이라도 불행한 사람이 있는 한, 자기 자신도 행복해질 수 없다고 생각하는 것이야 말로 진실된 인간다운 감정일 텐데, 자기만, 아니면 자기 가족만이 잠깐동안의 안락을 누리기 위해 이웃을 욕하고, 속이고, 밀어내고, (아니, 당신께서도 한 번은 그런 일을 저질렀습니다. 무의식적으로 하고, 스스로 그 사실을 모르고 있다는 것은 더욱 분노할 노릇입니다. 부끄러워해주세요. 인간이라면 부끄럽게 여겨주세요. 수치를 느낀다는 것은 인간에게만 있는 감정이니까요.) 마치 정말 지옥의 망령들이 치고 받으며 싸움을 하는 듯, 가소롭기도 비참하기도 한 모습만을 보게 되었습니다. 그러나 저는 이처럼 밑바닥 신세로 생활하면서 한 두 번 정도는, 아아, 태어나지 말았을걸 하고 생각해본 일이 없는 건 아닙니다. 지금은 이렇게 지쳐있어 저 자신이 어디에 있는지조차 짐작할 수 없을 정도로, 마치 노망이라도 든 것처럼 되고 말았지만 그래도 지금까지 잊지 못할 즐거운 추억도 있습니다. 그 중 하나는, 제가 동경에서 기차로 서너 시간이면 갈 수 있는 작은 도시까지 뒷거래상을 하는 할머니에게 이끌려 갔을 때의 일인데, 여기서 그 때의 일을 잠시 말씀 드리겠습니다. 저는 지금껏 여러 뒷거래상에서 뒷거래상으로 떠돌아다녔지만 아무래도 여자가 하는 뒷거래상이 남자가 하는 가게보다도 저를 두 배나 요긴하게 사용하는 것 같았습니다. 여자의 욕심이라는 것은 남자보다도 매우 깊은 듯합니다. 저를 그 작은 도시로 데리고 간 할머니도 보통 인물이 아닌 듯, 일반적으로 뒷거래 시세는 포도주 한 되에 50엔이나 60엔 정도였다는데 이 할머니는 가까이 다가가서 소곤소곤 대면서 오랫동안 버티고는 가끔 엉큼하게 웃거나 해서 결국 저 한 장으로 네 되를 손에 넣고는 무겁다는 표정도 짓지 않은 채 등에 지고 돌아갔는데, 즉 이 뒷거래상 할머니는 수완 하나로 맥주 한 병이 포도주 네 되, 조금 물을 섞어서 맥주병에 넣으면 스무 병 정도가 되겠지요. 아무튼 여자의 욕심은 한도를 넘어서 있습니다. 그래도 그 할머니는 조금도 기뻐하지 않은 채, 정말 형편없는 세상이 되고 말았다며 심각한 얼굴로 넋두리를 하고는 돌아갔습니다. 저는 포도주 뒷거래상의 큰 지갑 속으로 들어가게 되고, 잠시 졸고있자 금새 끄집어 내어져, 이번에는 마흔 가까운 육군 대위 손으로 넘어가게 되었습니다. 이 대위도 또한 뒷거래상과 한 패처럼 보였습니다. ‘호마레’ 라고 하는 군인전용 담배를 백 까치(라고 그 대위는 말했다고 하지만, 나중에 포도주 뒷거래상이 세어보니 86까치 밖에 없었다며, 사기꾼이라고 그 주인은 매우 분개했습니다) 아무튼 백 까치 있다고 하는 종이봉지와 맞바뀌어 저는 그 대위 바지 주머니 속으로 쑤셔 넣어지고, 그날 밤 동네 변두리 지저분한 식당 이층까지 함께 가게 되었습니다. 대위는 술고래였습니다. 포도주의 브랜디라는 희귀한 음료를 조금씩 마시고, 그리고 주벽도 안 좋은 듯, 술 따라주는 여인에게까지 집요하게 호통을 칩니다.


 “네 얼굴은 어떻게 봐도 어우로 밖에는 보이질 않아. (여우를 ‘어우’라고 발음합니다. 어디 사투리일까요) 잘 기억해 두라구. 어우 상판대기는 입이 뾰족하고 수염이 있어. 그 수염은 오른쪽에 세 개, 왼쪽에 네 개. 어우의 방귀라는 건 끝내준다구. 그 주변 일대에 누런 연기가 모락모락 나고 말이야. 개는 그걸 맡으면 빙글빙글 돌며 철퍼덕 쓰러지지. 아냐, 진짜라니까. 네 얼굴은 누렇지. 이상할 정도로 누래. 너는 자기 방귀 때문에 누렇게 물들어 버린 게야. 아이구, 구려. 알고 보니 너, 했구만. 아니, 분명해. 아무리 그래도 그렇지, 이건 실례 아닌가. 감히 군인 코앞에서 방귀를 뀌다니 몰상식한 것도 유분수지. 난 이래 봬도 신경이 예민하다구. 코앞에서 어우가 방귀를 뀌어대니 도저히 참을 수가 없다” 라며, 그야말로 저질스러운 말만 심각하게 소리치며, 아래층에서 갓난아기의 울음소리가 들려오자 재빨리 알아채고는 “시끄러운 놈이구만. 흥이 깨져. 난 신경이 예민하다니까. 깔보지 말라구. 저건 네 새끼냐. 그것 참 묘하군. 어우 새끼도 사람 새끼처럼 울다니, 놀랍구만. 그런데 넌 괘씸하잖나. 애를 데리고 이런 장사를 하다니 말이야. 너같이 주제파악도 못하는 치사한 여자들이 많기 때문에 일본은 고전하고 있는 거라구. 넌 게을러 터지고 멍청하니 일본이 이길 거라고 생각하겠지. 바보, 멍청이. 이것 봐. 이미 이 전쟁은 볼장 다 봤어. 어우와 개야. 빙글빙글 돌고는 철퍼덕 쓰러지는 꼴이지. 이길 리가 있나. 그래서 나는 매일 밤 이렇게 술을 푸고 여자를 산다 이거야. 나쁠 거라도 있나?”


 “나뻐.” 라고 술 따르던 여인은 얼굴을 창백하게 하고는 말했습니다.


 “여우가 어쨌다는 거야. 싫다면 오지 않으면 그만 아니야. 지금 일본에서 이렇게 술 퍼 마시고 여자한테 까불고 있는 건 너 같은 놈들 뿐이야. 네 월급은 어디서 나오지. 생각해봐. 우리들이 번 돈은 대부분 나라에 바치고 있다구. 나라에서는 그 돈을 너희들한테 주고, 이렇게 요정에서 먹여주고 있어. 깔보지 마. 여자인걸, 아이도 생긴다구. 지금 갓난아기를 데리고 있는 여자는 얼마나 고생하고 있는지 너 같은 놈들이 알 리가 없지. 우리들 젖에서는 이제 한 방울도 젖이 안 나와. 텅빈 젖가슴을 쭉쭉 빨고는, 아니, 이제 요즘은 빨 힘조차 없다구. 좋아, 그래. 여우 자식이야. 턱이 튀어나오고 주름이 가득찬 얼굴로 온종일 깩깩대고 울고 있지. 보여주랴. 그래도 우리들은 참고 있다구. 그런데 네가 무슨 상관이야” 라고 말하려던 차에 공습경보가 울리고는, 거의 동시에 폭발음이 들려와 그 쿵쿵 슉슉 거리는 소리가 시작하고 방안 창호지가 붉게 물들었습니다.


 “아이쿠, 왔군. 결국 오고야 말았어.” 라고 소리치며 대위는 일어섰으나 브랜디에 매우 취한 듯 비틀거립니다.


 술 따르던 여인은 새처럼 재빨리 아래층으로 내려가서는, 이윽고 갓난아기를 업고 이층으로 올라와, “자, 어서 도망 갑시다. 어서요. 앗, 위험해요. 정신 차리세요.” 마치 뼈가 없는 사람처럼 흐느적거리는 대위를 뒤에서 끌어 일으키고 걷게 해서 아래층까지 내려주고는 신발을 신기고, 그러고서 대위 손을 잡고 인근 신사(神社)까지 도망친 후, 대위는 거기서 벌써 큰 대자로 뻗은 채 하늘에서 들려오는 폭격소리를 향해 무언가 큰 소리로 욕을 하고 있었습니다.


 “정신 차려요. 군인 아저씨. 조금 더 저 쪽으로 도망 쳐요. 여기서 개죽음 당해봤자 소용없잖아요. 갈 수 있는 데까지 도망 치자구요.”


 인간의 직업 중에서 가장 밑바닥 장사를 하고 있다는 소리를 듣는, 이 검푸르고 마른 부인이, 제 어두운 한 평생에 있어서 가장 훌륭하고 눈부시게 보였습니다. 아아, 욕망이여 가라. 허영이여 가라. 일본은 이 두가지 때문에 진 것입니다. 술 따르던 여인은 아무런 욕심도 없이, 그리고 허영도 없이 그저 눈앞에 취해 쓰러진 손님을 구하려고 혼신의 힘을 다해 대위를 일으켜 세우고는 끌어 안은 채 비틀거리며 논밭 쪽으로 피합니다. 도망친 직후 신사은 온통 불바다가 되고 말았습니다.


 쌀 수확을 한 직후의 밭에 그 만취한 대위를 끌어들이고는 조금 높은 뚝 그늘에 누위고서 술 따르던 여인 자신도 그 곁에 털썩 주저 앉아 거친 숨을 내쉬고 있었습니다. 대위는 이미 버렁버렁 코를 곱니다.


 그날 밤 그 작은 도시는 구석구석까지 불에 탔습니다. 새벽녘, 대위가 잠에서 깨어나서는 아직도 불타는 모습들을 멍하니 바라보고, 문득 자기 곁에서 꾸벅꾸벅 졸고 있는, 술 따르던 여인이 있는 모습을 보고서 왠지 매우 당황한 듯 일어나 도망치듯 대여섯 걸음 걷고 나서, 다시 되돌아와 윗도리 안주머니에서 제 친구들인 100엔 지폐를 다섯 장 꺼내고, 그리고는 바지 주머니에서 저를 꺼내어 여섯 장을 포개어 둘로 접고, 그것을 갓난아기 속옷 밑으로, 등허리 살 위에 깊숙이 집어넣고서 거칠게 뛰어 달아났습니다. 제가 스스로 행복을 느낀 것은 바로 이 때입니다. 화폐가 이렇게 쓰인다면 정말이지 얼마나 저희들은 행복할까요. 갓난아기의 등허리는 매우 건조했었고, 그리고 살이 말라 있었습니다. 그래도 제 친구인 지폐에게 말했습니다.


 “이렇게 좋은 곳은 없어요. 우리들은 정말 행복해요. 언제까지나 여기 있어, 이 갓난아기 등허리를 따뜻하게 해주며 살 찌워주고 싶어요.”


 친구들은 모두 하나같이 고개를 끄덕였습니다.




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Posted by 문학관 관리인 위어조자(謂語助者)


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